わな

詩音ちゃんに色仕掛けを教えてみたけれど、難しかったかしら。
「ただいま」
「遅い」
執務室に戻ると、太宰さんの御機嫌は斜め。長椅子で資料を眺める彼の隣に座って、ごめんなさい、と声を掛ける。
「あの子も世話係が付いたんだ、放っておきなよ」
「女同士でなければ教えられないこともあるのよ」
「例えば?」
資料から目を離さず問う。
少し近寄り、膝を付け合わせ、彼の大腿を指先でなぞる。それから耳元に口を近付けて、囁いた。「こういうこと」
すると彼は、持っていた資料を投げ捨て、私を長椅子に押し倒した。
「君、他の奴らにこういうことしていたの?」
「偶にね」
女なんてそんなものでしょ?そういうものでしょ?
男が入り込めない隙間に入り込んで情報を盗り、手玉にするのが女の役目でしょう?
顔が明らかに「気に入らない」と語る太宰さん。頬を撫ぜ唇を誘えば、眉間の皺が濃くなった。
「卯羅ってさぁ、自分のこと、何も知らないよね」
「どういうことよ」
「男から見たらどう見えているか教えてやろうか」
噛み付くように耳元で唸る彼。
「知ってる、って云ったら?」
私の肩を抑えていた彼の手が、頚へと回った。ぎりり、と締め付けられる感触。
「私以外の男の事か?」
明らかな嫉妬だった。詩音ちゃんに向けるそれとは違って、獣が気に入った雌を争う為に奮う嫉妬。「卯羅、僕のこと、嫌い?」
「いいえ」僅かに発せた声といくらか霞んだ意識で答えた。
寧ろ愛おしい。きっと貴方はその感情を怒りだと定義するでしょうね。
「君には僕だけが意味を与えられる」頚にある感覚が軽くなった。「そうだろう?君は僕が意味をあげる」代わりに身体の芯に中る熱。一度知ったら勝手に求めてしまう感触。私は進入を許すことを示すため、彼の熱に触れた。
「……嫌な子」
「貴方のお世話係だもの」





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