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全ての作業を終えて翌日の仕込みをしていると食堂のドアが控えめに開かれた。こんな時間に利用する人も居るのかとナマエは芋の皮を剥いていた手を止める。


「驚いたな…まだ仕事をしていたのか」

「明日の仕込みを少し…、」


顔を出したのは金髪で背の高い男だった。たしか朝、食堂に来ていた気がする。
男はエルヴィンと名乗った。ナマエの事情を知っているらしく祖母の具合を心配されたが母が家を出たのは昨日で、手紙も何も来ていないためわからない。その通りに説明すると何だか申し訳なさそうに謝った。


「…その、何か…食堂に用事?」

「あぁ、お茶をいれようと思ったんだがお湯がなくてね」

「それなら私が淹れる、ます…よ。同じ作業ばかりで疲れてたか…ので」

「それじゃあお願いするよ。それと、君の話しやすいようにしてくれて構わないよ」

「あ、ありがとう。実は敬語苦手で…」


ナマエが水の入ったポットを火にかける。エルヴィンは適当な椅子を引いて腰かけその姿を観察するようにじっと見つめていた。


「…あの、聞いてもいい?」

「何だい?」

「…ここの、団長さんってどんな人?」


沈黙に耐えきれず、と言うのもあるが前々から気になっていたことをこの機会に聞いてみようと思った。ちら、とエルヴィンを見ると驚いたような、困惑しているようなよく分からない顔をしている。


「どんな、…か。難しいな」

「そうだよね。ごめん。…私ね、普段はあんまり家の外にでないし、あなたたちが壁外に行くときも見送りしたことないから団長さんの顔も知らないんだけど…、あぁ、別に批判してる訳じゃないよ。むしろ逆って言うか…その、もし団長さんと話すときあったらさ、頑張ってって伝えてよ。みんな結構いろんなこと言ってるけど、応援してる奴も居るから、って」

「…わかった。必ず伝えよう」

「ありがとう。あ、お湯沸いたね。…じゃあ、私もそろそろ帰るよ」

「今からか?では家まで送るよ」

「すぐそこだから大丈夫。それよりそれ、冷めないうちに持っていった方がいいんじゃないの」


ナマエはお湯の入ったポットを指差しけらけらと笑うとランプを消した。


「じゃあね」

「あぁ…明日も、来るのか」

「あー、うん。多分1週間くらいは来ることになるんじゃないかな。もしかして母さんに何か用事?」

「いや、良いんだ。気を付けて帰るんだよ」

「うん。じゃあ、また明日」


ひらりと手を降ってナマエは裏の扉から出ていった。エルヴィンはその扉をしばらく見つめたあとようやくポットをもって歩き出す。その口元はゆるやかに弧を描いていた。