床事情

雑談の内容も尽きてきた。尽きるというより、飽きてきた。そうだ、この方法を使えばどんな話でも出来る。例えば、安吾の預金口座の暗証番号を教えることも、録画機の向こうに居る看守の性癖をバラすことも可能だ。
「此処でうきうきお悩み相談会第二回といきましょうか」
「うきうきって云いたいだけだろう君」
「ぼくの部下は、一応貴方の奥方と同じ日本人です。ですが、ぼくは生憎、日本人の床事情を知りません」
「成程。なら利害が初めて一致したよ。私も妻とのそれに慢性化を感じていてね。いや、飽きたと云うわけでは無くて、大半の事はやり尽くしたかなと」
本来であれば一番避けたい利害の一致だ。意味が不明だ。何故其処まで似る。
「とはいえ、家内と鼠じゃあ体格に差があるから、参考になるか不明だけどね」
「あの子の具合もなかなかに最高ですよ。余計な凹凸がありませんから、抱き合った時により近く感じられます」
「へえ。密着度と云うのなら、家内と抱き合った時の圧はそそられるよ。実に女性らしい肉感的な体つき。一度太腿に腰を絡め取られてみると善い。軟らかな圧が見事だ」
正常位で交わると、必ず太腿を絡めてくる。その締め付けに愛しさを感じる。本能で搾り取ろうとしているのがよく解る。
「あとは、自ら乳を弄り始めるのも愛らしいよ」
「疑問なのですが、何故彼女たちは同じ事をするのでしょう。うちのは行為中に刺激されれば大きくなるというのを、信じているのでしょうけど」
「家内の場合は私がそう調教した所為で、乳首弄りながら挿入すると、達し易いというのもある。あとね、その安摩、本当に効くよ」
「本人はギリギリ人権がある大きさと云っていますが」
「という事は、Cぐらいか?」
「そんなには無い気がします」
「本当に家内と同い年かい?」
Cなんて多分初対面時の大きさだ。「因みにうちのはG」
「随分育ちましたね」
「揉んだ甲斐があったよ 」
「揉み方は、こう、ですか?」
枕を乳に見立、揉む練習を始めた。
「違うこうだよ。まずは脇下の乳腺から下乳をなぞるように。此処の乳腺は人類共通の性感帯らしい。開発すれば少し触っただけで漏らす程に濡らすよ」
「身体を反らせて達する姿は可愛いものです」
「解っているじゃないか」
腰を高々と持ち上げ背を反らす程にイかせれば、その後は羞恥が消えるのか、これ以上無い程に求めてくる。
「下乳の形に包み込んで、そのまま揺らす。この時に、乳首と乳輪を優しくなぞると、鳴き声が可愛くなる」
「無意識なのでしょうけど、声を抑えるのは、奥方も?」
「うん。まあゆっくり溶かしていく内に、そんな事へ神経回してる場合じゃあなくなるみたいだけど」
「あれを初めて見た時の、支配欲の盛り上がり方といったら」
「同感だね」
口を必死に閉ざして。快を身体に溜め込む様だ。行き場を無くした快楽は涙となって現れ、扇情的に流れ出す。
「露西亜人はどの体位がお好みなんだい?」
「多いのは後背位か後側位ですね」
「矢張後ろからか」
「達する時の無様な顔を見られませんし、なにより後ろから何をされるのか解らない状況で、全神経をぼくに向けている姿が愛らしい」
「嫁は対面座位が好きでね。よくねだるよ」
「何故かうちのは嫌がるのですよ」
「鼠の経歴から察するに、自ら動くからじゃないか?」
「ああ、確かにそうですね」
鼠の過去からして、自分が主体になって男を慰める事はまず難しいだろう。それこそ、理性を泥々に溶かしてやる必要がある。卯羅が積極的なのは、性行為に否定的な意味を感じず、愛する手段だとして捉えているからだろう。
「潮は?」
「まだありませんね」
「あれは浪漫だよ。私をこれでもかと濡らしながら、止められない快に身を委ねるしかない」
「恥じて泣いて、実に可愛らしいでしょうね」
「スポットの少し後ろ辺りが膨張してきたら重点的に攻めてやると善い。簡単に吹く」
「帰ったら試してみましょう」
「帰る?」
互いの口が、歪んだ。嫁に対する愛情ではない。連れ添う女の話ですら表情を変えずに、愛しさを語ったが、盤面の展開に関しては別だ。
今我々が最も楽しんでいるのは、この遊戯だ。
「女王陛下がその御身を使ってまで、我々に立ちはだかるのは不本意では?」
「そうしたら際限無く種を注ぎ込むだけさ。全身舐め尽くしてやる」
「無事に帰れれば、ですがね」
「それは君とて同じだろう?」


「こいつらは何を話しているんだ」
「始終表情は穏やかでしたね」
そんな表情をしてまで何を語るのか。看守達には何も伝わらない。ただ意味の無い言葉の羅列にしか聞こえない。
『早く詩音の温もりを傍に置きたいものです』
『卯羅の愛情に触れたい』
激しく言葉を発する前の、平凡な願いも、誰にも伝わらない。
海と陸とを隔てた処に居る、あの子にも。

誰にも。

誰にも。

誰にも。





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