教室へ戻る道でも口論を止めない太宰治と中原中也。二人を置いてさっさと教室に戻る尾崎姉妹。
「本当信じられない……」
「中也さんて太宰治の幼なじみとかじゃないの…」
次の授業は何だっけかと時間割を眺める。現代文だ。ということはあの教育実習生がくる。普段はやる気の見られない太宰もこの時間ばかりは比較的真面目に授業に臨む。
「織田作が全部の授業やってくれれば善いのに」
「小学校の担任じゃないんだから……」
「私にとって授業は苦痛そのものだよ」
彩は中原の着替えをじっと眺めている。そしていつも通りだが頭をおもいっきり叩かれる。卯羅は突っ伏す太宰の背中を擦りながら姉の茶番を眺める。
予鈴より少し早く織田が入ってきた。太宰はそれにいち早く気付き、駆け寄る。
「やあ織田作」
「嗚呼太宰。さっきは何していたんだ」
「体育の前に卯羅と善いこと」
「そうか。なら良かった」
織田と居るときの太宰は他の誰と居る時よりも楽しそうだ。卯羅を含んだ誰よりも。
「今日は何扱うんだい?」
「まあ待て。授業の楽しみにしろ」
好きな教師─この場合は実習生だけれども─が教壇に立つというのはどんな生徒であっても嬉しいものである。
「今日は─そうだな、近代文学でもやるか」
卯羅は視線を感じ、便覧に落とした顔を上げた。隣の太宰が此方を見て微笑んでいる。
「はいはい…」
「理解が早くて助かる」
普段授業になど出ない太宰が教科書の類いを持ってきている筈もなかった。
織田の言うことなら割合真面目に聞く。自ら挙手するし、発言する。
「太宰治って頭良いんだ…」
「君凄く失礼」
態々後ろを振り返ってまで告げる彩にため息を付く。
「何回留年してると思ってるの」
「それ君にも言えるのだけど…」
織田の授業は単純明快であった。体育の後は寝に入る生徒が多いが、この授業だけは違った。ただ一人を除いて。
「ぐっすりだねぇ」
そう云いながら太宰は前の中原を眺める。
「この時間の眼前はいつも以上に遮るモノがないねぇ」
中原が聞いてないことを良しとして呟く。
「太宰ちゃんと聞いているか?」
「聞いてるよ織田作」
きちんと板書もしている。
「褒めて欲しいの?」
「別に?」
ちゃんと出来るんだぞ、とでも云いたげな顔で卯羅を見る。
「治くん可愛い…」
「不本意」
「お前ら授業中だぞ」
織田も小さい頃からの二人を知ってるとは云え、余り甘やかすのも善くはない。
授業が終わり、女子生徒のみならず男子生徒にも囲まれる織田。それを眺めながら太宰は不満な顔をした。
「あれじゃあ織田作に近付けやしない」
「帰ったら織田作の家行くんでしょ」
「いや、織田作が来る」
まるで猫だなと、中原に悪戯を仕掛けている太宰を眺める。
無論、起きた中也がそれに気付いて、次の授業担当が来ても怒り狂っていた。