また病院へ見舞ったら、二人して寝ていた。手を繋いで仲良く。一瞬或る事を懸念したが。
「ずっとこの調子ですか?」
寝台の近くに置かれた端末で、看護記録を打ち込む看護師に声を掛けた。
「本当に仲の佳いお二人ですね。ずっと二人でお喋りして、その間は、太宰さんもとても楽しそうで」
確か幼稚園から一緒だったか。よくそこから恋仲に成ったものだ。それにしても、太宰が物音で起きないのは珍しい。「太宰、俺だ」と声を掛けたら起きた。
「おはよう、織田作。仕事終わったの?」
「国木田先生がお前の様子を見てこい、とな」
「そっか。まあ、そうなあるよね。ねえ、卯羅は?若しまだ寝ているなら送り届けておくれ」
自分の脇腹辺りに頭を預け、幸せそうに眠る恋人。それを連れて帰れと云う。何かあったのだろうか。
「別に何があったわけじゃあ無いよ。だからこそだよ。今度は彼女が入院する羽目になってしまう。毎日私なんかに付き合って・・・・・・」
愛しそうに尾崎の頭を撫でる。
「尾崎も嫌で付き合っている訳では無いだろ」
「そうだね、そうだけれど、違うよ織田作。私が云いたいのはね、彼女が私となんか居て佳いのかなってだけだよ」
初めて聞いた。太宰が弱音とも取れる言葉を吐くのも、尾崎に関して、こんな言及をするのも。何を不安がっているのだろうか。尾崎が何れだけ太宰を愛しているのか、自覚していないとでも云うのだろうか。
「なんてね。嘘だよ、卯羅が私を愛し過ぎているのは重々承知だし、それを否定もしない。でも、彼女は連れて帰って。あと、学校に行くよういってよ。彼女までまた留年する謂れは無いじゃない?」
「あー・・・・・・その事なんだが、尾崎はお前が復帰するまで休学すると云い始めた」
尾崎の頭を撫でる手が止まった。表情を見る限り「予測はしていたが早すぎる」という具合だろうか。
「国木田先生が頭抱えていたぞ。母親は当然怒り狂ってた」
「本当に突拍子も無い子だねぇ」
看護師が消灯の時間だと告げに来た。
「じゃあね、織田作。おやすみ」
俺は尾崎を抱える役を仰せつかった。だが声を掛けても揺すっても太宰の手を離そうとしない。
「仕方無いなあ。卯羅、起きて」
太宰が尾崎の肩を叩いた。まだ寝ぼけているが、幸せそうに笑って、治くん、と呼んだ。
「もう帰る時間だよ」
「もう・・・・・・?早いよ・・・・・・」
「おやすみ、眠り姫様」
下から覗くように顔を寄せる尾崎の額に、太宰は口付けた。
「一応、先生の前だからね。これで我慢しておくれ」
今更、二人の行動に異性不純交遊がどうの、など云って説教するのは国木田先生ぐらいなものだと思うが。
「おやすみなさい」
「ちゃんと寝ろよ」
俺の言葉に解ったと笑う。結局寝ないだろうが、その言葉を信じることにする。
尾崎を車に乗せ、彼女の自宅へ向かう。
「尾崎、休学の件だが、少し待て。他に方法がある筈だ。お前も太宰も成績には申し分ない。本当に出席日数だけだ。だから───」
「ママに凄く怒られた。治くんの事も云われちゃった。でもね、私、治くんみたいに頭佳くないから、解決策が思い付かないの」
「明日国木田先生に相談しに行くぞ。俺もあいつの近況報告をしなくてはならない」
呼び鈴を鳴らすと、尾崎の母親が出てきた。とても丁寧にお礼を云われた。
「明日は来るんだぞ」
「うん、行く」