共闘

似た者同士、なら仕方ない。
現状に立ち向かう最適解として彼らが選んだのなら。
政府を手玉に取ったあの惨劇。それだけでは終わらなかった。新たな脅威が現れた。
それに対抗するため、太宰治とドストエフスキー、犯罪史史上最悪の犯罪者二人が手を組んだ。
「さっさと終わらせようか」
「ええ。上等な後菓子が台無しに成ってしまいます」
そんなわけで、私は治さんの指示を受けて、敵の潜伏先へ赴いた。いつだかのように、とても善い天気。
ガサッと誰かの足音がした。短刀に手を掛けながら、その方を向く。居たのは───
「鼠……!」
我ながらドスの効いた声が出たなと思う。
先の事件で文字通り、命のやり取りをした女。ドストエフスキーの最愛の部下。
顔を付き合わせた瞬間互いに刃を抜く。ああ、こういう事をしている子が他にも居たな。
『全く君は……卯羅、聞こえているかい?』
「治さん!鼠が──」
『今回の作戦の要は君たちだよ。二人なら、互いの事が善く解っているだろう?新双黒──敦くんと芥川くんの路を切り拓いてくれ』
「でも!」
気持ちは解る。けれど、何か納得いかなかった。鼠も耳に填めた無線機に注意を向けてた。今ならあいつを狩れる。
『卯羅、私が信用できないかい?』
「そうじゃない、けど……」
『なら、やれるかい?』
真っ直ぐ前を見た。鼠も此方を見ている。
「解った。やる」
何故か心が晴れやか。互いに歩み寄り、頷く。
「なら、役目を別けよう。その方がやり易い。鼠さんは、偵察が得意でしょう?」
「なら私は後衛する。えーっと……」
「卯羅でいいよ。呼びにくかったら、太宰でも尾崎でも」
「……詩音でいいよ」
もしかしたら、最初からこう成り得たのかもれしない。出会い方がもう少しことなれば。でも、ああいう出会い方だったから、今こうやって居られるのかも。
『却説、仕事の時間だね』
『さあ、愉しい戯曲を紡ぎましょう』
役割を決めた私たちの後ろに二人の少年。
「卯羅さん」
「敦くん、芥川くん」
治さんが今一番信頼している戦力。
「私たちが二人の路を拓くから」
「高い露払いだ」
少し咳をしながら芥川くんが云った。
「僕も貴女の力を信じている。昔、太宰さんの元で見た貴女の力を」
「二人とも、強くなったね」
私よりも大きい二人の少年を抱き締めた。それから詩音に目で合図して、異能力を使わせる。
「能力名『鵜の目鷹の目』」
小さな鼠が数匹、方々へ散っていく。
「監視機材が百米毎。うわあ、見張りの数凄いな」
「だったら、こうしちゃおう。能力名『道化の華』」
蔦が地面を這っていく。少し先で呻く声が聞こえた。
「却説と。敦くん達は適当に着いてきて。私たちよりは前へ出ないこと」
頷く二人に微笑んで掃討に向かった。
何かの遊戯盤だろうか、というような作りに成っている。異能鼠が、監視機材の配線を食い荒らしていく。私は向かってくる下級構成員に異能花を贈りながら進む。
「第三面、達成ってとこ?」
「次からは中級に気を付けないと」
云いながら、短刀で敵の頸部を裂く。
「ちょっと先見てくる」
「……気を付けてね」
不本意だけど。云いたかった。
「だって、護ってくれるでしょ?」
「仕方なくね!」
私の足元を異能鼠がチョロチョロ動く。此方だよ、と案内してくれているように。
「……止まって」
「何?」
突然歩みを止めた鼠に訊いた。
「挟まれる。でもそこの角に一ヶ所、扉の鍵を解除する装置がある」
どうしたものか。思考を巡らせた。
「貴女は其処で扉の解除。私が凡て片付ける」
「任せた」
念のため、彼女の回りに花畑を作る。
「出たら折れるよ」
「そういうとこ太宰治と一緒!」
その言葉に笑いながら、来るであろう敵に向かう。右から二人、左から三人。面倒なのは三人だ。服の裾を少し捲り、腿を露出させる。そのまま、角に向けて脚を出す。足音が速くなる。触ろうとした奴の顎を思い切り蹴りあげた。
「ごめんなさいね、それ相応の対価が必要でしょ?」
そのまま股間を踏み潰す。その声に気付いたのか、後ろから駆けてくる音がする。残り四人。
「うわ、凄い……」
後ろから来た二人は、鼠が居たところを通って来たはず。なのに一切そこには触れず、私へ直進してきた。
「やだーもう。駄目よ?私は既婚者だから」
軽口を叩きながら、全員に異能花を咲かせる。それでも向かってくる。正面から来た二人を撃つ。後ろから来た一人に、短刀の柄を胸部の正中に叩き込む。残りの一人は既に息絶えていた。
「解離のA型には気を付けてね」
私の頭上で鷹が鳴いた。どうやら、扉が解除されたらしい。
扉の先には、組織の中堅だろうか、先程の構成員とは明らかに違う雰囲気。
「敦くん、芥川くん。鼠が示す通りに来て」
無線に呼び掛ける。『卯羅さんはどうされるんですか!』
「私は、治さんの云う通りにする。だから」
この先をお願い、そう云って無線を切った。
「善かったの?」
「うん。余計な心配はさせたくないから」
問題は目の前の敵だ。どう始末するか。
「後衛は任せた」
「得意だから」
怖いぐらいに息が合う。私の間合いに彼女は入ってこないし、少し引くと異能動物が時間を稼いでくれる。鼠、兎、あらゆる動物が相手の目を眩ます。鹿が角で投げ飛ばす。
「もうこれ、私要らないんじゃない?」
「早く止め刺してよ!」
肩に短刀を突き立てて、蹴り飛ばす。転がった相手の肩を外し、肋骨を踏みつける。大腿骨を粉砕骨折する。
「それ、止めてよ……」
「一番楽だからね。ええっと、なんだっけ。迷える子羊に、救いの手を?」
扶郎花を咲かせて、頭部に押し充てる。鋭く刺すような眼振。何事もなかったかのように事切れた。
「頭目の真似しないで!」
「しちゃった」
こうやって仲良く笑える子が居たら。どんなに楽しかったろう。
『よくやった。戻る前に一つ仕事をやろう』
『正に子羊への手引きです』
上司達が次の指示を出す。この先に居る最後の敵。苦戦している二人を助けろ、と。
「ならとっておきの贈り物をしなきゃ」
私たちは互いに笑いながら、拳を突き合わせた。

「さあ、片を付けてしまおう」
詩音の異能を通じて、現地の様子が中継される。それを見ながら、異星人と呼ばれた男二人がほくそ笑む。
「形勢逆転、というやつです」
「これで終わると思ったかい?」
画面一面に舞い散る花。新たな双黒の前に、花を咥えた鼠が佇む。
『卯羅さん達だ!』
『この好機を逃すなよ、人虎!』
『判ってる!』
一番に信頼できる部下。咲き誇る花と、跳ね回る鼠。
『治さん』
『フェージャ』
「どうした?」
「なんです?」
『ありがとう!』
愛らしい声が奏でる心からの御礼。それを受け止めて、二人は笑った。隣に居る男も、今の言葉を、愛しいと感じている。思い出すのは今日まで歩いた路。遠回りしか無かった、互いの軌跡。





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