その図書館は戦前の様式を色濃く残していた。
「へえ。なかなか趣がある」
「こら勝手に触らないの」
「これなんかどう?『そこを何とか、ごまかして、たのむよ、奥さん。キスしてあげよう』」
「『なぜ、「恋」がわるくて、「愛」がいいのか、私にはわからない』此方の方が好き」
「どちらも"太宰治"の書籍だな」
二人で書棚の背表紙を眺めながら、昔読んだ話を思い出す。そうしたら、頭上から声がした。フロアの上に巡らされたバルコニーに、ステンドグラスを背景にして男が立っていた。大柄の中年の男だ。
「君達が今回の任務に携わってくれる探偵社の方かな?」
「ええそうです。此方は太宰治、私は、太宰卯羅です」
「私は此処の館長を務めている者だ。宜しく頼むよ。不思議な巡り合わせがあるものだな。あの太宰治と同名とは」
「最も、彼は津島修治ですがね」
「確かにな。さあ、早速だが、仕事内容を説明しよう」
有魂書という特殊な本を使い、文豪たちを転生させる。そして其の文豪たちを指揮して文学書の中に潜む侵食者を倒す。そんな内容だった。
「一筋縄ではいかなそうだねえ」
「先ずは文豪を転生させるところからだな。じゃあ、卯羅くん、やってみるか。本来は、文豪を潜らせないとだが……」
館長の隣に居たネコが、溜め息を付きながら、有魂書に潜った。
「材料は……ええっと、この有魂書と、洋墨……。結構な量の洋墨を使うんですね」
洋墨を手に取る、卯羅の手が、震える。
「何かを作り出した事なんて、無いから……」
「大丈夫、大丈夫だよ」
洋墨の瓶を持つ卯羅の手に太宰は手を重ねた。その洋墨を有魂書に垂らす。書の中から光が漏れ出る。それは文字となり、1つの形を形成する。
「はあ、見つかったか……僕は徳田秋声、あまり面倒には巻き込んでほしくないね」
先ずは一人目。秋声は面倒そうに自己紹介を済ませた。
「早速だが秋声、有魂書に潜って、仲間を連れてきてくれ」
「僕が?人使いの荒い……」
「ちょっと待ってくれ」
太宰が秋声に触れる。異能の青が打ち消された。
「治さん」
「解るかい?これは異能力じゃない。全く別の何かだ」
言いながら太宰の口角が歪んだようにつり上がる。
「なら、完全に、彼らに頼るしかないようだ。全面の指揮は私が取ろう」
「なら、いつも通り援護すればいいのね」
館長に、司書室、食堂、補修室といった、内部設備を案内してもらう。そして漸く、次の協力者探しに取りかかる。
「次は誰が来るだろうねえ」
「あんまり期待はしないでよね」
洋墨を垂らした有魂書に秋声が潜っていく。
「ほら、連れてきたよ。文句は無しだからね?」
その声と共に出てきたのは───。