格差

赤ちゃん、出来たの。可愛い、可愛い、治さんとの子。超音波画像でももう動いてて、早く出たいのかしら、お腹をとても押すの。
定期検診の日、珍しい子に会った。鼠さん。待ち合いの椅子の隅で、縮こまるように、順番を待っていた。隣に座るのもなぁ、と思って一つ空けた後ろの席に座る。

気持ち悪い。お腹の中で何かが動いてる。何かじゃなくて、フェージャと私の子だけど。安定期?に入った筈なのに気持ち悪い。この空間すら気持ちが悪い。フェージャは車を停めに行ってまだだし、呼ばれる気配もないし。それにあの女も居た。
太宰卯羅。
何で同じ時期なの?何で同じ産院なの?お腹の具合から見て、きっと同じ時期に妊娠したんだ。うぅ、またせり上がって来そう。早く呼んで。
「卯羅ごめん遅くなった。矢張雨予報があると駐車場が混むね」
視界に入った砂色に体が勝手に反応した。
「ううん。いつもありがとう」
雨、なんだ。嫌だなぁ。嫌い。
あいつは凄く幸せそうにお腹を撫でて、話しかけてる。旦那の方もだ。
「動かないでよ……静かにしてて……」一方私は動く度に感触の悪さから逃げようとお腹を押しそうになる。
何でだろう。
何で?
私も望んだ筈なのに。
私がフェージャに我儘云って、迷惑掛けて、解ってたのにこうなった。フェージャも訊いてくれたし、確認してくれた。
「辛いことも多いですよ。それでも望みますか?」って。
考えないようにすればする程、それを考えちゃうし、周囲の音が気になる。
「済みません、詩音。思ったよりも時間が掛かってしまいました」
「フェー、ジャ……」
何故か手首を掴まれて。掌に爪が食い込んでる。痛い。
「手を挙げなくとも、貴女が何処に居るかは解りますよ。寄り掛かりますか?まだ診察まで、時間は掛かりそうですね」
フェージャの手が、ゆっくりと、お腹を撫でてくれる。
「詩音に似てお転婆さんでしょうかね。少し落ち着きなさい。マーマが困ってしまいますよ」
声も優しくて。私が泣きそうになる。
「分泌物の関係で、気分の浮き沈みが激しいのは仕方ありません。ですから、自分を責めないでください。ぼくと詩音で成した子なのですから。詩音は一人ではありませんよ」
諭すような言葉に頷いていると、受付にあの女が。それから、診察室の呼び出し板に、私の番号が表示された。フェージャが少し後ろを向いて、頷くように頭を動かした。
「今日は性別が解りますかね。男の子でも女の子でも、きっと愛らしい子になりますよ」
「そうかなあ……そうなると、善いな……」

「君が敵に塩を送るなんてね」
受付から戻ると、治さんが少し呆れた様だった。お腹の子は、パパの声に反応して、壁をぺちぺちしてる。
「だって見てられないもの。治さん、ドストエフスキーの連絡先知ってる?」
「不本意ながら」
「鼠さんと、母親学級とか行こうかなぁって」
「卯羅は優しいね」
優しいんじゃない。産まれてくる子が心配なだけ。子供は親を選べないから。それに、親から受けた事しか子供には与えられないから。





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