医者に云われたことをどう尾崎に伝えるか。精神科での転院も視野に、と云われた。行ったところで無駄だとは答えたが。
「尾崎」
「なあに?」
幼児でも寝かし付けるように脚に触れる尾崎。太宰の心地好いリズムを熟知している。
「この後の事だが、俺から国木田先生と校長に相談する」
「解った。先生たちに任せる」
「お前も休め。まともに寝ていないだろ」
大丈夫とは云うが、瞬きは眠気を纏っている。隣の椅子に腰掛け、肩に寄り掛からせた。
「仮眠しろ。お前が入院でもしたら太宰がまたやりかねない」
「でも手は繋がせていて?お願い。治くんが安心できるように」
それから、握った太宰の手に口付け、俺の肩を枕にして寝始めた。少しして太宰が目を覚ました。
「お前らな……」
俺は呆れた。二児の親の気持ちが解った気がする。
「卯羅寝たでしょ?」
「寝たぞ」
「私が起きていたら、寝ないもの彼女」
「解っているならなあ……」
「そんなに怒らないでよ」
怒りのような、呆れのような。
「先生は?あ、医者様の方ね。云っているのは何時もと同じことだろ?」
「まあな。そろそろ精神病棟に監禁されるぞ」
「うーん、それは困る。何せ、此の心配性な恋人が居るからね」
解っていて何故やる、と訊きたかったが、どうせ「生活習慣だからね」とかではぐらかされる。
「何か食いたいものはあるか?」
「卯羅の蟹炒飯」
「もっとこう、病院の売店に有りそうなものでだ」
暫く考えた後に無いと答えた。本当に欲が薄い。検温の時間だと看護師が来た。
「すいません、彼の食事は出るのでしょうか?」
「この後、飲み込みの訓練師さんが来ますので、そこで問題が無ければ、お食事が始まりますよ。太宰さんはお若いですから、大丈夫かと思います。持ち込み食に関しても、先生に確認しましょうね」
「ありがとうございます」
佳かったなと本人に云いつつ、尾崎を起こした。
「少し休めたか?」
「凄く寝ちゃった……」
寝方の所為か、少し寝癖が付いていた。先程、看護師から説明されたことを、尾崎にも話す。太宰が余計な事を閃いた時の顔になった。
「ねえ、卯羅に食べさせてもらう、というのはどうだろう?」
「訓練師が来ると云っていただろ」
「担当が男だったら萎えるなぁ・・・・・・考えてもごらんよ。男が、男に、あーん!うぅっ!寒気がしてきた」
結局気にするのは其処なのか。とはいえ、女だとしても尾崎が少しは嫉妬するだろう。いや彼女ならその辺は割り切るか。
「矢張、卯羅にしてもらうのが一番だよ!」
「駄目、治くん。ちゃんとした人にやってもらって」
私はそれからね、と添えた。太宰の扱いが巧い。もう慣れなのだろうが。絶対やってくれるのだろうね、と口を尖らせる太宰はなかなか見れるものではない。