温泉

温泉。
全てが一段落したから、新婚旅行?兎に角、温泉。御飯も楽しみ。旅館の食事って、美味しいのよね。御部屋も素敵。やっぱり畳が落ち着く。障子を開けて外を眺めてる治さん。「絶景だなぁ」と頻りに呟いてる。茶櫃から二人分。湯冷ましをしていると、治さんが座椅子に掛けて、最中を一口。
「はい、お茶」
「ありがとう。露天からも紅葉がよく見られそうだ」
「なら明るいうちに行きましょう」
浴衣を持って。今の時間なら混んでないでしょう、ゆっくり入れるわね。
女湯、男湯。時間を決めて、バイバイ。
入る前に体重計載っておこう。少し痩せたわね。掛け湯をして、身体を洗って、さあ。
露天風呂は、治さんの云うように、紅葉がとても綺麗に色付いていた。お湯がじんわりと肌に染みてくる。あっちの方がよく景色を見れそうね。誰か居るみたいだけど、一寸お隣に失礼しましょう。
「お隣失礼します」
「あ、はあ」
「紅葉、綺麗です、ね……」凄く恨めしそうな視線だと思ったら「鼠さんなんで居るの」
「こっちの台詞だよ!人が折角、視界に入らないようにしてたのに、何で来るわけ?!」
「存在感が無くて気付かなかったのと、此処のほうが紅葉綺麗に見えるから」
「は〜〜〜そうやってすぐ喧嘩売ってくる」
「何?何を勘違いしてるの?」
「あんたの!その鬱陶しい胸だよ!!」
……正直拍子抜けしました。
まさかのお乳ですか。
はあ。「これ?これのこと云ってるの?」下から持って上げる。そんなに大きいとは思わないんだけど。
「一々腹立つな」
「知らないわよ、そんな事」
漸く静かになった。聞こえるのはお湯の流れる音と、風にざわめく木々の音。こうして自然に囲まれていると何故か落ち着く。目を瞑って少しのんびりしよう。
「ねえ一寸は隠す気はないの?」
「も〜今度は何?隠さないわよ、別に恥ずかしくないもん」
「そうでしょうね!それだけ御立派ならね!」
「……触る?」
「遠慮します!」
怒って行っちゃった。
なんだぁ、鼠さん、引き締まってるじゃないの。善いなあ、羨ましい。マフィア辞めてから何瓩太ったと思ってるのよ。
若干摘まめてしまう、悲しいお腹のお肉を、せめてお乳に行け、と促すように撫でてみる。
偶然って重なるんだよね。
脱衣所も隣の籠。着替えてる間、ずっとガン見されてた。嫌々云うのに見るの不思議ね。怖いもの見たさと同じかしら。一応するのね、ブラ。
「治さん待ってるから。じゃあね」
「あいつも居るの……」
「当たり前でしょう」
暖簾をくぐって、出た先で按摩椅子に埋もれてる旦那に声を掛け、部屋に戻った。


「おや、珍しいお客さんだ」
「どうも」
私が露天風呂へ入ると先客が居た。ドストエフスキー。ならあの子も居るのだろう。
「酒、飲むかい?」
「いただきましょう」
猪口を渡し、並々注いでやる。
女湯の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「嫁たちは仲が善いね」
「ええ。詩音も何もそんな事で怒らなくとも善いでしょうに」
「全くだよ。巨乳なんてそう易々と居て善いものじゃない。細身の子が居るからこそ、卯羅のような子が際立つんだ」
「貴方もさらりと随分な事を云いますね」
「相互援助だよ」
夜は部屋の露天で卯羅と入ろう。確か満月だった気がする。嗚呼、月明かりに照らされる卯羅のひんやりと暖かい肌。私の付けた痕だけがくすんで見える。
「善からぬ事を考えていますね?」
「夫婦の事さ」





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