11 : 要塞都市へ






「私はマルクト帝国軍第三師団・師団長ジェイド・カーティス大佐だ」


凛とした声が響いた。






タルタロスでローテルロー橋まで進み、それからここテオルの森までは歩いてきた。
いい加減アニスが疲れたようにイライラしながらイオンをずい、と前に差し出す。

同じ導師守護役のアニスとラクトだけれども、ラクトはのほほんと一部始終を見ていた。
いやまぁ、多分ラクトはあたしを導師だと言ったところでいれてもらえないことを理解しているんだろうけれど。

アニスの声がマルクトの兵士さんに噛み付いた。


「こちらはローレライ教団の導師イオンであらせられますよ!」

「これが罠だとも限りませんので、たとえダアトの方でも許可することはできません」


ぶー、とアニスが木の根元に座り込んでスネ始めたのでジェイドは苦笑した。
ラクトは「ここが教会ならお茶もできるんですけどね」ととても残念そうにしている。
彼の脳内はいつでも花畑なのか・・・うん。


「皆さんはここで待っていてください。
 私が陛下にお会いできれば、すぐに通行許可をくださいます」


こっそりと、ジェイドはあたしの鎖骨に触れながら「約束を守ってくださいね」と言って兵士さんと森に入った。
約束、譜術を使わないってこと。
すとん、とその場に座って手をぐーぱーぐーぱーとしてみるが、とても調子がいい。

なんでジェイドもシンクもあたしを心配するんだろう。
アクゼリュスが崩落したときに吐いた血は別に・・・ただ疲れがたまってただけだし。

そういえば最後に助けた彼(名前は確か、ジョンと言ったはずだ)は無事にバチカルに送られたらしい。
ただ彼の父は私の助けた中にいたとしても彼の母はエンゲーブにいたはずだ。

あたしはそのことを思い出してエンゲーブ避難あたりに書き込んでおいた。
色んなことを2年もすれば忘れがちになる。だからこうして思い出したことはその場で書いておかないと。

そういえばこの後シンクがカースロットでガイを操るはずだ。
だけど彼らの目的は導師であるイオン。つまり、導師ならあたしでも構わないはず。
ガイのカースロットの解除はイオンがきっとグランコクマでやってくれるはずだから・・・。
そっ・・・、とあたしはラクトに聞いた。


「どうして導師イオンが六神将に狙われるの?
 導師という立場が必要ならあたしを使えばいいんだと思うんだけど・・・」

「前にリグレット様がヒスイ様を使って封印を解かせたことがあったでしょう?
 あのときに、後で彼女はヴァン様にこってり叱られたらしくて・・・イオン様はいいけれどヒスイ様はダメらしいです。
 私はアリエッタ様といましたし、何故かアリエッタ様もそれに賛成してシンクは言うまでもありませんからね。
 結局導師はイオン様を使うことに決めたらしいです」


ラクトがイオンに聞こえないようにこっそりと話した。
ヴァンが思っていることはなんとなく想像できる。
それはレプリカを作れない被験者のあたしを使うよりも、レプリカであり代用がきくイオンを使ったほうが効率的だからだと思う。

ならなんでイオンを狙うんだろう・・・レプリカ情報もあって譜業もあるなら普通はイオンを量産したほうがいいのでは?
多分そうできない理由があるんだよね。できたとしてもさせたくないことだけれど。
シンクのようなダアト式譜術に適してないレプリカもいるし。
そう考えるとレプリカって姿は同じでも被験者とまるで違う個々の性質があるんだなぁ。

ふう、とため息をついて考えたことを手帳にまとめると、悲鳴が聞こえた。


「今のは・・・!?」

「悲鳴ですの!」


ミュウがティアの膝の上できり、とした顔をする。
ナタリアが先程兵士のいた場所まで走って彼の頬をぱしりと軽くはたいた。


「しっかりなさい!」

「ナタリアさん、この方を回復してあげてください。」


回復された兵士さんはナタリアにお礼を言って頭を下げた。
神託の盾の兵士が紛れ込んだと彼は言った。

隠れながらあたしたちは先へと進む。
ティアが半ば呆れているけれど、まぁ仕方ないよね。


「ルーク、ちょっとあたしに任せてよ。」


流石にこの人数でこそこそ動くのは難しい。
近場に在った石をあたしたちのいる場所より遥か遠くに投げて石が落ちるのを待った。

かつん、と音がして転がる石に兵が様子を見に走る。その隙に全員でだ、と走った。






「もうすぐ出口だ!」


ルークが言うとナタリアは倒れている兵士を見つけて走り出す。
駆け寄った途端ラルゴがどこからともなく現れた。


「お姫様にしてはいい反応だな」

「おまえは砂漠であった・・・ラルゴ!」


ナタリアが弓を構える。ルークも剣を抜いて構えた。
あたしはそのやりとりを見てから木の上を一瞬だけ見て走り出した。
譜術は使ったら怒られるけれど・・・これがシンクなら、絶対にあたしは死なない。


「前ばかり気にしていてはいかんな、坊主」

「え?」


ヒュン、と音がしてガイは剣を頭上高く振り下ろそうとする。
眼を瞑ってくるべき痛みに耐えようとするルークの前へあたしが躍り出るとぴたり、とガイの腕は止まった。

・・・やっぱり可愛いな、シンクは。


「いけません、カースロットです!どこかにシンクがいるはず・・・!」


イオンが叫ぶと同時に地震が起こった。ぐらぐらと足元が揺れてティアが叫んだ。
その声にナタリアは矢を木の上に向けて射る。

どさり、とガイが気を失って倒れると、木の上からシンクが降りてきた。


「・・・地震で気配を隠しきれなかったか」

「ああ、シンクが操っていたからヒスイ様をガイは斬らなかったのですね」


へらり、といつもの調子で言う。
そんなラクトをシンクは軽く睨んでから拳を作った。イオンとアニスが倒れたガイの傍に寄る。


「どうしてイオンを狙うんだ!」

「誤解しないでよね。ボクは導師なんてどうでもいいんだよ。」


え?とあたしがシンクを見ると、口をへの字にしてシンクは続けた。


「ラルゴたちはアンタたちの大切な導師サマを狙ってるらしいけれど、ボクの目的はヒスイだよ。  ダアトで大人しくしててくれない馬鹿な姫をお迎えにきたってわけ。
 まぁ、多少ラルゴたちに協力してやったけどね」


と、仮面越しにガイを見やる。
シンクは六神将・・・つまりはヴァンと繋がってないんだ!?
物凄い今更知って吃驚した。
でも何故、シンクはイオンとナタリアを攫ったんだろう?


「ヒスイ、ボクはアンタを・・・」

「なんの騒ぎだ!」


シンクが何かを言いかけて、口を閉じた。マルクトの兵士がきたからだ。
ちっ、と舌打ちをしてラルゴとシンクは森へと戻ろうと背を向ける。
あたしはシンク!と叫んだ。


「また、ね!」

「・・・!」


あたしがそう言うと驚いた顔をする。ただ返事をする前に兵が姿を見せて慌てて彼は森に消えた。





グランコクマでフリングス将軍に会い、イオンとガイとアニスは宿に残ることになった。
ルークはカースロットの本質を聞いて明らかに動揺していた。


「ヒスイ様、まさか貴方がいらっしゃるとは」

「久しぶりです、フリングスさん。」


あたしは彼との久々の対面に、ラクトは首をかしげた。


「ヒスイ様はフリングス将軍とお知り合いなのですか?」

「あ、うん。一度仕事でグランコクマの陛下の謁見をイオンの代わりに任されたことがあったでしょ?」

「そうでしたね・・・あ!すみません、私は神託の盾騎士団導師守護役所属、ラクト・ブラウズ響長です。
 どうぞよろしくお願いしますね」


へらり、と笑って彼は左手を差し出した。
戸惑いながらもフリングスさんはその手をとる。ああ、だからいつも握手は右手でやれっていってるのに。
あたしの視線に気付いたのか、す、すみません、と慌てて彼は手を引っ込めた。


「陛下もぜひ、ヒスイ様にお会いしたいと。」

「陛下・・・ねぇ・・・」

「よろしければ皆さんの話の前にお会いしてくだされば、私たちも安心です」


あの陛下ならあたしに会うために城を抜け出して街で迷子になるくらいのスキルはあるはずだ。
あたしはしぶしぶ了解して城に案内される。
相も変わらずピオニーの私室は汚かったけれど、ブウサギがあたしに向かって飛びついてきた。


「ぐはっ・・・君、見ない顔だね、新入りかな?」

「ああ、名前はヒスイだ。本物もこっちも可愛いなっ♪」


ぎゅ、と後ろから抱き付いてくるのは、ジェイドより少し健康的な肌の色をしている、彼。
マルクトを収めているピオニー九世陛下だ。


「ピオニー、お久しぶり。相変わらずだね」

「あったりまえだろ!いやぁ、久々のヒスイの感触・・・におい・・・v」

「変態みたいだからやめなさい」


べり、とピオニーを剥がして汚い部屋に置かれている立派なベッドに座る。
ラクトは笑っているが、若干頬が引きつっている。まぁ、一国の権力者の部屋にこうもどうどうといたら吃驚するだろうなぁ。

ふう、とため息をつけばピオニーが隣に座って頭を撫でてくる。


「おまえも相当疲れてるだろう?」

「まさかこんなに大変だとは思わなかったからなぁ・・・」


ゲームではカーソルを押していれば世界を歩けるんだもん。
体力の無いあたしにとってはものすごくつらい。けど。

でも城に軟禁状態のピオニーも大変なんだろうなぁと思って彼の頭を撫でた。


「ピオニーも大変でしょ?あたしに気を使わなくてもいいんだぞー。」

「大変だけど、そうだな・・・ヒスイが今すぐ俺の嫁になってくれれば全部解決するような気がする」

「しないから。」


ピシャリと言えば、ラクトはふう、と珍しくため息をついた。
それに気がついたピオニーが前のヤツとは違うな、と彼を覗き込む。


「彼はラクト。シンクと同じ導師守護役」

「へぇ、あんたは"ボクのヒスイに手を出さないでよね!"とかは言わないんだな」

「それは、シンクですね。彼らしいですね」


ふふ、と彼が笑うと扉が開いてフリングスさんが入ってきた。
「皆さんがお見えです」と言って頭を下げた。


「じゃ、俺は行ってくる。おまえは息抜きに街でも見てきたらどうだ?」

「うーん・・・」


そうする、とあたしはラクトの手をとってピオニーの私室を抜け出した。
ジェイドにピオニーとあたしの関係は運良く知られてはいない(前にきたときは仕事でいなかったしね)。

グランコクマは要塞と化していて前のように綺麗な水の譜術は見られなかったけれど、それでも街は活気があって少し気がまぎれた。

正直言うと一番の悩みはシンクではなく、レプリカの命だ。
つまりレムの塔の話でまだ少し先になるけれど。
第七音素はあたしの思うようにいかないのが難点だ・・・今はどうにでもなるとして、ローレライがヴァンに閉じ込められたら。
あたしは第七音素をほとんど限りある中で考えて使わないといけない。

ぼーっと雑貨屋の前でそんなことを考えていると、ごつんと頭に何かがぶつかった。


「アンタが難しい顔をしてると、なんだか違和感あるからやめなよ」

「シンク?」


頭にあたったのは彼の拳。おそらく、あたったのではなく殴られたのだろう。
ラクトは後ろで必死に笑いをこらえてた。


「アンタが中々気がつかないから、・・・って、オキラクト!少しは黙っててよ!」

「だってシンク、ヒスイ様が気がつかないからどんどん不機嫌になって・・・っあはは!」

「殺すよ!?」


フードを被ったシンクはぐ、と拳に力をいれる。それでも尚も笑い続けるラクトはある意味すごいなぁ。
あ、そうだ、とあたしはシンクを見た。


「シンクはどうして六神将にほんの少し肩入れしてるの?」

「どうしてって、あの甘ちゃんを使わせないとヒスイに負担がかかるからに決まってるでしょ?」


何今更、みたいな言い方をされて少しまた考える。
あたしがダアト式譜術を使うことによってあたしの体力が消耗する。
そういう場合にレプリカイオンを使っておけばあたしは体力を消耗せずに済む?
だから、シンクは六神将に加担してイオンを攫う手伝いをしているのか。


「ねぇ、ヒスイ。ちょっと歩こうか」

「私はここでお待ちしていますね」


ラクトは気を使ってベンチに行って座った。
あたしはシンクに手を引かれてそのまま街のはずれまで連れられた。







08.07.25 11 -- アンタを失うくらいなら、世界なんか要らないんだ。





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