無表情
時折かかってくる数少ない友人からの電話。向こうが元気な様子を電話で知ることが出来るというのは会う手間も省けるというもの。
ただ、今じゃなくていい。なぜならこの電話は軍事回線。仕事中だからだ。
用件はあるのやらないのやら。聞き慣れた家庭自慢を延々と聞かされ揚句の果てには…
《だからお前も早く嫁さんもらえ》
やかましい!と電話を切ろうとした寸でのところでロイは思い止まる。
ガチャンッ!と勢いよく電話が切れると思っていたヒューズはなかなか訪れないそれに首を傾げた。
《おい、ロイ?》
「ヒューズ、一つ聞きたいことがあるんだ」
《あ?なんだよ》
「一年前にお前の補佐官になったという…」
《エナン・ガーネットか?》
「あぁ」
《なんだあいつを嫁にする気か?》
「ちがう!そこから離れろ!」
《じゃあなんだよ》
また訪れる沈黙。ロイは受話器を持ち替えずっと聞きたかったことを口にする
「……何故今だ大尉という地位にいる?」
もちろん大尉だって十分な地位だ。通常の軍人だったらそのような言い方はしない。
ただ彼女は国家錬金術師だ。
もともと少佐相当官という地位がある。
彼女が17歳で国家資格をとった時、少し騒がれた理由はそこにもあった。何故か一つ下の階級になることを志願したのだ。
そう彼女はずっと大尉のままだ。
それにあの北方司令部から更に北のブリッグズ要塞に居たにも関わらず次に配属されたのは戦闘を要する部所ではなく軍法会議所だった。
実際北方で行った合同演習時の彼女の指揮ぶりは目を見張るものがあった。十分、少佐以上の価値がある。それに少佐相当官だって実際には大尉と同じ権限しかないのだ。なのに大尉にこだわる理由がなんなのかロイには不思議だった。
《“こんな小娘に敬語を使い、階級付けで名前を呼ぶのは癪でしょう”だそうだ》
「…………なんだそれは」
《無茶苦茶だろ?あいつこの話しするとすぐはぐらかすんだよ》
変わった奴なんだとヒューズは付け足した。
《で?》
「で、とは?」
《本当に聞きたいことは別にあるんじゃないのか?》
「……っ……」
見抜かれていた。少し間を置いて、また受話器を持ち替える。瞳を揺らし少し躊躇しながらもゆっくり、重い口を開いた。
「……似てないか?」
床を見つめ、少し声を抑えての言葉だった。
《……………》
ヒューズは黙った。もちろんロイだってこの話しを切り出すのにはそれなりの葛藤があったがこの沈黙はさすがに堪え難かった。掻き立てる不安に勝てず急かすように呼んだ
「ヒューズ?」
《お前も…そうおもったのか?》
ロイの目つきは変わる。人目を気にするように壁側を向く
「どうゆう意味だ」
《俺もな、そう思った。あいつを引き抜くきっかけになったのもそれだしな》
「おまっ、ちゃんと身元調べたのか?」
《当たり前だ》
「出身地は?」
《東部だ》
「東部?東部のどこだ」
《かなり外れにあるらしくてな。地図にも載らない小さな田舎だ》
「なんて、名前だ」
《“ルクタール”ってとこだ》
「聞いたことないな…」
《調べたら内乱の時、イシュヴァールと近かったせいで焼き払われてたよ》
内乱後、荒地と仮したその町はとても住める状態ではなかった。
人口も少なかったため、そのままイシュヴァールの地と共に封鎖されていた。
「……故郷がないのか…?」
《あぁ》
履歴書の写真を見たときは何となく昔の友人に似てるな、と思った程度だった。
だが実際に会って、違った。
雰囲気が、そのままだった。
それは鳥肌が立つほど。
思わず呼び止めてしまうほど
《まぁこの一年エナンを見てきたが、性格は真逆な奴だよ》
笑えるくらいにな、とヒューズは笑った
もともと中性的な顔をしていた彼。しかしエナンは女だし、似ているのはあくまで顔と雰囲気だけ。瞳の色は黒ではなく青色であった。実際話してみれば声も性格も違った全くの別人なのだと、諦めがついた。
どこか避けていた彼の話しを何年ぶりぐらいに口にしただろう。思い出される酒場風景。よくそこで朝まで飲んで理想を語り合って、喧嘩したものだった
《三人でよく青臭い話をしたよなぁ》
同じ光景をヒューズも思い出していたことにロイは微笑を浮かべる。
「あぁ…本当に…」
瞳を閉じて、彼女とすれ違ったあの日を思い返す。
「…ヒダカに、よく似ている」
終わり
更新日2011.2.9
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