翌日の朝礼で、社長から私達に関しての話が出た。安定期に入ったこと、現場には出ず、皆の支援に回ること。
「卯羅、お腹重くないの?」
「少し重くなってきたよ。ちょっとずつ動くようになってきたの」
「……触ってみても善い?」
もちろん、と笑む。鏡花ちゃんは、この子にとっての、お姉ちゃんになるのかな。だとしたら、敦くんは、お兄ちゃん?
「鏡花ちゃん」
「貴方も触ってみて、動いている」
「えっでも……」
「善いよ」
遠慮がちに触る敦くん。いつもの感覚と違うからか、赤ちゃんも不思議そうに動いている。
「本当だ、動いてる!卯羅さん、男の子ですか?女の子ですか?」
「まだ赤ちゃんが内緒って。教えてくれないの」
「卯羅はどっちが欲しいの?」
「私はどっちでも善い。だって治さんの子だもん。男の子でも、女の子でも、絶対に可愛い」
彼の子だから愛せる。不安は沢山あるけど、それよりも期待が先行する。
書類の山が積まれた机。治さんが外回りしている間に片しておこう。何件前の資料だろう……此方は年単位で前の物。しかも国木田さんが探してた。血眼で。雑多に置かれた未完成の報告書。その端に書かれた名前。複数の名前。男の子のと、女の子の。見て善かったのかは微妙だろうけど、治さんなりに楽しみにしてるんだなと感じた。
ちょっと待って。
「これ何件分よ……」
私が一緒に調査へ出たものは私が報告書を上げた。残っているのは国木田さんとか、敦くんと組んだものだろう。国木田さんもそろそろ治さんは報告書を書きたがらない事に気付いて欲しい。まだ彼が戻るまで時間が有りそうだから、端末を立ち上げて、大枠を作る。資料を確認しながら項目を埋めていく。意外と嫌いじゃない。
「ただいま」
「おかえりなさい!ねえ、報告書何件溜めてるの?」
「解かんない」
笑顔が可愛いのが腹立つ。
「冷えない?平気かい?」
云いながら長外套をひざ掛け代わりにしてくれる。からからと椅子を持ってきて隣に座る。「矢張り見つかったか」
「昔から変わらないんだから」
「でもこうすれば、君が社で仕事を出来、私の後を追い回さなくて済む」
云いながら私のお腹を撫でる。ただいま、と云いながら触れた手に、赤ちゃんの手が重なった事に気付いたかしら。
「どうしたの?」
「赤ちゃんにね、パパだよって教えたの」
「パパだよ〜」
治さんがお腹を撫でると、動きが活発になるのか解る。少し痛いぐらい。
「あんまり動き回って、ママを困らせないんだよ?ええっと……取り敢えず子太宰壱号と呼ぶか」
「どうなのそれ……」
「名前決めるまでの仮だから。性別が判らない事には決めるのもなあ」
「女の子と男の子、両方考えておけば善いんじゃない?」
「卯羅もそう思う?」
机を少し漁って、さっきの紙を取り出す。少し照れてる。そんな治さんなんて珍しいもの、皆がなんだと覗く。
「皆にはまだ内緒だよ?」
帰ったら決めようね、と笑う。
帰り道、商店街でお買い物をしてから、社宅へ向かう。
「治さんはどっちが善い?」
「ふぅむ……私はどちらでも構わないよ。どちらも素敵な事には変わり無い」
トイレットペーパーぐらい持てるのに。目を細めて、鼻で鼻に触れる。本当はそのままに唇にも欲しかったけどお家まで我慢。治さんの腕に抱きつく。すると、すっと前に女性が立ちはだかるように出てきた。口が「だざい」と動く。
「すいませんねぇ、通して頂けますか?家内が、身重でして」
すっと前に出てくれた。笑っている様に見えて、眼に光りはない。この女は私が消し損ねた女なのか。だとしても、もうどうでも善い。治さんは私が善いと、指輪をくれた。お腹の赤ちゃんも。
「卯羅、ありがとう、愛してる」
「急にどうしたの?」
照れたように笑いながら、蓬髪をくしゃっと触る治さん。
「ん?唯云いたくなっただけ」
「私だって、治さんの事、愛してる。沢山愛してる」
笑って、笑顔で愛してると、伝え、伝えられ。
「ねえ、こうやって云うのって初めてじゃないかしら」
「そうかもしれないね。いつも何故か重苦しくなってしまう」
二人で笑いながら伝えるのも悪くない。素直な愛情。照れ臭くなって、頭を掻く治さんを小突きながらの帰路。