06 : 救うべき世界







すた。
アリエッタが綺麗に着地した。だけどあたしはまだ降ろしてもらえなさそうだ。





「ヒスイ!」
「シンクー、そんなに焦らなくてもちゃんときたのに。」


ぼて、と落とされたところをシンクにキャッチしてもらった。
ふわりと優しく抱きとめてもらうと、目の前にはあの仮面がある。


「死霊使いになんもされてないよね?」

「大丈夫だよ、ジェイドは少しスキンシップが多いだけで結構まともな人だし」


あたしがクスクスと笑うと、シンクはあたしを持ちながらとある部屋へと向かった。
うーわー、流石"城"っていうだけあってゲームより全然広い!
そのとある部屋をあけて少し埃くさいベッドに座らされる。


「ヒスイのことをアリエッタに頼んだ後、少しは掃除したんだけどさ・・・」

「大丈夫だ、最近調子いいみたいだから」


きっとシンクはあたしの悪魔を心配してくれているのだろう。
こういう少し埃っぽいところでも過剰に悪魔は反応するから。

どさ、とシンクも横に座るとあたしの身体をぎゅっと抱きしめる。


「数日離れたせいもあってさ、ボク、もう一分一秒アンタと離れたくないよ」

「・・・シンク。もう少しだけ、離れてないといけない。」


あたしはシンクの髪を撫でながら仮面をとった。綺麗な瞳があたしを捉える。
ぎゅ、っとまた腕に力が入って「・・・ヤダ」というシンクの額にキスをした。


「いい加減アンタの考えてること、話してよ!そんなにボクが信用できないワケ・・・?」


シンクがつらそうにあたしを睨むから、ついシンクの胸に顔をうずめた。
頑張って体鍛えてたっけ、ほどよいかたさと安心感がそこにはあった。
ふぅ、と一回息を吐いてから、シンクから離れた。
そろそろ計画を、始動しなければ。


「シンク。アクゼリュスは、崩落する。秘預言に読まれているとおりに。」

「うん・・・。」

「あたしは関係ない民間人を巻き込みたくない。だけど、ヴァンを止める力は残ってない。
 ならせめてアクゼリュスが崩落する前にアクゼリュスに暮らす人たちを移動させる。」


途端シンクは眉間に皺を寄せた。
あたしが力を使えばあたしへの反動もあることをシンクは痛いくらい知っている。
きっと心配してくれてるんだろうなぁ・・・。
それと同時にあたしがこういうことに関して頑固なのも理解してるだろうから今更止めることもできなくて渋ってる、って感じだろうか。

暫く何かを考えたあと、わかった、とシンクはあたしの眼を見た。


「アリエッタとボクでヒスイの負担を減らす。だから、アンタは無理しないでよ。」

「シンク・・・。」

「今現在あのレプリカたちはアクゼリュスについて知らない。ヴァンもこれからあいつらとバチカルに向かうでしょ?」


ならヒスイを先にラクトとアクゼリュスに向かわせるから。ボクはまだいけないけどさ。
シンクは立ち上がってアリエッタを呼びにいく。多分アリエッタの魔物を貸してくれるんだろう。
ぼう、とあたしは窓の外を見た。夕刻なのか空はぼんやり赤くなっていた。






「アリエッタ」

「シン・・・ク。」

「アンタの友達、貸して欲しいんだけど。ヒスイとラクトを運べるくらいのライガがいいな」


ボクはいつもアリエッタが乗っているライガを見た。コイツじゃ少し小さいな・・・。
じーっとアリエッタはボクを見た後、少しため息をついてライガに近寄る。
ライガは黙ってアリエッタの話を聞いた後、屋上から飛び降りた。


「ヒスイは・・・何処に行く、ですか?」

「アクゼリュス。アンタの親をそうしたように、住民を助けるんだってさ。
 ヒスイも同じくらい自分のことを思ってくれるとボクも安心なんだけどね」

「アリエッタも、後でお手伝い、行く。シンクも行く?」

「もちろんだよ。でもアンタ、フェレス島を復活させたいって言ってなかったっけ?」


ヴァンにたてつくことしていいの?とボクが問うと、少し困ったようにアリエッタは俯いた。


「アリエッタ、イオン様がいて、ママも元気。
 いつかヒスイ言ってた・・・死んだ人が望むのは復讐じゃないって。」


憎しみは憎しみを呼ぶ、アリエッタのこと、恨む人もきっと出てくる。
だから・・・アリエッタはぎこちなく笑った。
アイツは・・・ヒスイは、預言をことごとくぶっ壊している。
ヴァンが預言のない世界を望んでいるのなら、オールドラントが滅ぶ預言をヒスイに壊してもらえばいいのに。
でもきっとそんなことをヴァンが口に出して頼むことがなくても・・・アンタはこの世界を救うんだろ?
ボク、ヒスイについてっていいんだよね・・・?

暫くボクとアリエッタが黙っていると、アリエッタのライガがもう一匹大きなライガを連れてきた。
ライガの首を撫でて何かを言うと、ボクに向き直る。


「この子で、いい?」

「うん、上出来だよアリエッタ。」


これで少しはヒスイの負担が減るといい・・・いや、そうじゃないといけない。
ディストに言われたことが頭によぎる。


『シンク、少し話があります』

『なんだよ死神、生憎ボクはアンタと違って忙しいんだけど?』

『ムキィィィィィ!この事は復讐日記に・・・っと、今日は真面目な話です。』

『へぇ、アンタにそんな話ができたんだ。・・・で、なんなのさ?』

『実は、ヒスイが・・・・・』

本人には言ってない話。だけどこれ以上ヒスイに無理はさせたくない。
もしディストの予想が当たったら、ボクはっ・・・!


「シンク?」

「あ、ごめん。ありがと・・・じゃあこのライガ借りていくよ」


柄にもなく礼を言うと、アリエッタは小さく頷いた。
ボクはライガを連れてヒスイのいる部屋に戻る。
にぎやかな声が聞こえて、あいつらかきたことが風で悟った。





「ヒスイ、アリエッタの友達、連れてきたよ」

「あ、でかいライガだ!」


うはー、もさもさ!
シンクが連れてきたライガはあたしを見るなりすぐに飛びついて頬を舐めてきた。
昔からこう、動物が好きでとくに毛がもさもさしてるのは大好物。
眼に入れてもきっと痛くないに違いない(ムツゴ○ウさんみたい・・・!)

暫くもさもさして楽しんだ後、ちゃんとシンクに向かって礼をいった。


「ありがとね、シンク」

「・・・アクゼリュス、救ったら、身体で払ってもらうからいいよ」

「このイタイケな少女に何をさせる気ですのッ!?」


あたしはそう言ってクスクス笑う。
あー、あたしも随分丸くなったもんだなぁ。
前の世界では冬樹くらいにしかこんな態度をとることがなかったもんなぁ。
家にだって・・・居場所がなかったし・・・。

笑ったあとぼーっとするあたしにシンクは不安そうに覗き込んだ。
すっと仮面を外してあたしの瞼に唇を落とす。


「アンタ、すぐひとりで抱え込むから。たまにはボクやアリエッタ、ラクトを頼りなよ」

「ん・・・ありがと、シンク。」


あたしはシンクの手を借りて立ち上がり、ディストのいる地下へと向かった。
手を繋いで、歩く。腰から何かさがっているのに気がついてシンクの服を引っ張った。


「シンク、チビクポ持っててくれてるんだ」

「死神のお手製なのが気に入らないけどね。アンタと通信するって機能は是非ほしいから」


シンクがちょっとテレながら言うのが可愛くて、手をぎゅっと握った。
地下への扉を開けると、ルークが譜業に飛びこめられていた。まだ意識は戻らないみたいだ。


「シンクにヒスイ。
 面白い結果ですよ。音素振動数まで同じとは。これは完璧な存在ですよ!」

「そんなことはどうでもいいよ。奴らが戻ってくる前に情報を消さなきゃいけないんだ」


あたしはディストとシンクの間から抜け出してルークを見た。
トントン、とガラスに似ているそれを叩くとルークが眼を覚ました。二人はまだ話をしていた。


「そんなにここの情報が大事ならアッシュにこのコーラル城を使わせなければよかったんですよ。」

「あの馬鹿が無断で使ったんだ。後で閣下にお仕置きしてもらわないとね
 ……ほら、こっちの馬鹿もお目覚めみたいだよ」


どうやらシンクはこちらに気付いていたようで、ちらりとあたしを見た。
このシーンでシンクをこわいと思ったんだよなぁ・・・確か。
大丈夫ですか?とルークに聞くと、曖昧に頷いた。


「いいんですよ。もうこいつの同調フォンスロットは開きましたから。
 それでは私は失礼します。早くこの情報を解析したいのでね。ふふふふ」


アディオス私のヒスイ!と言いながら飛んでいく椅子をぼーっと見ていると、我に返ったルークがシンクを睨んだ。
まだ眠りから完全に覚めないのか、大人しい。


「おまえら一体、俺に何を・・・・」

「答える義理はないね。」


シンクがそう言ってあたしの手をひいてすぐに離す。
ビュンッ、と風を切る音がして振り返った。ガイだ・・・!

「しまった!」とシンクが叫んだと同時に仮面が落ちる。
あたしはジェイドの腕の中にいつの間にかいた。


「ヒスイは悪い子ですねぇ、六神将とつるんでいるなんて」


シンクが仮面を拾ってあたしを見た。その瞬間ジェイドの唇があたしのそれと重なった。


「んぅっ・・・!!」


何するんだよ!とジェイドの胸を押そうとした瞬間、身体が開放された。
否、ジェイドが後ろに吹っ飛んで避けた。シンクがあたしをジェイドから護るようにして立った。
ていうかガイやティアに囲まれてるよシンク!

あたしはラクトをちらっと見ると、相変わらずの笑顔をしていて助けを求めても無駄だと理解した。


「シンク、あぶなっ・・・」


途端シンクがあたしの唇に噛み付くようなキスをする。
唇を舐められて、その甘さに腰が抜けそうになった。


「んっ・・・ふぁ・・・・」

「消毒。なんのつもりか知らないけど死霊使い、ヒスイはボクのだからね」


仮面をつけたままキスするもんだからところどころかたい仮面があたってしづらかった。
とか感想言ってる場合じゃないよね!?
あたしがかぁーっと赤くなるとラクトがあたしを抱っこした。


「じゃぁシンク、計画通りにしますね」

「しくじったらアンタのこと殺すから」

「あはは、シンクはこわいですねぇ」


計画ってなに!?と二人の顔を交互に見れば、いやなくらいシンクが笑って飛んでいった。
はい、とラクトは持っていたクポをあたしに渡す。
ああ、クポあのとき落ちたのか・・・。


『クポはチビと通信してたクポ』

「それでシンクと今後について話していたんですよ」


ラクトが笑った瞬間、ライガが飛んできた。ラクトがあたしをそれにおろすと自分も乗る。
そのままラクトがあたしの腰を抱きながらライガを走らせようとすると、ジェイドが彼の肩に手を置く。


「これからどうなさるおつもりですか?」

「・・・」


ラクトは暫く考えていたのであたしが代わりに口を開いた。


「お世話になりました、ジェイド。それに皆さんも。
 導師守護役がここにいる以上保護をしていただくつもりはありません。
 あたしはあたしの判断で動く、六神将に対しても、貴方たちに対しても敵になるつもりはありません」


もういいだろと判断したのか、ライガが宙を駆けて高いところに上った。


「整備士の方は上にいるはずです!ですが、彼女を傷つけないでください!」


あたしの叫びが聞こえたのか、ジェイドはいつものやれやれというポーズをとった。
そのまま階段を駆け上がって外に出ると、埃くささからやっと開放された。
潮風があたしの髪の隙間に入り込んでそのまま出て行く。


「さてヒスイ様、これからどうなさるおつもりですか?」


ここからバチカルへは海を渡るかケセドニアまで引き返さなければいけない。
どちらにせよ面倒だというかそこまで考えてなかったあたしは仕方なく彼を呼んだ。


「・・・シルフ」

『はいはい、海を渡りたいんだよね?これでいい〜?』


そう言って彼はお目当てのものを出してくれた。
ラクトの顔が疑問符で一杯になりはじめたのでシルフが説明する。


『これは"エアリアルボート"って言って海の上もすいすい行けるありがたいモノだよ。
 これにその魔物とヒスイと・・・えっと、ラクトっていったっけ?乗って目的地まで行けばいいよ!』

「沈みませんか?」


あまりにラクトが難しそうな顔をして言うのでシルフはぶ、と噴出して笑った。
確かに沈んだり消えたりな不安要素はあるような気がしなくもないけど・・・。


『ボクは第三音素の意識集合体だよ?そんなことするワケないじゃん〜!』

「私・・・カナヅチなんですよね・・・」


ラクトは意外な弱点をぶっちゃけたが、ライガとあたしたちは気にせずそれに乗った。
初めて彼の泣きそうな顔を見たような気がした。






08.07.19 06 -- TPOくらいわきまえてよ、バカ男ども!





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