最悪

私、どうしたら善いのかしら。
監視モニターを睨んでいる鼠さんの隣で、ずっと遠くでおどけている主人の姿を眺める。
『卯羅さん、卯羅さん、聞こえますか?坂口です。太宰くんとは合流出来たようですね』
「もう引き離されたけど」
坂口さんからの通信。耳元から延々流れてくる。でも何も頭に入ってこない。
『吸血鬼化が各地で急速に始まっています』
「知ってるわ。居るもの、目の前に。一番最悪な吸血鬼が」
ドストエフスキーの映るモニターに乱入してきたのは吸血鬼と化した中也さん。最悪。本当に最悪。シグマさんでどうやって勝つ心算なの?
「全員、殺そうかしら」
『はい?!』
「此処に居る全員、殺すの。鼠も、ゴーゴリも、ドストエフスキーも。中原中也も」
『卯羅さん、落ち着いてください。必ず太宰くんは助けます。僕が保証します』
「貴方の保証なんて、何もあてにならないわ」私に惚れたから助けるなんて勘弁して頂戴。政府からしたら、マフィアの幹部を二人葬る好機。これを逃す筈がない。「私はもう、主人と二人で静かに暮らしたいの。この騒動が終わったら、何処か遠い誰も居ない場所で、二人で生きさせてくれる?保証するならそれを保証して」
治さんも中也さんに気付いたらしい。最悪、と口が動いた。
「各国政府と猟犬、探偵社、吸血鬼集団、国連の動きって坂口さんは把握できるのかしら」
『おおよそではありますが』
「全て私に寄越して」
『無茶を云わないでください……君たち夫婦は……全く』
「どうにかして私から主人に伝える。大丈夫よ、昔、抗争の時はよくやっていたから」
あの暗号をどうにかして彼に伝えなくては。異能を使うしかない。私は触れた範囲になら花を咲かせられる。だったら、排気ダクトを伝い、あらゆる箇所に咲かせてやりましょう。
「お花ちゃん、誰とお話ししてるの?」ゴーゴリが楽しそうに声を掛けてきた。
「天の声と」
「あれ?お花ちゃん、キリシタンなの?」
「いいえ。でも私、彼の天使だから」





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