出張

「……そうだ、居ないんだった」
帰宅しても、家が暗いからふと疑問に思ったが、そうだ、卯羅は出張だった。北方への進出を目論み、姐さんと一緒に、企業との会合。首領が私と卯羅を離して仕事をさせるのは珍しい。大方、姐さんが私との関係に口を出したのだろうけど。
確か戸棚にスウプの缶があるって云ってた。これか。鍋にあけて、牛乳入れるんだ。へえ。この缶で計量できるんだ。ふうん。火に掛けて温めたら終わり。これで善いや。
読みきらなかった資料を読みながら、夕飯。無音だなあ。卯羅が居ないってこんなに静かなんだ。こんな事なら、織田作たちと呑んでくれば善かった。
食器を片付けて、シャワーを浴びて、寝台に寝転ぶ。一人にしては随分大きい。掛け布団の上に置かれた、彼女の寝間着を、彼女の枕の上に移動する。どうせ寝付けないのだから、また資料を。明日の行程どうなってたかな。
慣れない広さ。どうしても彼女一人分開けてしまう。連絡、してみようかなぁ。いや、姐さんが出たらどうする?卯羅の事だから、掛けてくるだろう。
そら、掛かってきた。
「もしもし?」
『太宰さん、ごめんなさい。起こしたかしら』
「起きてるも何も知ってるだろうに」
『そうね、そうだったわ。一応ご報告をと思って』
「姐さんの事だ、意にそぐわなかったら、ド派手に壊すのだろうね」
『かもしれないわね。表向きの合意は取れそう』
「ということは、裏がある」
『お見通しでしょ?』
「簡単な事だよ。あいつらは私たちを売れば自分達が巨万の権利を獲られると思っている」
『でもそれを止めるのが太宰さんでしょ?』
「退屈な奴らばかりだよ。一遍通りの考えしかなくて」
後ろから「もう休むぞ」と声がした。それに、はぁい、と答えた子。もう寝てしまうんだね。
「卯羅、最後に一つ」
『なあに』

とびきり小さな声で。それでも君は顔を赤くして、喜んでくれるんだろうね。可愛いお顔が目に浮かぶ。
「くれぐれも気を付けるんだよ」
『太宰さんもお利口さんで居てね』
釘を刺して、通話を切る。
携帯を枕元へ放り投げ、溜息一つ。
まだ一日なのに。
会いたくて仕方がない。
彼女の寝間着を抱きしめて、なんて女々しいが、矢張いつもよりも広く空いた空間が落ち着かない。





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