快方

飲み込みの訓練師さんが、問題無しと太鼓判を押してくれた。
「主治医に確認したところ、持ち込み食も可能です。特に制限は無いので、お好きなものをどうぞ」
昼の件を看護師さんが報告してくれた。ありがとうございます、と答えつつ、訓練師さんが男性だった事で不貞腐れている太宰くんの頭を撫でる。織田作は、国木田先生達に報告するのと、仕事とで学校へ戻った。
「もう無いんだから、ね?」
「これで若し、理学療法士まで男だったら嫌だよ?」
「駄々捏ねないで。皆、治くんが早く回復するように手助けしてくれてるんだから」
動脈に入っていた管も抜けて、身軽になった腕。それを振り回しながら、如何に気に食わないかを熱弁してくれた。聞きながら適当に相槌。
「暇なんでしょ」
芝居掛かった言い回しからそう推測する。本心からなら、もっと世捨てみたいな云い方だし、眼も暗く虚空を眺める。
「うん、暇。大体あれだよ、看護師の皆様だって、私が常習犯だと知っているだろうし───何せ、診療録につらつらと書いて有るしね。前回の付き添いは国木田先生だったから、その恨み辛みも。私のこれは最早、生活習慣だからね。食事や睡眠と一緒。うーん、帰りたい!」
確かに、何時もみたいに「意識戻りました、もうしないでね」で帰されない。他に何か病気が見つかったとか?
「何だろうねえ、今回は何時もと違う。首吊りなんて日課だし、過剰内服はおやつで、自傷は爪切りみたいなものだよ?」
治くんのそれが聞こえたのか、看護室に居る事務さんが少し笑った。
「第一、私には自分の始末を自分で付けようとしているのにそれが悪だと見なされる、それこそ理解できないよ。生きたい、死にたい、は両極端に位置するのだから、相対的に公平でなくては可笑しいと思うよ」
「屁理屈はそこまでにして。自分の始末付ける前に、私の始末もしていってくださいな」
「・・・・・・心中?」
首を傾げる姿はあどけない。内容は凶悪。
「肯定したいところだけど、場所が場所だけに肯定出来ないんですがね」
それに流される私も相当惚れ込んでいると思う。
話の内容を聞きかねた看護師さんが「包帯の巻き方、手解きしましょうか?」と声を掛けてくれた。長い間、巻き続けているとはいえ、素人がやるのでは、綺麗さに限界がある。お願いしますと頷いた。
「これで卯羅しか巻けなくなった」
「元々そうでしょうが」
手解きを受けながら、治くんの腕に巻いていく。重なり方、向き、引く力。全てにコツが要る。
「長いお付き合いなんですね」
「腐れ縁と云いますか、幼馴染みと云いますか、今更、離れられなくて」
「腐れ縁は酷いなあ」
不貞腐れる。そういうのが可愛いのよ。巻き終えたのを眺めながら「ありがとう」と労われる。
「早くお家帰りたいね」
「帰って君のご飯食べて、織田作の授業受けて、中也に嫌がらせする」
「最後のはやめなさい」
それから、ずっと手を繋いでいた。ただ手を繋いで、気付いたら二人して、寝ていた。

前の話目次次の話