35 : 明暗





自然公園を抜けたあたりで思い出したんだけれど、ウソッキーって確かこのあたりにいたんじゃなかったっけ?
と、今更ながらに思ったのがついさっき。でも邪魔そうな木もなく、なんなく37番道路に抜けることができた。

もしかしたら、ヒビキくんあたりがウソッキーを移動させたか、捕まえたのかもしれないなぁ。とぼんやりと考えていると声をかけられる。
もう夕刻も過ぎていて、太陽が溶けた空が真っ赤に染まっていた。


「ねぇ、オネーサンたちとバトルしない?」

「可愛いボウヤね♪」


腕をさりげなく掴まれて、いいにおいにクラクラする。
たしかに綺麗なお姉さんなので(そういう気がないにしても)ドキドキしてしまう。
彼女たちはふたりいて、どうやらダブルバトルって意味のようだ。

何度かしたことはあるけれど、ダブルって言うと彼らに任せるしかない。


「はい、構いませんよ。もうすこしでエンジュシティですよね?」

「そうね、あと一息ってところかしら?マツバさんはすっごくクールでいいオトコよ?」

「アタシも挑戦したんだけど全然歯がたたなくって。だから、練習相手になってね!」


ふたりがボールを投げる。ピクシーとプクリンが出てきて、可愛らしいピンクのボディをあたしに向けた。
赤いボールをふたつとってあたしも宙に投げた。赤い光がボールから出てきて空のボールがあたしの手に戻ってくる。

本日何度目になるかわからないほどのバトルを重ねたふたりだけれど、まだまだ元気そうに相手を威嚇した。


「紅霞、翠霞。お願いします!」

そろそろ僕、イケそうなんだよね

奇遇だな。俺もそろそろだぞ?

じゃあ競争、行くよ!ヒスイ!

「え、あ、翠霞、葉っぱカッター!紅霞はドラゴンクロー!」


何が「イケる」のかさっぱり理解できなかったけれど、言われたとおりに指示を出す。
ピンクの二匹がはじけるように飛んで木にぶつかった。戦闘不能だ。
彼女たちはそれぞれのポケモンをボールに戻して、再度ボールを投げた。
同じ面子、なんだか、つまらないけど。

それは彼らも一緒みたいで。


歯ごたえねーな、こっちはうずうずしてるってのに

まぁね…ま、どんな相手でも負ける気はないけど。

「んもう!レイコ、行くわよ!プクリン歌って!」

「ピクシー、指を振って!」


指がちっち、とふられる。(指というよりは手だけど)
上から大きな岩が降って来て、紅霞にあたりそうになる。

危ない!と声を出そうと前のめりになったけれど、寸でのところで葉っぱが飛んできて岩を切り裂いた。(すごい…!)
小さくなった岩が紅霞のまわりに落ちれば、片目がじろり、と翠霞を睨んだ。


余計なことしてんじゃねェ。

別に紅霞のためじゃないよ、君が傷つけばヒスイが泣くからね


そんなヒスイもそそるけど、と翠霞が口の端を上げれば、ごう、と炎が彼の目の前を抜ける。
炎の勢いに負けたプクリンが吹っ飛んで、紅霞が腕を嫌そうに横に大きく振った。
爪が風を切る音がして、紅霞は走り出す。翠霞も援護するように葉を飛ばした。


借りはチャラだろ?

君に返せるものがあったとは、驚きだねっ!


指示を出さないままバトルが終わって(…)彼らに駆け寄る。身体が光って、身体が、どんどん大きくなっていく。
それもふたりとも、だ。


「う、わっ…」

…チッ

同時か…イケると思ったんだけどな


残念、とあたしの頬にキスをしてくる翠霞は恐竜さながらに大きい。いや、恐竜見たことないけど…。
首の周りの花から甘いいいにおいがして思わず抱きついた。


「おめでとう翠霞!かっこいいよ!」

ありがとう、ヒスイ。これでヒスイをちゃんと守れるよ

おい、俺にはおめでとうはないのかよ?


ぐ、とあたしを傷つけないようにそっと、でも強く抱き寄せられれば、長い濃い赤の首を曲げて顔を寄せてくる。
どんどん見た目が可愛くなくなってしまった紅霞だけど、うん、慣れればこわくない…かもしれない。

おめでとう、紅霞。大きな身体に抱きつけばぽんぽんとあやすように頭を撫でられた。


「あーあ、負けちゃったわね。そりゃこんなに強くてクールなポケモンじゃ仕方ないわ」

「そうね、はい、ボウヤ。マツバさんも応援してるけど、アナタのことも応援してるから!」


お金を渡されて、彼女たちは何処かへと去っていく。こんな時間だし、町に戻るのかな。
ぼーっと彼女たちが楽しそうに話しながら帰る後姿を見ていると、ぽん、と肩を叩かれた。


行くぞ、日が暮れる

「うん…そうだ、ね」


紅霞に背を軽く押されて、進むべき道に視線を戻した。
もちろん紅霞たちみたいなポケモンと一緒に旅をするのは楽しい。
けど、ああして誰かと協力して旅をするっていうのも、悪くないよね。
もっとも彼女たちは旅はしていないのかもしれないけれど。

ついに空が闇に染まり始めて、紅霞の尻尾の炎が地面でゆらゆら照らし出された。



一夜明けて、エンジュの町をふらふらと散歩をしてみた。焼けた塔と呼ばれるぼろぼろの塔と、反対側の奥に、高くそびえたつスズの塔。
エンジュが大切にしてきたふたつの遺産かー、と遠くから見上げれば、後ろで大きく鈍い音がした。
黄色い身体が建物から吹き飛ばされるように出てきて、続いて、おじさんが出てくる。


「ああ!コダック!くそうロケット団め……ん?」

「えっ?」

「おお!お前さんポケモントレーナーだろう!?助けてくれ!」


がし、とコダックを抱いたおじさんに腕を掴まれる。
紅霞なら『まーた面倒事を、』なんて罵りそうだ。
実際ボールが微かに揺れてる。でも紅霞、進化しておっきくなっちゃったからあんまり出してあげられないんだよー…。

建物の中では舞妓さんが隣で(変なダンス?を)踊る男の人を見ていた。若干ひいているのかここからでもよくわかる。
そして奇妙な服の胸の辺りには大きく「R」と書かれている。

やっぱり、予想はなんとなくできていた、けど。


「あー?今俺が踊ってんだからチビが、邪魔すんじゃねーよ!」

「…すみません、でも、それはちょっと迷惑らしいので、是非降りていただけますか?」

「俺のこの腰さばきッ!華麗なフラダンスがみえねーのかよ!ドガースやっちまえ!」


くぱ、と口をあけて主の華麗な(?)フラダンスを観賞していたドガースがあたし目掛けて突進してくる。
え、敵あたしって位置づけなの!?と目を瞑れば、ボールから出てきた真紅が片手でそれを止めた。


油断しすぎ。ヒスイ、平気?

「あ、うん、…ありがと、真紅。」

新しい技、アンタ、食らってみなよ


鈍い音がした。がっ、とドガースを蹴り飛ばして真紅は手に"何か"を溜める。
そのまま床に手を叩きつければ黒い"何か"が真っ直ぐドガースに飛んでいった。
ごとん、とドガースが床に転がる。
そんなドガースに舌打ちして、彼はこの場所(恐らくは歌舞練場)から姿を消した。


悪の波動って技、ここのジムもボクだけで勝ち抜けそうだね

「ここのジムって、」


タイプはエスパーだった?と続けようとするも、先程のコダックを抱えていたおじさんがあたしのことを強く抱きしめてそれは叶わなかった。
目をぱちくりとさせれば、おじさんは肩を掴んであたしの身体を離した。


「素晴らしい!実に素晴らしい戦いだった!サツキちゃんもホラ!」

「ほんま、感謝しますえ」


のほほんとした感じで舞妓さんが笑う。にしても、舞妓さんっていっぱいいるんだなぁ。
確か、舞妓さん5人抜き…とかするんじゃなかったっけ?

おじさんがあたしの手をとって、ぐ、と丸い何かを握らせる。とはいってもあたしの手のほうが小さくて、軽く指に力を入れたくらいだけど。
円盤のそれはまさに技マシンそのもの。だけど、少し色が違うような…


「それは秘伝マシン"波乗り"!おじさんから坊主にプレゼントだ!
 これからジム戦をするならまずは焼けた塔に行ってみなさい、ジムリーダーはきっとそこにいるだろうからね」

「あ、ありがとうございます」


ぺこり、と頭を下げれば、舞妓さんがそっとあたしの肩に手を置いた。
顔を上げれば綺麗に赤に塗られた口が少しして、開く。


「あんさん、名前はなんていいはるんどす?」

「あ、ヒスイです」

「そう…あんさんが、ヒスイはんやったんどす…ふふ、またお会いしたいもんどすなぁ」


おおきに、と彼女はロケット団の下っ端が踊っていた場所で舞いの練習を始めた。
突然服が引っ張られて、振り向けば真紅があたしを見ていた。
あ、そうか、急がないとね。

サツキさんの舞いもほどほどに、あたしは彼女に背を向けて出口をくぐった。
とりあえず、目指すは焼けた塔。マツバさんに会いに行かないと、ね。



2009.11.28



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