最近、デヱトをしていない。漸く、夫婦に成れたわけだし、したい。
一緒にお休みを取って、予定を立てて。
「それで?何処行くの?」
「うーん……動物園!」
「動物園……?」
「可愛い動物見たい!ウサギさん!象さん!」
「動物の選択が幼稚園児だねぇ。よし、行こうか」
電車とバスを乗り継いで目指す。園内の地図を見ると、一日で回れるのか少し不安。
「この道順で行けば善いのか。善かったね、最初に象だよ」
「象さんって大きくてのんびりしてて好いよね」
砂浴びをしたり、ご飯食べたり。姉妹だって解説板に書いてある。姉妹と云えば、姉さん、どうしてるかなあ……。何も云わず出てきちゃった。元気にしてるかな、中也さんに殴られてないかな。雨かな、頬が冷たい。
「どうした?」
治さんが手巾で頬を撫でてくれる。
「ちょっと姉さんの事、思い出してた」
持ってきたのは、お友達のぬいぐるみと、母様がくれた耳飾り。それ以外は凡て投げ出してきた。母も姉も。それでも、それを解っていて彼に付いてきた。その筈なのに。
「今なら解るよ。大切なものと決別する辛さが。でもね、きっとまた会えるさ。どのみち同じ街で過ごしているのだからね」
本当に自分が情けなかった。治さんの言葉を、大丈夫だ、という彼の言葉を待っている自分が少なからず居た。
動物達は本来住む地域に分けられている。そのためか、一寸した世界旅行のような感覚になる。
「ねえ」
「なあに?」
亜熱帯の森に佇む水槽の前。可愛い川獺が客へ愛らしさを振り撒いていた。
「私の言葉をあまり理解しようとしていない時の顔をしてくれるかい?」
「なんで……」
「確かめたいことがある」
こうなったらもう彼は梃子でも意見を変えない。意図は全くもって解らないが、ご指定の表情を作る。というか、何故その表情と感情が合致するとバレたのか。
「嗚呼、矢張ね、会得がいったよ。前々から思っていたのだけど、君のその顔が川獺に似ているのだよ。口角を上げて、目を丸くして、首を傾げる感じ」
「喜んで佳いんだよね?」
「個人的には可愛いと云っている心算なのだけれど」
水槽を見ると川獺が首を傾げて此方を見ていた。
「残念ながら可愛いね。あれで強請られたら、飼育員も参るだろうね」
丁度昼御飯の時間らしく、飼育員が餌をやりに来た。彼の脚にじゃれながら強請る姿は、思考力を奪いに来ている。
「あの顔は『愛して』と強請る君」
「ねえそういうこと考えながらシてたわけ?」
「いいや?最中はコトに集中していたさ。あとで思い返すとね、一々愛らしいのだよ」
飼育員がするように私の顎下を撫でる。それだけで「好き」が強くなるのだから相当簡単だ。
「そういえば、今日何の日か知ってる?」
「知らない」
「今日はね、一と二が並んでるから“いい夫婦の日”なんだって」
「へぇ。そんな日にデヱトだなんて、君も考えたね」
「普段のお返し」
こんなことで一本取ったと喜んでしまう。それを「参った」と笑ってくれる。それは私にしか出来ない事だし、私にしかしてくれないだろうと思っている。