ハイチュウ事件

「次からはちゃんと品名を云います……」
容疑者二人は等と反省の言葉を口にし、容疑を認めた。
今から遡ること、5時間と少し前。太宰と中也は、仕事を仰せつかり、支度をしていた。
「まーた中也とかあ……」
「云ってろよサンピン。気付いたら寝首掻かれねぇように気を付けな」
「君が私をねぇ」
慣れたもので、残弾の確認から補充、目標地までの経路、全てを雑談の中に終わらせる。
「太宰さん、中也さん」
「やあ卯羅。君はお留守番だよ?」
「あの!これ、向こうで開けて!」
「あ?彩まで何だこれ」
渡された長方形の包装。
「取り敢えず受け取っておこう」
「何だよ。いつも通り殺ってくりゃ佳いだけだ」
中也は帽子を被り直しながら彩に告げる。その真後ろで笑いを堪えて身体を震わす太宰。
「何でも良いから行くよ。さっさと終わらせて私は“お楽しみ”にありつきたい」
玄関まで付いていき、見送る。
「あーあ。行っちゃった」
「中也さんなんでかっこつけたん」
「聞こえるから」
「いやだってなんでかっこつけた」
「そりゃあ……中原中也だから……」
戻ってくるまでお菓子でも食べようか、と姉妹は部屋に戻った。
双黒。黒社会の悪夢と呼ばれるマフィアの精鋭二人。大方の敵を殲滅し、残りは大将首と敵組織の資産のみ。
「次に備えて装填でもしと……」
「中也どうしたんだい?」
「あの野郎……!」
彩から手渡された例の包み。中也は開けた途端、握り潰した。その手元を覗き込みながら太宰は笑った。
「ハイチュウじゃあないか。いやぁ、君のとこのは随分悪戯好きだねぇ。卯羅はそんな子供じみたこと────」
「ハイチュウじゃねぇか」
「ハイチュウだねぇ」
自分の包みを開けたら同じものが出てきた。
「さっさと片付けて殴りにいくぞ」
拳を堅く握った中也の後ろを、一粒のハイチュウを食べながら太宰は歩いた。
「はーーーーーー中也さんかっこつけてんの面白すぎるわ」
寝間着に着替えて二人で小招宴。沢山のお菓子。普段は黒と白に一面囲まれているが、今夜ばかりは色とりどり。
「絶対ハイチュウだと思ってないから」
大きいぬいぐるみを抱きながら、卯羅はクッキーをつまむ。二人のお供は温かくて甘いミルク。彩もクッションを抱えながら、ポテトチップスを。
「やあ悪戯っ子ちゃん」
不意に後ろから声がした。ミルクを飲み損ねて、噎せた。
「イッッッッッタ!!!」
不意に殴られた。舌を咬み千切るかと思った。
「手前……何がしてぇんだよ」
「ハイチュウ!息抜きに!」
「息抜きじゃなくて止めてやろうか」
「此れでどうして欲しいの?」
「いや……あの、息抜きといいますか……」
ちょっと驚かせようとしたのが仇になった。小招宴は中止。
「もし仮に、だ。私たちが窮地に陥って、君たちが寄越した贈答品しか頼りが無かったら?」
「死んじゃう……」
「俺は手前が死ぬなら万々歳だけどな」
「中也黙れ」
太宰が鋭く一蹴した。ずっと傍に居たから卯羅は解る。太宰は割りと本気で怒っていると。
「君達の気持ちは嬉しいさ。可愛い贈り物。でもね、時と場合を考えたまえよ」
「……はい」
「まあクソ太宰が云うことが最もだが、気持ちには感謝するぜ?」
「開けた途端握り潰したくせに」
「えっ酷くない?!」
「潰したのは包みだけだ。中身まで潰すほど外道じゃねぇよ」
ポンと手を打ちながら、太宰が笑った。
「さてと。説教も済んだし、私はお楽しみにありつきたい」
中也と彩が卯羅を見た。
「じゃあ俺らは戻るわ」
「お菓子は食べていいよ!中也さん後でプリン買ってきて!」
「何で俺が買ってくんだよ。寧ろ『お疲れ様』って渡すとこだろ」
何時ものように中也は彩の頭をひっぱたいた。

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