中也さんに現状を報告して、母様を探す。
森先生が信じられない訳じゃないの。でも、元軍属医というのが引っ掛かる。
中也さんは幼馴染みたいなものだし、組織を裏切ることは出来ないはず。
こんな時に、あの人が居れば善いなって、ふと思い出す。あの人なら絶対に治さんを信じてくれたし、味方をしてくれた。
鼠さんの様子も見なきゃ。母様を探しながら、ついでに立ち寄る。鍵は空いてる。真逆、逃げた?そんな筈はない。マフィアの監視術は全て心得てる。だから異変があれば、直ぐに気付ける。
「鼠さん、寝てるの?」
そっと覗くと、中に母様が居た。鼠さんは、母様に寄り掛かるようにして寝ている。何故か、胸がモヤっとした。
「母様」
「卯羅か。お主も疲れたろう。少し休め」
隣に座れと、手招き。余計にムッとして、首を横に降った。
「二人揃うて赤子の様じゃ」
「赤ちゃんじゃないもん」
私の母様なのに。貴女は母親なんか要らないって云ったじゃない。何で母様が、よしよしってしてるの?母様は、私の母様なのに。
「いじけるでない。ただ、こやつが幼き頃の卯羅に似ていてのう」
そうやって。そうなんだ。小さい頃の私が恋しくてそうしてるの?私大きく成らなきゃ善かったかな。ずっと、小さい子で、母様にぎゅってして、そうしてれば善かったかな。
「駄目なの!母様は私の母様なの!やだ、取っちゃやだ……ぁ!」何かが決壊したように、涙となる。また取られちゃう。治さんの次は母様。独りになっちゃう。絶対嫌だ。
「お主も我慢の限界であったな。よう頑張ったのう。もう母が要るから大丈夫じゃ」
鼠を押し退けるようにして、抱き着いて。
何年ぶりだろう。母様にぎゅってしてもらって、頭撫でてもらうの。治さんとは違う安心感。
「のう、卯羅や。私は、お主が鼠のように成らなかった事を、心の底から安堵しておるのじゃ」
鼠さんだって、可哀想なんだよ。お母さん居ないんだもん。だから、だからね。でも母様は私のだから、駄目なの。違う人でして欲しいの。でも他の人は鼠さんが何で寂しいか解んなくて、大変で……
考えれば考えるほど解らなくなる。お利口さんで居たい。母様を困らせたくない。でも、母様を独り占めしたくて。
「子兎はほんに甘えん坊よのう。暫し眠ると善い」
「起きても、母様居る?」不安になって訊く。昔、起きたら誰も居なくて、怖くて、お花と遊んでたら、何もかも消えちゃったから。
「無論じゃ」子供の頃と同じように背中をとんとんしてくれる笑顔の母様。「いつまでも居てやろう」
「漸く寝たか」
「姐さん」
「おお中也、どうした」
小動物のような子らを寝かしつけたところで、幹部殿が様子を伺いに来た。
「鼠の始末は」
「卯羅に任せるしか無かろう。のう中也、こやつらに着いて行ってはくれまいか?太宰を奪還するには何れ、お主が必要であろう」
「もし俺がこいつを裏切ったら?」卯羅を指差しながら中也が訊く。
「それは無かろう。今、卯羅は私の預り。私を裏切るか?」
私と娘の顔を見比べて、それから、仕方無さそうに溜め息を吐いた。
「卯羅にはもう、不自由させたくないのじゃ。太宰を取り戻せなんだ時、娘は後を追う」妙な確信が有った。此処まで形振り構わず太宰に付き従い、法の上も太宰のものとなった。「私はあの夜見た少女をただ、幸せにしてやりたかっただけじゃ。身の上に苦悩し、自らを棄てたこの子をな」
その結果がこれだと云うのなら、私は最大限の支援をしてやらねばならない。
日向には出れぬ母が唯一出来ること。花が枯れぬように、水をやるだけ。
「今晩は、四人で食事でもするかのう」
「鼠もですか」
「お主もじゃ、中也。上等な葡萄酒を頼むぞ」