◎09 : 崩れゆく安息
「ほ、ほら、ユリアシティ!あたし初めてきたぞ!」
だっ、と走る。
絶対シンクが着いて来ることをわかっていたから。
あの会話を聞かせたくなかった。たとえアッシュだって。
「ちょっとヒスイ!そんなに走ったら身体に障るよ?」
「あ、あはは、でもユリアシティって暗いけれど綺麗だなぁ。
空気も良くないところも"東京"みたい。」
「トウキョー?」
あたしがぼんやり思っていたことを呟くと、シンクがなにそれ?と聞いてくる。
キムラスカでいうバチカルで、マルクトでいうグランコクマって言うと成る程、という顔をした。
「首都ってことか、ヒスイの世界の」
「うん、そーゆうこと。」
シンクの言葉にこくんと頷く。
わかんないんだろうなぁ。たくさん並んでるビルとか、夜に輝くネオンとか。
見る分にはいいんだろうけれど住むとなるとあまりオススメできないよね。
水は不味いしうるさいし明るいし・・・星だって綺麗に見えない。
ぼーっと上を向いていると、ふと視界が急に暗くなった。
後ろに立ったジェイドの陰になったからだ。
「ヒスイ、少し身体を調べさせてください。ここなら少しは落ち着いて調べられるでしょうから」
「ちょっと死霊使い、アンタ変なこと企んでないよね」
「嫌ですねぇ、私がそんなことを考えると思ってるんですか〜?」
フフフとジェイドが笑うと怪訝そうな顔をして彼を睨むシンク。
多分血を吐いたことをジェイドは心配してくれているんだろう。
それがわかるからシンクも下手に断ることもできないんだろうなぁ。
このまま仲良くなってくれればいいのに。
と、少し呆けながら考えてると「阿呆面してまたくだらないこと考えてるでしょ」とシンクに言われてしまった。
くだらなくないよ!親睦って大切なんだけどなー。
「ありがと、ジェイド。でもシンクも一緒でいいかな?」
「勿論ですよ・・・っとその前に、もう一人大変な方がいますねぇ」
ジェイドが元きた道を振り返れば、アッシュに引きづられティアに心配されているルークの姿。
もう決着ついたんだ・・・あたしも最初に戦った頃はすぐ負けたけども・・・。(ゲームの話)
ティアが部屋をかしてくれると言って家へ案内してくれる。
彼女の家って結構狭かった記憶があるんだけど、いざついてみると広い広い。
部屋も少ししかないと思っていたけれどちゃんと客室やら自室やらあって、
多分自室(ティアの部屋)からセレニアの花があるところにいけるんだろう。
あたしは客室に、ルークはティアの部屋に案内された。
そこにジェイドとシンクが入る。
「ヒスイに変なことしたら殺すよ」
「おやおや、残念ですねぇ」
いつもの調子で胡散臭い笑顔で言うジェイドは、すぐに真顔に戻ってメガネを外した。
確か彼のメガネは譜眼を刻んだときの調整に使っていたはず。
でもゲームのエンディングでフツーにくるくる回してたからもう使う必要がないのかな?
真っ赤な瞳を見れば、片目が譜眼のラクトを思い出した。
アリエッタのこともダアトのことも、上手くやってくれているといいんだけれど。
アクゼリュスの人たちは無事だろうか・・・。
「貴方は顔にすぐ出ますから・・・どうせアクゼリュスの方たちの心配をなさっているんでしょう?」
あたしの鎖骨に手を置きながら真っ赤な瞳でジェイドはあたしを見た。
う、と少し言葉につまってから少しだけ頷いた。
「少しは自分の身体を労わってください。暫くは譜術の使用を禁止しますよ」
そう言ってちらり、とシンクをジェイドは見た。
何か、言いたげな瞳をして彼は「作戦について話してきます」と部屋を出て行った。
思いつめたようなシンクに、作戦って何かわからないからだと思って話しかける。
「あのねシンク、ここにいても埒があかないから、外殻大地に戻るための作戦」
セフィロトを使って記憶粒子に押し上げられるようにしてタルタロスごと上に持っていくって大胆な作戦だ。
というか、ロケット打ち上げと大差ない。失敗しないだろうことは予測できるけれどそれでも怖い。
もし途中でエンジン爆破!なんてなったら嫌だな・・・塵も残らない遺体とか・・・!
あたしがひとりで青くなっているのを見て、くす、とシンクが笑った。
「また、くだらない心配してるでしょ」
「う、うるさいなぁ、だってこわいものはこわいだろー!」
ぷにーっとシンクの頬をつねれば、シンクもあたしの頬をつねる。
お互い変な顔になってぶ、と吹き出した。
「あはは!シンクの可愛い顔が台無しだね!」
「ヒスイは変な顔にますます拍車がかかったね。」
「なんだと!?」
キィィィッとディストのごとく怒れば、アンタ死神だよってシンクが腹を抱えて笑った。
そんなに似てたのか・・・!(それはそれでかなりショック!)
笑いがおさまると、仮面をとって軽くあたしに口付ける。
スムーズな手つきにあたしはまたもや油断していた、と心の中でため息を吐いた。
「シン・・・
「ちょっと、作戦について詳しく聞いてくるから。眠っててよ」
・・・う、ん」
くら、と視界が歪んだ。
ああ、今のは・・・シンクがあたしに譜術をかけたんだ。
柔らかい感触がもう一度唇に触れて、あたしは意識を手放した。
今度はしっかり、深い睡眠だろうと覚悟を決めた。
「ん・・・ここは・・・」
「気がつきましたか?」
片メガネがあたしを覗き込む。久しぶりな感じがする。
いつも甘いお菓子の香りを身に纏ってる、天然系お兄さんの・・・
「ラクト!?」
「はい、もう丸3日は寝てましたよ?」
ってことは・・・一体どのくらいまで進んだんだろう。
かなり強い譜術をかけられたようで、身体はすっかり快調だった。
久しぶりに自分の部屋で眠ったけれど、クポたち(の家族。名前もひとつひとつ違う)に囲まれているのはすごく懐かしい。
立ち上がってシンクの居場所をラクトに尋ねると、少し視線をそらした。
「ラクト?」
「あ、いえ、シンクは多分・・・モース様のところです。
イオン様とキムラスカの王女であるナタリア様を誘拐するために動いていたはず・・・。」
とんとん、とノックが聞こえ扉をラクトがあけると、アニスが入ってきた。
ジェイドや髪の短いルークがいる。
「ヒスイさまっ、お願いです、神託の盾騎士団の本部の立ち入りを許可してくださぁぃっ!」
「イオンが攫われたとの報告はあたしも知っています。」
ラクトが引き出しを開けて木札を取り出すと、あたしに渡す。
それにすっとサインをいれてアニスに渡した。
「必ずイオンとナタリアさんはあなた方の元に戻ります。ですが、どうかお気をつけて。」
「ありがとう、ヒスイ」
ティアがふっと笑って、ルークを残して皆が出て行った。
あたしは背伸びをしてルークの頭を撫でた。
「大丈夫、きっと上手くやれるよ、"ルーク"」
初めて呼び捨てれば、かぁっ・・・と彼は赤くなった。
そんなにテレることなのかなぁ・・・。
「ヒスイ、俺さ、変わるから。お前が俺を叱らずに罪を受け入れたように・・・。
俺も、受け入れて・・・できることをしたい。」
「うん、ルークならきっと大丈夫。」
ありがとな、ヒスイ。彼はそういってあたしを一度抱きしめてから部屋を飛び出した。
まだ彼らの中でルークを理解しているのはガイとティアだけだろう。
救われるナタリアも、ジェイドもアニスも。ルークの評価を変えてはいない。
に、しても・・・とラクトは紅茶とマフィンをあたしの机に置いた。
甘い匂いに誘われてつい手を出す。3日以上何も食べてないわけだし・・・。
そういえばなんか最近痩せた気が・・・。
「イオン様を奪還したあと、あの方々はどうなさるのでしょうか?」
「恐らく・・・キムラスカは既にモースの息がかかっているから、マルクトに向かうだろうね」
「マルクトですか・・・」
ラクトがくれたマフィンを平らげてシャワー室に向かった。
暫く浴びてなかったせいもあって随分スッキリした。
マイシャンプーは今も健在であたしの髪にうるおいを与えてくれた。
服を着替えて髪を乾かすと、いつものようにクポが匂い袋を渡してくれる。
(クポが綺麗になっていた。多分3日のうちにラクトに洗われたんだろう)
クポを肩の上に乗せて部屋に戻ると、ラクトもシャワーを浴びたように栗色の髪がさらさらしていた。
彼は常にあたしの考えていることを読むように行動する。
シャワーをしたのだって、あたしが"彼らと行く"ことを予想しているからだ。
そういえば、と荷物をクポに預けながらラクトを見た。
「アリエッタはどうなってるの?」
「自室で謹慎、ということにしています。時期がくれば行動するようには伝えていますけれど・・・」
「上出来だよ、ありがとう。」
あたしが礼を言うと「ヒスイ様ならそうなさると思って」と少し笑った。
トリトハイムにまた暫く教団をあけることを告げ(かなり困ってた。そうだよね、大詠師もどちらの導師も不在なわけだし)
あたしは第四石碑の丘にのぼる。丁度、彼らが脱出してくるのが見えた。
「ここでイオンたちを待とう、ラクト。マルクトに行くぞ」
「ですが、シンクは如何するのですか?」
「いずれ会えるよ」
ラクトの問いに簡単に答えると、全速力で走ってきたルークたちと合流した。
あたしを見るなりジェイドがわし、と掴んだ。
「どうしてここにいるのです」
「あたしも、きっと何かできると思って」
へらり、と笑うと、ジェイドは深くため息を吐いた。
結局ジェイドはあたしに譜術を使わないことを約束させて同行を許可した。
譜術が使えないとなると頼りになるのはクポとラクトくらいだ。
でもそんなに心配しなくても大丈夫なのに。
アニスが「これからどうするんですかぁ?」とジェイドの顔を覗き込む。
「伯父上を止めればいいんじゃないか?」
「忘れたの?陛下にはモースの息がかかっているわ」
ルークの提案にティアが呆れたように言うと、ナタリアの視線が下がった。
父親が過ちを繰り返そうとしているわけだしね・・・つらいだろうなぁ。
ジェイドが「セントビナー崩落」について口にすると、ラクトが首をかしげてあたしに耳打ちした。
「ヒスイ様、セントビナーまで崩落するのですか?」
「うーん・・・セフィロトツリーが消えたらそうなるかな。
そっか、ラクトには話してないんだっけ」
あたしは彼らの話してる横でこっそりと教えた。
「この世界はセフィロトツリーによって支えられている外殻大地なの。
地下がユリアシティのあった魔界ね。
ルークがアクゼリュスのセフィロトツリーを消滅させたからアクゼリュスは崩落したんだけど・・・」
ちらり、とルークを見る。
大丈夫、気付いてないようだ。あたしは続けた。
「アクゼリュスにあったセフィロトツリーは南ルグニカ地方全体を支えていたの。
あたしが寝ている間崩落した地方の話は・・・」
「はい、聞きました」
「そう。で、ヴァンの次の目的はセントビナーあたり。
これは・・・ほ、ほら、あたしが前にセントビナーに入ってシンクに攫われる前に、タルタロスを六神将が襲ったでしょ?
あのときにあたしがセフィロトの扉をあけたから・・・」
あたしがそこまで言うと納得したように成る程、とラクトはジェイドを見た。
どうやらマルクトに行くことに決まったらしい。
アッシュの残したタルタロスを使って、あたしたちはマルクトへ目指した。
08.07.24 09 -- 立ち止まるわけには、いかないんだ。
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