「───お前達は賢治と谷崎を捜せ。それでようやく探偵社だ」
持っていた短刀を落とした。
足りない。足りないよ。一人足りないの。気付かないのかしら。
連れてきてくれた、坂口さんが私を見てる。愕然としたような、焦りを抑えられない表情が、画面の端に映る。
「卯羅さん!善かった、無事だったんですね!」敦くんが、ぱっと明るい笑顔で声を掛けてくれた。
私なんか、善いの。どうでも善いの。
嗚呼───ここでもそうなんだ。結局、何処行ってもそうなんだ。
「卯羅、あんた何処に今まで」
与謝野先生が伸ばしてくれた手を、思い切り払った。部屋の空気が凍った。
「善いの、もう、善いの」
「卯羅さん……その外套……」
「真逆お前、マフィアに降ったのか?」
「国木田さん、そうではありません、この外套は……」
「坂口さん、善いんです。戻ります、もう、戻ります」
扉に手を掛けた。此処から出たら、私はまた、あの世界に足を踏み入れる。怖くはない。だって居場所だから。
「卯羅さん、どちらへ」敦くんが私に手を伸ばした。拒むように松虫草を撒く。
「私はもう戻らない!治さんが帰ってくるまで、もう、此処には戻らない!世界なんて勝手に滅べば善いじゃない。私には治さんしか居ないの、あの男が居ない世界なんて、そんなの……」最後に見た優しい笑顔。大丈夫、と云ってくれたの。だから「異星人だろうが、怪物だろうが何でも善い……私には、唯一の愛した人なの。喪いたくない凡てなの!」
この外套を着て、行くところは一つ。何度も包まれ、隠された黒外套。仄かに残る彼の面影。
部屋を出ると、一台の車。出てきた人の手を取り、乗り込む。
「お待ちしておりました。尾崎卯羅 元幹部秘書殿」
「広津や、改まり過ぎて卯羅を脅すでない。卯羅や、泣いて居られるのは今だけじゃ。存分に泣け。そうして、気が済んだら阿呆な義息子を救いにでも散歩がてら行くかのう」