授業の前に(太宰治と)

中原中也が校庭を占拠し、幼馴染の特訓でもしてやろうと意気込んでいた頃。太宰と卯羅は保健室で駆け引きをしていた。
「治くんじっとしてて」
「嫌だ…絶対にさせない」
消毒液を持つ卯羅と対峙する太宰。終わったら膝枕を条件に提示したら折れた。
「全くさぁ…」
腕の包帯を解きながら呟く。
「綺麗なのに何でこんなことするの」
「趣味だから。痛っ…滲みる……ジンジンしている…」
洗浄してから消毒液をつける。
「少し我慢して」
「でもね、本当に痛いのだよ。今までで一番に痛い」
「神経切らなくて本当に良かった」
創部を少しでも保湿をするようにと軟膏を塗ったガーゼを乗せる。その上から包帯を巻いて固定する。
「さあ!終わったからご褒美」
「こういう時は元気だよね」
血の滲み出た包帯を捨て、ベッドに座る。太宰もそれに続いて横になる。
「嫌だなぁ…体育」
「体育じゃなくても嫌でしょうに」
保健室の戸が空く音がして、二人はその方を見た。保健係の与謝野が珈琲を淹れたマグを持って眺めている。
「またかいあんたらは」
「治くんが…」
「そうやって卯羅が甘やかすからだろう」
その言葉に太宰は満足そうに口角を上げた。それを見て卯羅はため息をついたが、それは廊下の騒ぎで消される。
「姉さん何してんだろ…」
「大方、中也でしょ」
収まる気配のない怒号に保健室の主が動いた。どうしようもない姉妹と更にどうしようもない連れには呆れる。
「治くん、着替えて」
「嫌だ」
もう勝手にしてと太宰から離れ、パーテーションの奥で着替える。
「此方で着替えても善いのに」
「嫌です」
世話係の素っ気ない返事が更に彼を落ち込ませる。パーテーションから窓へと目を移すと、校庭に教育実習生がいた。向こうも太宰に気付いて手を振っている。
「仕方ないかぁ……」
乗り気はしないが、着替えるしかない。最も、ジャージのチャックを上げるのが面倒で卯羅に頼むのだが。

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