答えられない

「セバスチャンって好きな人いるの?」
 まるで夕飯のメニューでも尋ねるような軽快な調子の声が鼓膜を揺らす。追っていた文字から顔を逸らし声のした方を見上げると、蜂蜜の双眸とばっちり合わさった。図書館の二階、知識の遅れを取り戻したいなどと言うオリヴィアに付き合い、図書館にある中で参考になりそうな本をかき集めた後、ひとつのテーブル席を彼女と二人で陣取っている。二人で肩を並べて、頭を越える高さにまで積み上げられた本の山では向かいに誰が座っても見えないが、今のところ自分たちに同席しようとする者は誰ひとりとして居なかった。ただ、時々司書のスクリブナーだけが、子ども達の安否を確認するように近くを通り過ぎる。今も己の口から思いの外大きな声で、は、と溢れた音を咎めるように、去っていく彼女の背中越しに咳払いが返された。
 時折分からない言い回しや用語が出てきた時にその意味を尋ねてくることはあっても、オリヴィアが勉強の面においてに大きく躓いている様子はない。そもそも今の彼女に、図書館に籠る必要があるほどの遅れなどあるだろうか。
 そんな中突然投げ掛けられたおよそ勉強とは程遠い質問。彼女の真意を探ろうとじっと見つめ返してみても、当の本人はただ健気に僕の返答を待ち続けている。
「女の子同士じゃあるまいし」
 呆れたように言うと、オリヴィアはいったいなんの問題があるというのかとでも問いたげに笑みを深めるのみだ。そこに好奇心以外の感情を見つけられない。
「はあ、勉強をしに来たんじゃなかったか?」
 そう悪態を吐いても「おかげさまで大分進んだし、ちょっと休憩だよ。世間話。ね、いいでしょ?」とまで返されてしまえば、確かにいい頃合いかと同意せざるを得ない。だからといって彼女の話題選びには疑問が残っているけれど。
 僕が本から彼女に視線を移した時、あからさまに顔を逸らされたりはたまたその頬や耳の端を赤く染めていたりなどすれば、もしやと思うことができたのに。彼女はそんな淡い期待のひとつも抱かせてくれない。内心溜め息を吐きたくなるのを堪え、「さあね」と一言言うと、この話はこれで終わりというように手元の本に視線を戻した。

お題元:140文字SSのお題より「こたえられない」








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