修治に私がしてやれる事は何だろうか。
仕事終わりに、赤ん坊用品の専門店へ寄った。本当は早く帰って、卯羅を休ませてやりたい。でも何か一つだけ息子へ贈り物をしたかった。
「何かお探しですか?」
店内をふらふらと見て回る私に、店員が声を掛けてきた。「子供に何か買ってやろうと思って」
「お子さんはおいくつですか?」
「まだ産まれたばかりでね、妻に似て、大変愛らしい」
卯羅は私に似ていると云うが、私は卯羅に似ていると思う。まだ寝てばかりいて、僅かに聞こえる声は、お腹が空いたか、下の不快感かだけ。
「そうしましたら、初めてのお友達、というのは如何でしょう?」
案内されたのは、縫いぐるみを扱う区画だった。大きさ、素材、種類、こんなにも豊富なのか。確かに、外つ国では産まれた子供に熊の縫いぐるみを贈る風習がある、と聞いたことがあった。
「これは妙案だ。お姉さんありがとう」
却説どれにしよう。ガラガラ鳴るぬいぐるみは、兎だし、犬は卯羅のと被る。生地もタオルが善いのか、ガアゼが善いのか。白いのは汚れが目立つだろうし、かといって黒いのは彼には似合わない。
旧い友に似た紅い髪。月のように丸い眼。親莫迦だろうが、将来は美少年だ。まだ指しゃぶりも出来ず、時折手足を動かし、飽きたら寝るか、乳をせがむ。
困ったものだ。
子供の思考も突飛だが、赤ん坊なんて思考があるのかすら解らない。
「却説、私の可愛い子はどれがお好みかな」
大きさは?小さいものが善いだろう。出先にも持って行けるもの。ならこの段だ。一番下まで屈む。子供の目線とはこんなにも低いのか。次は種類だ。布もだが、何を模ったか。犬、猫、兎、熊、象、鳥、虎、獅子……なんでもある。こうなったら一番突飛なものにしてやろう。突飛に突飛を足せばそこそこ善く収まるに違いない。
「これは……」
桃色の毛糸で編まれた象。白い丸帽を被り、赤と白の首巻きを巻いている。糸で作られたお口は、にっこり。
「実に愛らしいねえ。修治のお友達に成ってくれるかい?」
贈呈用に包んでもらい、途中の惣菜店でおかずを買って帰る。
「ただいま。済まないね、遅くなった」家に着いた頃には、社を出て二時間が過ぎていた。
「お疲れ様。お茶淹れるからね、待ってて」
先に食事を終えたであろう修治にも、ただいま、と声を掛ける。何か云いたそうに手を伸ばしている。卯羅が卓の支度をしているのを手伝いながら、修治に少し構う。
「治さんありがとうね、おかず」
「私が食べたいの選んでしまったけど」
「唐揚げ最近食べてなかったし、嬉しい」
食べたもので母乳の味が決まるから、と授乳が始まってから食事制限を掛けるようになった卯羅。たまにこうして食べているが、我慢のし過ぎは身体に毒だ。
「ねえ、何買ってきたの?」
「夕食後のお楽しみ」
喜んでくれるだろうか。考えただけで口元が緩む。私らしくないが、どうにしたって楽しみだ。
「んっ……」
「修治、どうしたの。一緒に居たいの?」
布団から抱き上げ、息子を抱きながら食事をする卯羅。母親というのはこうも休まらないのか。
「修治も卯羅が大好きなのだね」
「パパも好きだもんねー」
食事を終えて片付けるのは私の当番。これぐらいしか手伝えない。それでも嬉しいと云ってくれる卯羅の優しさ。
「修治」
眠りにつく前に、贈呈品を。
「君に可愛いお友達だよ」
袋から出して渡してやる。不思議そうに眺めて、小さな手で掴んで。まだ巧く掴めず、お腹にぽとり。
「やあ修治くん!初めまして!今日から僕と一緒だよ!」
裏声で自己紹介してから、胸の上にそっと置いてやる。耳を掴み、ペタペタと触り、それから嬉しい笑顔。
「良かったね修治。パパからの贈呈品だね」
握らせるように置いて、一緒に寝んね。
「寂しくても、彼が居てくれるからね」
可愛い寝顔。ずっと手元に居て欲しい。どういう形であれ、何れ私達の元から巣立つ。その日まで私は君にどれだけの愛情を注げるのだろう。
「治さん」
「なあに」
「ありがとう」
卯羅は泣いていた。何故だろう。失敗したのか。拙かったのだろうか。すやすやと眠る修治を見ながら、頭を撫でながら、泣き続けている。
「修治、善かったね、パパが修治にって、大事にしようね」
「卯羅……」
後ろから彼女を抱きしめた。以前よりも痩せた気がする。身体が赤ん坊を生かすことに注力しているのだろう。
「辛かったね……結局私は君に凡て預けてしまっている」
「治さんが、修治と笑っているのが素敵で、大好きで……っ」
私も、卯羅と修治が一緒に笑っているのが好きだ。それと同じなのだろう。それ以上だろうか。
「私がこんなに、普通の幸せに居られるなんて、思ってもみなくて、それを叶えてくれた、治さんと修治が、愛しくて……」
「君が与えてくれた幸せだよ」
私一人では得られなかった幸せ。君はそれを教えてくれたんだ。