01

赤子との生活ももう1年が経過した。相変わらず、私は本当にこの子に触れて佳いのか解りかねていた。
乳母車を押していると私に微笑みかける。私も微笑み返す。喃語で私に話しかける。私も言葉を掛ける。そんな生活を繰り返していた。
家のなかを這い、掴まるところがあれば、掴まり立ちをする。転んでも痛くないように、座布団やら布団やらを敷いておく。
「修治、ママの処に来れるかな?」
少し離れた所で卯羅が手を広げて待つ。卓袱台から片手が離れた。その手を卯羅に伸ばす。
「まー」
「ほら修治、ママの処まで歩いてみたまえよ」
少し離れた所に座る私を、ゆっくりと向いた。そして其のまま私の方に歩いてくる。覚束無い足取りは此方がひやひやする。
「私はママじゃないよ?君のパパではあるけど」
ポテポテという擬音が正しい。不安な足取りで私に向かってくる。
「右向け右、なんて云っても通じないだろうね」
既での所でよろけた。咄嗟に両手で受け止めた。
触れてしまった───こんなに無垢なもの。其のままどうしようか悩むが、息子は私に笑いかけて、私の髪を掴もうと手を伸ばす。
「ぱーぱ!ぱっぱ!」
この子は、私の子。その自覚はあった。けれど、言い知れぬ歓びとでも云うのだろうか、脳が痺れる。
「そうだ、私が君のパパだ」
修治を抱き締めた。膝に座らせると、タイ留めを弄ろうとする。
「此れはまだ駄目だよ。君には素敵な前掛けがあるじゃないか」
大きく象が刺繍されたよだれ掛け。不思議そうに、引っ張ったり、食べてみたり、頬擦りしてみたり。
「可愛いねえ。悪魔のような私からこんな子ができた」
頬をつつくと、卯羅を指差して何かを訴え掛ける。
「ママの処に連れてけって?佳いだろう、運んであげるよ、特別にね」
母親の処に連れていくと、直ぐに抱っこの交代をせがんだ。だが左手は私のタイ留めを握り締めてる。
「さて……どうしたものか……」
無理にでも左手を退かせれば、泣き叫んで私を責め立てる。とはいえ、このまま抱いていてもそのうち、愚図りだす。
「私をこんなに悩ませるなんて君ぐらいだよ?修治」
卯羅は器用に私から修治を受け取り、抱く。すると私の腕の中に二人が収まる。
「おや。此れは都合が善い」
「やっぱり此処が落ち着く」
「まーま!ぱーぱ!」
「修治もパパ好きだもんねー。パパに抱っこしてもらいたかったんだよね」
本心か偶然か。愛すべき息子は頷いてみせた。
「そうか、この子には私が父親なのだね。唯一無二の父親」
「そう、治さんが私を選んでくれた証。見て、こんなに可愛いのよ?」
嬉しそうな妻と笑う息子。此れで佳いのか?佳いのだろうね。きっと、親友が示してくれた言葉の通りなんだ。そして彼はこうなるのを解っていたのかもしれない。
「なら、此の道を歩こう織田作」

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