相手が悪かったね

 緩やかなウェーブを描くオイルイエローの三つ編みが風に揺れている。
 もう大分見慣れた後ろ姿に声を掛けようとしてあることに気が付き、止まる。オリヴィアは一人でそこに立っているのではなかった。その頭ひとつ分という距離で、赤い裏地のローブを羽織る男が身振り手振りで何やら一生懸命話し聞かせている。彼の耳先は赤く染まり、時々声の調子を外したりなんかもして、傍目から見て彼が彼女に対して気を持っているだろうということは明らかだった。一方彼女の方はというと普段通りのハッフルパフ生らしい無害で誠実そうな笑みを浮かべ、時折彼の言葉に相槌を打ちながらじっと話を聞いている。
 二人の元にゆっくり近づいて行く。その顔には見覚えがあった。先日決闘クラブのトーナメントに彼女とペアで参加した際に負かした相手の一人で、一学年上のグリフィンドール生だ。試合後声を掛けてきたは良いが、やたら彼女の杖捌きが滑らかで見事だっただの呪文の組み合わせ方が素晴らしいだのと、否定はしないものの傍らで見ていて辟易するほどの熱量で褒めちぎっていたのだ。彼を伸した張本人である自分を差し置いて。そのあからさま過ぎる態度に、次の試合について案内に来たルーカンも「彼は君にベタ惚れみたいだね」などと言って笑っていた。その時の彼が今度は自分の知らぬところで彼女とお近付きになろうとしているのだと思い至れば、最早不機嫌さを隠す必要性も感じない。眉間の皺は深くなる一方だ。彼ははそんな決して好意的ではない表情を浮かべるスリザリン生が自分達の元に向かってこようとしている様を目に留めて、先程まで上向きだった口角を真横に引き攣らせている。しかし肝心の彼女の方は此方に背を向けたままで振り向く気配すらない。
「どうもお楽しみのところ申し訳ありませんが、既にこの後の彼女の予定は埋まっているのです」
 表面上はあくまで丁寧に。ここにきて漸く僕の存在に気が付いた彼女はびくりと肩を跳ねさせる。
「あれ、セバスチャンどうしたの?」
 はてさて何か約束があっただろうか。記憶を辿ってみても思い当たる節もない。そんな分かりやすい表情を浮かべながら彼女は首を傾げる。疑問を抱きつつ此方を見上げるその双眸は、決闘の時の様な鋭さはどこへやらといった様子で警戒心の欠片も感じられない。しかし呑気な言葉を発する彼女とは裏腹に、邪魔が入った事が気に入らないらしいグリフィンドール生は眉を寄せあからさまに不機嫌そうな顔をしている。先程までの自分を鏡で見ているかのようで、幾分か気分が晴れる。彼女の反応からして先程の僕の言葉が嘘であることは彼も分かりきっていることだろう。
 けれど己がそれに態々触れてやる必要もない筈だと知らぬふりを決め込んで、もう其方を振り向きもしてやらない。彼女と自分以外の誰かのキューピッドになってやるつもりは毛頭ないのだ。
「というわけですから、そろそろ失礼しますね」
 彼女がこれ以上何か余計なことを言い出す前にぐいとその肩を己の方に引き寄せ方向転換すると、さっさと歩き始める。突然のことに別れの挨拶すらしていないと戸惑った様子の彼女の声にも、今回ばかりは聞こえないふりをした。


お題元:140文字SSのお題より「相手が悪かったね」








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