ご馳走様でした
暖かな陽の射し込む窓辺に座りレモンシロップのたっぷり染み込んだケーキを食べていると、目の前を見知った顔が通り過ぎて行く。そのまま背中を見送ろうとすれば、その人影はくるりと此方を振り返って「相変わらずだな」と笑い掛けてきた。「まあね」と此方も笑みを返す。私の甘いもの好きは、セバスチャンだけでなく最早ホグワーツ中が知っていると言っても過言ではないかもしれない、なんて。
「さっきまで頭を働かせてたの。甘いものでしっかり休ませてあげないと」
そんな決まり文句を言いながら、彼の視線が己の手元のケーキに注がれている事に気が付く。空いている方の手で傍らの箱を掲げ「まだあるよ」と示せば、彼のけらけらと軽快な笑い声が廊下に響く。
「まさか君のものを取ろうなんて考えてたわけじゃないけど、いい匂いだな」
「美味しいよ。我らがホグワーツの食を司るしもべ妖精お手製ケーキだもん」
へえ、と相槌を打ったセバスチャンは「じゃあ折角だから」と言って笑みを深めると更に此方へと歩みを進める。しかし近付いてくる彼は己の差し出した腕を過ぎて、その吐息が頬に触れた。何をされたのか分からないほど間抜けではないけれど、あまりにも想定外の出来事に肩を跳ねさせ、その拍子に折角のケーキを手落としそうになる。
「おっと、折角のケーキがもったいない」
いったい誰のせいだと思っているのか。彼は素知らぬ顔で落ちそうになったケーキを私の手ごと包み込んだ。驚きで吊り上がった肩はそのままで、耳の先っぽから熱くなってくる。顔を動かすこともできない私は視線だけで手元を伺おうとしたが、その様子すら面白がってくつくつと喉を鳴らすように笑う彼の声がすぐ耳元に響いてそれすらも叶わない。
「ごちそうさま」
瞬きも忘れ、まるで石像のようになってしまった己の手からケーキがひとつ消える。彼は鼻歌でも歌い出しそうな軽い調子でそんな私のことを置き去りにして行った。
お題元:140文字SSのお題より「ご馳走様でした」