「お利口さんね、そう、もう寝んねの時間だからね」
此処にね、治さんの子が居るの。まだ男の子か女の子かも解らないけど、きっと可愛い子。お腹を撫でると、居るのが解る。不思議ね、まだ胚なのに、繋がっているのが解るの。
鼠さん、何処に行ったのかしら。何故か私は部屋を出ることを許されないから、食事も全て立原くんか、鼠さんが持ってきてくれる。
「あら、何処に行っていたの?」
「別に……」
何を拗ねているのかしら。そのまま部屋の端に座って。お茶でも飲みたいわね。珈琲は駄目よ、赤ちゃんに善くないもの。
「立原くん」
扉越しに、一番信用できそうな猟犬へ声を掛けた。
「お茶を二つお願い。珈琲は駄目よ、主人を思い出して、辛くなるから」
「……あんた、それで善いのかよ」
「どういう?」
「お前の旦那は元幹部だろ?」
「だから何?私は治さんが作り出した状況に逆らう心算は無いわ。お茶を二つ、お願いね」
戸口から寝台に戻る。この暮らしも悪くないかもしれない。一先ずは外の災悪からは身を守れる。
立原くんが焙じ茶を持ってきてくれた。豆大福も二つ。
「鼠さんもお茶、如何?毒は平気でしょう、貴女のお仲間でしょうし」
お腹空いていたのね。声を掛けたら寄ってきた。
「どうぞ、お掛けになって」
「───っ、なんで……」様子がおかしい。危険、頭が告げる。「お前は、なんで、一々、そうやって……!」
振り下ろされる刃。身体の反応が鈍い、間に合わない。「『饗応夫人』!」纏う花弁を盾とし、何とかしのいだ。
「今度は何?」
「ふざけんなよ!抉り出してやる、神威が殺らないなら自分で殺ってやる!」
狙いは、私じゃない。この子だ。
「僻み?またそうやって、自分と私を重ねるの?自滅してるのそろそろ理解なさいよ」
「一緒って云ったのはアンタでしょ?」
「ええそうよ、同じよ。でもね、決定的に違うわ、彼との向き合い方は」
私は彼を支えるために生きている。その為に引き取られ、養育された。私は、異星人の、玩具ではない。この子はきっと、治さんが、私に支えにしろと、授けてくれた子。また、会うために、命を繋ぐための子。
「そろそろ甘えるのはお止めなさい。見失うわよ。標は自分で見付けなさい」
もう駄々を捏ねても誰も掬い上げてくれない。そんな事をしたら、次はない。私達は、誰が味方か敵かも、解らない世界に来た。自衛するしかない。だから、少しでも確実性を上げる為、私達は手を取らなくてはならない。
「貴女の云う通り、この子は私と主人の利己。この状況に於いて、身重は足手まといでしかない。だから、本当に邪魔になったら」お腹を撫でて、一呼吸おいて。「この子とお別れするから」
ごめんなさいね、そうするしかないの。また会えるから。それまでは、居てね。それまでは、私をお母さんにさせてね。
そうなる前に、全てを終わらせるから。