幹部に成った処で、何が変わるわけではない。森さんの薬品庫は漁り尽くした。「幹部に成ったら見せてあげようね」と云われた書類があった。其れでも探しに行こうか。そういえば、私の世話人……あの子は何処行った。姐さんにでも呼ばれたかな。兎に角、其の書類を探しに行こう。
執務室を出、首領の執務室を目指す。警備の者を一瞥し、扉に手を掛けた。
「───なら、此れは私が保管しておこう。それで、今は君の部屋で休んでいるのかな?」
「最初は笑っておったのだが……読み進めるうちにどんどん動きが鈍くなってのう」
「“何らかの理由で忘れていた”と考えるのが妥当だね」
足音が近付いてくる。扉の影に隠れた。其の人物達と入れ替わりに部屋へ入った。まあ首領にはバレているだろう。気付いていて、態と開け放した。
「却説……」
書類は執務机の鍵の掛かる所だろう。針金を使って開ける。在った。ただし同じようなのが二冊。題目は書いておらず、ただ『人事帳簿』『部外秘』『長の許可を得て閲覧の事』しか書いていない。最後の項目は走り書きのところから、先程追記したようだ。姐さんが居たことから、どちらも尾崎姉妹に関してだろう。私の知りたいのはどちらだ。勘に任せて選び、一枚捲ると、卯羅の経歴が簡潔に書いてあった。
「12歳で森先生に引き取られ……14歳でマフィア、か」
元は孤児か?其れにしては、名字を修正したような痕がある。それにまだ数枚書類が連なっている。注意深く閲覧していく。其れは卯羅が森さんに引き取られる切っ掛けに成った事件だった。
事件と云うのも大袈裟だが、当事者にとっては事件だろう。
「太宰くん」
「森さん此れでしょう?私に約束してくれていた書類は」
「そう。君の部下に纏わる物だ。其れをネタに揺するも、手離すも佳し。君の好きなようにどうぞ」
戻ってきた森さんが書類を返すようにと、手を出した。其れに応じながら読んだ結論を告げた。
「矢張、彼女の異能は私向きだ」
「一応理由を聞こうか」
「先ずは事の起因。『異能力という認識が無い一般家庭に異能力者が産まれた』此れだけで、普通なら当人は自殺を考えるだろうね。特に彼女の様に加虐性に特化した異能なら尚更。私と死んでくれそうでしょ?」
私が少しでも怪我をすると、呆れたような、悲しそうな顔で手当てしてくれる卯羅の顔を思い出した。森さんは呆れた顔で苦笑いした。
「解った、ちゃんとした理由を話すよ。『一寸した縺れから学友に異能を使う』此れでしょう?森さんが尾崎卯羅を私の配下にした理由。マフィアに大事な暴力性。私の異能はそんなもの無い。そして接近して異能を使うには、体術の技術面も問われる。其にもし、中也の汚濁じゃないけれど、彼女が沸点を越えて手を付けられなく成ったら、私しか止められない」
実際に何度かあった。怒りに任せて敵を薙ぎ倒す。見ていて爽快ではあった。
「後は、彼女の異能は拷問にだって使えるし、知識は私の治療に使える。その為に森さんは彼女の両親に接触して、入院を理由に手元においた。あの日、私に接触させたのも態とだ」
森さんは満足そうに頷いていた。
「でも予想外な事が起きる。彼女が私を気に入り“過ぎている"。もし仮に私が死んだり、組織を抜けたら一緒に付いてくるかもね」
満足そうだった顔が一瞬青ざめた。
「嘘ですよ。彼女は尾崎紅葉の娘だ。そんなことに成ったら、姐さんが私を八つ裂きにするだろうね」
「太宰くん、大人をからかってはいけないよ?」
「心配性なのは変わりませんね」
一礼して、執務室に戻る。
無論部屋に彼女は居ない。今日はもう戻ってこないだろう。養母の元で過ごすだろうね。
「おざき、うら……」
いつもの椅子に座り、天井を仰ぎ、名前を呟く。君は何故私を受け入れたの?あの日、小さな診療所で一言交わした。そのあと君は私の世話役に成り、秘書に成り。そして今は──