◎24 : 忘れないで
「ねぇ、ヒスイ。ラクトほっといていいの?」
「う、うーん・・・どうだろう?でも何か考えがあるんじゃないかなぁ・・・」
あたしは軽く首をかしげた。
ユリアシティでラクトはジェイドたちについていった。
シンクが言うように何か思いつめた顔をして行ったから、少し心配はしてる。
でも彼はあたしやシンクと違って大人だから、大丈夫だとは思うけど。
そもそもシンクのほうがちょっとおかしいというか。
今現在一体どうすることが正解なのか、それを見極めるべきだと思う。
けど彼はそれをあたしにすべて任せっきりなんだよね。
あたしの進む道が正しいか正しくないか、そういうことにまるで興味を示さない。
できればちゃんとシンクにも考えてほしいんだけど・・・な。
「シンクこそ行かなくていいの?これから何をするのか知らないんじゃ?」
「ボクはいいんだよ、ヒスイが知ってれば、ボクはヒスイを守るだけだから。」
恥ずかしげもなく、白い服を身に纏ったシンクは言う。
その緑の瞳はあたしを見つめず遠くの海をじっと見ていた。
そんな様子に話しかけられず、つられるようにして海を見る。
キラキラと太陽が海に反射して目を細めた。
後ろから足音がして、少しだけ振り返る。
「ヒスイ様、シンク。お話は終わりました。出発できますか?」
「りょーかいっ!」
「目的地に変更はない?」
シンクがラクトを見る。彼は首を2,3左右に振って答えた。
「えぇ、目的地は、アブソーブゲートにあるパッセージリングです。」
キラキラと光る粒子の中を下に下に下りていけば、最後のワープまで簡単に来ることができた。
まぁ、あたしはここは初めてだけど他の皆がある程度道を作ってくれてるんだよね。
「この先には・・・神託の盾の誰かがいるのですわね」
「リグレットかラルゴか・・・」
ナタリアの囁きにアニスが答える。その中にシンクが含まれてなくて安心した。
この先にはシンクもいなければモースもいない。
それだけで、随分心が軽くなった。
ちらりとシンクを覗き見ればつまらなさそうに頭の後ろで手を組んでいた。
「どっちもかもね」
「えぇ、シンクの言うとおり、2人いるかもしれませんねぇ。」
ジェイドがさして気にしないような素振りで軽く言う。
そんな彼を軽くシンクは睨んでからあたしの手をとった。
ナタリアは不安そうに下を向いている。
「ヒスイ、無理はしないでよ」
「はいはい、心配しすぎだよ、シンクは。」
ぎゅっ、と強いくらいシンクがあたしの手を握る。
優しすぎるその瞳を見ていられなくてジェイドの方を見る。
さぁ、作戦開始だ。
「ジェイド、お願いがあるんだ。」
「ヒスイのお願いなら喜んで聞きますよ〜?」
「ヒスイに触るな、死霊使い!」
ジェイドがあたしの腰に手を回すとそれをバシ、と叩くシンク。
大袈裟に痛がっているジェイドの顔は笑っている。まったく、いい性格だ。
気を取り直してあたしは話を続ける。
「あたしが合図したら、皆、攻撃をやめてほしいんだ。」
「それでは防御に徹しろと?」
「あー・・・そういうことだけど、多分防御もしなくていいよ」
どういうことですか?とラクトが目を大きくして聞いてきたけど、ひみつ、とだけ答えてワープの上に乗る。
慌てて皆が乗り込んできた。
「もぉーっ、ヒスイ様っていっつもいきなりなんですから!」
「考えがあるのもわかるが、ルークみたいにすぐに行動しないでくれよ?」
アニスとガイがからかうようにあたしを責める。ごめんごめん、と謝れば2人は笑った。
こんなに、彼らは楽しそうに笑ってるんだ。
あたしが、守らなくちゃ。そのための存在なんだから。
「ヒスイ!」
ルークがあたしを呼んだ。暖かい手があたしの手を包んだ。
「行こう!」
「・・・うん!」
光が、あたしたちを包んで、そのまま下に下がっていく。
もう後戻りはできない。・・・しない。
もう少しなんだから。
「レプリカ!!何故ここにきた!」
「アッシュ・・・ラルゴ!」
アッシュが叫ぶのと同時にナタリアが痛そうな声を発する。
ちらりとアッシュがナタリアを見たが、すぐに目の前を見る。
ラルゴと対峙していたアッシュの目の前で、光が集まっていく。
あまりに眩しくて見ていられず、目を細くした。
光の中からあの男の声がする。
「ようやく・・・形を保てるようになったか」
「師匠・・・!」
ルークの目が一瞬だけ揺らいだ。こんなにも、つらいんだ、現実って。
だからやらなくちゃ、あたしが。
気合を入れなおしてヴァンを睨む。そうしていれば、後ろから肩を抱かれた。
振り返るとラクトが優しい笑顔を浮かべていた。
「全てを、ひとりで背負い込まないでください。何の為の"守護役"ですか?」
「ラクト・・・」
「ヒスイ様、下がっていてください。シンク、ヒスイ様を頼みますよ」
「当たり前、そっちに集中してないと怪我するよオキラクト。」
シンクが襲い掛かってくる魔物からあたしを守るように飛ぶ。
回し蹴りを綺麗に決めるとニヤリと妖しく笑った。
「やるんでしょ、ヒスイ。ヒスイにしかできないこと。だったらボクはそのヒスイを守るだけッ!!」
そうしてまた飛んでいく。どうやらアッシュは既にもう逃げたヴァンを追って行ったみたいだ。
あたしも、やらなきゃね。
右手を上に掲げる。どくん、と胸が鳴って呼吸が苦しくなる。
それでもあたしの足はちゃんとこの身体を支えていた。
『呼んだか』
「シャドウ、作戦通り、お願い。」
『承知した』
シャドウが胸に右手を当てた。
闇が、全員を包み込む。
「・・・ッ!?」
「ラルゴ、苦戦してるね。あたしたちが手伝ってあげる」
ニヤリ、と"あたし"が笑う。ラルゴの巨大な鎌を奪ってジェイドとルークの身体を引き裂いた。
「ぐはッ・・・!!」
「ヒスイ・・・何を・・・」
そのまま血にまみれた鎌でガイとアニスの身体を刻む。
血がそこらじゅうに飛び散って、痙攣したのちにぴたりとその動きをとめた。
息絶えた証拠だ。
"あたし"はラルゴの方を見ながら、笑ってシンクとラクトの首を落とした。
「ねぇラルゴ、迷ってるの?ヴァンの思う世界についていくこと。
それだけしか道がないのに。」
「ヒスイ・・・一体何をしているんだ・・・?」
「だって、ラルゴには殺せないんでしょう?だからあたしが殺してるの。虫ケラ共をさ」
あははっ、腹から声を出して"あたし"が笑うとふらふらと大きな鎌を振ってティアの両足を切断する。
ティアが泣き叫んで杖を握ろうとするのが見えて、その両手も切断した。
「まぁ、生きてたら別に両手両足なんてなくても許してくれるよね、ヴァンは。
さぁて、ラストは可愛い可愛いメリルだね。大事なラルゴの一人娘、メリル」
血でぬるぬるとした手の平でナタリアの頬を撫でる。
ひっ、と喉の奥で悲鳴にならない悲鳴を彼女はあげた。でも"あたし"は笑って鎌をとった。
それをラルゴに渡す。
「どうせだから、自分の手で殺しなよ。父を捨ててのうのうと城でオウジョサマになった娘なんかさぁ、殺しちゃえ。」
「め・・・メリル・・・」
「お父さま・・・やめて・・・殺さない、で・・・」
ナタリアは小さな声で懇願する。ラルゴは鎌をナタリアに向けようとはしない。
"あたし"はゆっくりとラルゴに近づいて鎌を奪った。
「どうせ死ぬんだよ?だって、レプリカの世界が完成したらナタリア姫もメリルも死んじゃう。
でも大丈夫だよラルゴ、ヴァンはラルゴだけのメリルを作ってくれる。シルヴィアも。
だからここにいるメリルは、要らないでしょ?」
だから、殺しちゃおう?
"あたし"が鎌を振り上げた刹那、ラルゴはナタリアに抱きつく。
庇うように、護るように、大事そうに力強く抱きしめる。
「やめろおおぉぉぉおぉおお!!」
ラルゴが叫ぶ。鎌は、光となって消える。
血もバラバラになっていた皆も光となって消えていく。
ラルゴが次に目を開けたときには、腕の中にナタリアがいるということ以外、何も変わっていなかったのだ。
闇が包み込んだ前と、今と。
「お、俺は・・・?」
「ラルゴ・・・?」
キョロキョロとラルゴが周りを見渡す。最初に殺されたジェイドも何事もなかったかのようにニコニコしている。
ルークも剣をしまっていて、困ったように頭をかいていた。
血まみれで死神のようになっていたあたしの服も、何も変わってはいなくて。
ラルゴを含む、(多分ジェイドとラクトを抜いた)メンバーに説明するようにあたしは話し始めた。
「"悪夢"だよ、ラルゴ。シャドウに力を借りて見せたの。」
「シャ、ドウ・・・?意識集合体、か・・・?」
「まぁ、そういうことだね。厳密にはちょっと違うけど。ありがとう、シャドウ」
『また、困ったら呼ぶといい』
そういってシャドウは消えた。
賭けに出て正解だった。ちょーっとだけヒドい映像だったけど・・・。
因みにあたしとラルゴ以外、この映像は見れない。
術者とターゲットだけなんだけど、良かった、見られなくて。
あんなグロテスクな映像、あたしでもホントは見たくなかったんだけど、こうでもしないと
きっとわかってもらえなかった。
「今のはあたし以外、ラルゴしか見てないよ。でもラルゴ、わかったでしょ?
自分がどれだけ大切なものをその手で苦しめていたか。」
「・・・。」
「ラルゴは逃げてるだけだ、この世界から、この現実から。
ひどいと思う、あたしだって・・・この世界。預言に毒されて守るべきものを切り捨ててきた。
世界に裏切られて自分にも騙されてたんだから。
・・・だからこそナタリアのこと、信じてあげなよ。たったひとりの家族なんだから」
ラルゴはいまだに抱きしめているナタリアを見る。
少し離れた場所に落ちてる自分の鎌を一瞬だけ見て、ナタリアをもう一度強く抱きしめた。
ふと、視界が急に変わった。がくんと膝をついでぐるぐると地面が回る。
口から血が溢れるのがわかった。鉄の、味がする。
「ヒスイ様!」「ヒスイ!」
ラクトとシンクが同時に叫んであたしの身体を支える。
がくがくと震えるのは、たぶん、きっと副作用だ。
パッセージリングを、とラクトが言った。おそらくは、ジェイドにだろう。
ばたばたと足音が遠くなるのが少しだけ聞こえた。
ゆっくり、目を瞑る。
ラルゴがこっちにきたようで、黒く大きな影があたしの上に重なる。
「ヒスイ、悪かったな・・・俺が後悔しないように、その身体をはってくれたんだろう」
「ば、か・・・だな・・・一緒に、いなくちゃ、だめなんだ・・・家族、は、さ・・・」
口の端からどろりと血が流れ出るのが嫌でもわかった。
誰かが泣いてあたしのその血をぬぐった。
途端に優しい光があたしの中に入ってきて、少し身体が軽くなった。
「ヒスイ、しっかりなさい!
貴方はまだすべきことがあるんじゃありませんのッ・・・!?」
「ナタリア・・・?ここに、いるのか・・・そう・・・あたしはまだ、死なない・・よ・・・?」
ニッ、と力の限り笑って目を開ける。うっすらと、金色の綺麗な髪がうつった。
「ちょっと、休憩するだけ、だから」
「ヒスイ!」
シンクが叫んだけど、あたしは目を瞑った。
そう、ちょっと休憩するだけ。
少しだけ眠らせて。最期に備えて。
08.11.27 24 -- あとは、なんとかなるから。きっと大丈夫だから。
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