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ナマエの予想通り、それから1週間ほど兵団へ通う日が続いた。母は帰ってくると翌日には仕事に行くと言うのでナマエの役目はここで終わりだ。ようやく仕事にも慣れ兵士たちとも普通に話せるようになったところだったのに。そんな、少し残念さにも似た思いを抱いたまま仕事へ向かう母を見送った。

いつもの生活も決して嫌ではない。うちには父親がいないから母がお金を稼ぎ、ナマエが家事と歳の離れた弟の世話をする。裕福とは言えないけれどありがたいことに3人で暮らせるだけの給料は貰っているから、ナマエは今まで近所の店の手伝いぐらいならしたことはあってもきちんと定職についたことがないのだ。


「(1週間…楽しかったな…)」


また祖母が体調でも崩さない限りナマエが兵団へ行くことはないだろう。でも祖母ももう歳だし、もしかしたらまた近いうちに…、とそこまで考えてナマエは勢いよく頭を振った。なんて最低なことを考えているのだ。人の不幸を望むなんて最低だ。心の中で祖母に謝りながらナマエは部屋の掃除に取りかかった。





「あんた、兵団で一体何してきたんだい」


帰ってくるなり母は怪訝な顔でナマエを問いただした。何のことかと首を捻ると目の前に1枚の紙を差し出され、それを手に取り書かれている文字を目で追っていく。どうやら団長から直々に渡された手紙のようだった。調査兵団の調理員としてナマエを正式に雇いたい。詳しい話をしたいので兵団に来てほしい。そんな内容が書かれていた。


「……え、何…これ?」

「それはこっちが聞きたいよ。たった1週間の間になんでそんなことになってるんだか」

「私は…言われたことをやってただけだよ」


そうだ。この1週間普通に仕事をしていたはずだ。母と同じように料理を作っていただけ。何も特別なことはしていない。


「とにかく明日、一緒に兵団に行くからね」

「…うん」


ナマエは不思議と高鳴る胸を押さえるように手を当てた。今夜は眠れないかもしれない。そんなことを思いながら。