《太宰治の場合》
「詩音、何をしているんだい?」
「太宰さん……」
「勝手に異能を使うなと云ったろ」
森先生に拾われて、太宰さんの部下と成った。
私の異能は、異能力で生み出した動物との視界共有を行う。勿論、動物自体に攻撃力も備わる。
「ただでさえ君の異能力は目立つんだ。気をつけておくれ」
「太宰さん、でもね」
探したいものが在るんだ。マフィアに入れば、其れは見つかると、森先生は云った。
「またその話かい?いい加減にしなよ。見つからないものは、必要ないんだよ。必要ないから見つからない。違うかい?」
「そう、なのかな……」
違和感が拭えない。頬に伸ばされた太宰さんの手を払った。
「君は本当に警戒心が強いね」
「だって」
このまま、その要求に応じたら、私はあの女と同じだ。其れだけは嫌だ。
「次の対象はこいつだよ」
調査対象の簡単な経歴書。私と同い年の女。
「龍頭の時にこいつに手酷くやられた。早く摘んでおかなくては、のちのち我々が不利になる」
「見つけたらどうする?」
「そうだなあ」
善からぬ事を考えているようだった。口が悪魔の笑みを浮かべる。
「地下にでも監禁して凌辱でもしてみるかい?嗚呼、愉しみだね。私の玩具にしてやろう」
捕虜は大概太宰さんに依って壊される。此の女も壊されるんだ。
横浜の海のように深い青の髪。それを映した空のような眼。この女はきっと私と同じものを探している。直感的にそう思った。
《ドストエフスキーの場合》
「どうしたのですか?」
「ドスさん」
子猫よりも惨めに棄てられた私を拾ってくれた人。その人は、魔人と呼ばれていた。
「先の抗争では見事な働きでした。次も期待していますよ」
「うん」
私の異能力は、咲かせた花に触れた相手へ重病を負わせる異能。正直好きではない。
「次の相手はこれです」
淡々と壊す相手を指示される。しくじったら、彼の異能で私が消される。
「貴女と同い年の娘です。異能自体の戦闘力はありませんが、効果は実に厄介です。監視の異能力者です」
「ふうん」
渡された資料。ポートマフィア幹部の右腕。それを壊す。横浜の基盤は着実に傾くだろう。
「壊したら、何をくれる?」
「そうですね……」
ドスさんはふと考えるふりをした。
「貴女が望むものなら何でも」
「本当に?」
「今までに僕が嘘を吐いた事はありますか?」
口車に乗せられたことは何千とあるが、実質的にそれは凡て現実と成った。
「一つだけ訊かせてください。卯羅が本当に望んでいるものは何でしょう」
「……」
きっとそれは、世間が愛と呼ぶものだ。でもそれをこの人が与えてくれるとは思えない。
「解らない。何が欲しいのか、何を探しているのか。何も解らない」
きっと別の場所で、別の誰かが、与えてくれる。
「それを見つけられるまで、貴女は凡てを破壊する。道はそれだけですよ」
「……そうだね」
握りしめた書類を眺める。漆黒のような目が私を飲み込む。この子も何かを探している。
壊して中を開けてみれば、答えが出るかもしれない。