その夜は、母様と久しぶりに過ごした。
「全くなんじゃ、あの男は」
「そう怒らないで。仕方ないよ、太宰さんだって手が欲しいんだもの」
五体を削がれた訳じゃない。この場に居れば、これぐらいの傷は当たり前。
「お前もお前じゃ」
母様が淹れてくれたお茶。久しぶり。とても落ち着く。
「全く、過ぎたことに文句は云わぬ。もう少し自分の体を大事にせんか」
「今回のは、本当に気付かなかったの」
「迂闊すぎるわ。死ななかった事を喜ぶしかなかろう」
「もっと深かったら本当に死んでた」
きっと市街地で威力偵察をしていたとき。何か目眩がした瞬間。
「でも、もう平気」
お腹の縫痕。それも大好きな彼が縫ってくれたの。
「太宰が迎えに来るまでゆっくり休め。風呂にもゆるり入って無かろう」
その言葉に頷いて、風呂に入る。全身を眺めてみる。傷と徴が混在する身体。鏡を見て気付いた。どの傷も、上から紫斑。事の最中、身体を舐め回っていたのは此れか、と合点がいった。傷にでも嫉妬したのか。言葉通り、お湯が腹に染みる。一応、森先生に診てもらった方が佳いかな。けれど、此の傷は、此のままにしておきたい。
ゆっくり湯船に浸かると、走馬灯のように思い出される此の数日。あまりにも怒濤だし、あまりにも太宰という男の本質に触れてしまった気がする。本質、というのは少し云い過ぎかもしれない。確かに、彼の内側を形成する“何か”は垣間見えた気がする。けれどそれが、本心なのか、悪戯に見せた別のものなのか、私になんて到底理解し得ない。銃口を向けるミミック兵に吸い寄せられる様に懇願をした時。絞り出すように懇願していた。「頼むよ」と。あの顔がどうしても離れない。「迫真の演技だったろ」と云いながら、どこか期待の外れた顔。そのあとの、弁明でもするように捲し立てて云った言葉。死に焦がれながらも、生を求める。情事を終えた後の、慈しむ、とでも云えそうな顔。
上がると、母様が冷たいお茶を出してくれた。
「今回の事件、いつ終わるのかな」
「分からぬ。敵が殲滅されれば、だが長引きそうじゃのう」
「早く終われば佳いのに」
早く終わって、また太宰さんと過ごしたい。少しは、恋人みたいな事、してみたい。
「終わったところで、次の何かがある。休みは無いであろ」
「そうだねぇ……」
今回の抗争が終結したら、その分の損失を補填する。そして凍結している事業の再開。休まることはない。
「今のうちじゃ。寝溜めでもしておけ」
「そうする。おやすみなさい」
布団に潜り込む。柔らかい。こうしている間も、太宰さんは事件を追ってる。忍びない気もするけど、今は休息が命令。ふわり、何かに頭を撫でられる。
「おやすみ、卯羅」
おやすみなさい、太宰さん。