07 : 交差する思い







「陛下、本日の謁見ですが、先に急な知らせがあるとのことで」

「ふむ」

「ローレライ教団の導師ヒスイがお見えになっております。至急、取り次いで欲しいとのこと」

「・・・通せ。」





ゲームで見るよりもずっと長い階段をのぼりながら、あたしとラクトはその声に耳を傾けていた。
アクゼリュスを救うのにどうしてキムラスカの首都バチカルにきて、陛下に会わなければいけないか。
すべてはあたしの力不足のせいだ。


「導師ヒスイ、よくぞ参られた。」

「・・・本日はお忙しい中お時間を割かせてしまいまことに申し訳ないです、インゴベルト陛下。
 ですが本日はヒスイではなく、導師としてキムラスカ・ランバルディア王国に協力をお願いしたいのです。」


すっ・・・とあたしが頭を下げると、暫く沈黙した後アルバイン以外を追い出した。
アルバインはじろり、とあたしを睨む。
ラクトはいつもの笑顔ではなく、きりっとした顔でいた。(珍しいものを見た気がする)


「して、どういうことが事情を説明せよ」

「はい・・・秘預言をご存知かと思いますが・・・
 "ND2018 ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう
 そこで若者は力を災いとしキムラスカの武器となって街と共に消滅す"・・・ご存知ですね?」

「・・・あぁ。」


そこで・・・の後はルークたちには知らされない、国の権力者のみが知る部分。
あたしは導師だから知っている。そして、モースも。
イオンは身体が弱いから秘預言を確認したことが今までないだろうから知らないはずだ。
そしてこの人たちはモースのいいなり。
なら、あたしの権力を使うしかなかった。


「導師ヒスイがローレライ教団を代表しこのことを公にすれば、貴方がた真実を知る王家はただでは済まないでしょう。
 アクゼリュスを見殺した、と。一万人の命を王家は殺したのだと。」

「貴様、導師だとて陛下の御前で無礼極まりない!」


アルバインが剣を抜くと、すっとラクトがあたしを庇うように立った。
貴方こそ、陛下の御前で剣をとるとは失礼ではございませんか?そう言うような笑顔を向けたまま。

あたしは口を開いた。


「預言どおりに貴方がたが事を進めるのは私個人ではどうでもいいことです。
 が、一万人の命を見殺すのは人を導き、救うためのローレライ教団の意に反すること。
 幸い障気が発生しているのでそれを理由に住民を避難させることができますよね?」

「・・・導師ヒスイ、国の代表として言うが、危険極まりない場所に兵を派遣するのは・・・」

「私と導師守護役のラクトがいれば十分です。ただ、アクゼリュスの住民すべてをここで引き受けていただきたい。」


ぎゅ・・・っと音叉を握った。
マクスウェルに頼むのも時間がかかる。だからキムラスカに譜陣をひいて力を高めないといけない・・・。
でなければ崩落してしまうのだ。


「広い場所を設け譜陣を敷きます。そして、何度かにわけて空間を移動させこちらに運びます。
 なるべく人目につかない場所で・・・決して大詠師モースや導師イオンに気付かれない場所を用意していただきたいのです。」


インゴベルト陛下はあたしがどちらにもつかない中立の立場だということを理解している。
住民を避難させるのは導師派、そして預言の実現は大詠師派、それぞれの意見を汲み取ったかたちにあたしはしたい。
アクゼリュスの崩落だって本当は・・・防げるかも、しれない。

だけど、ヴァンを止めるためには物語を進めるしか方法が思いつかない・・・・。


「よかろう、では地下にある兵の訓練施設を数日そなたに託す。」

「陛下!」


アルベルトは何かいいたげにインゴベルト陛下を見たが、彼はあたしをずっと見ていた。
導師として、そしてトリップした責任として、冬樹を抜きにして、あたしは救いたい。
ラクトが再び頭を下げて、踵を返した。兵士のひとりが訓練施設に案内してくれるようだ。


「では、またいつかお会いしましょう・・・インゴベルト陛下。」


次は、ナタリアとルークを処刑するときか。
この人は預言に踊らされているだけなのに・・・預言なんて、なくなればいいのに。

とん、とラクトがあたしの眉間に指を置いた。「よってますよ」とだけ言ってクスリと笑う。
ヴァンの思いもあたしの思いも似たようなもんなんだな、と思うとますますよってしまうので、ぐっと眉間の皺をのばす。

そして前を歩く兵士さんを呼び止めて紙とペンを貸してもらった。
くるくると陣を描いてラクトに手渡す。


「ラクト、これを描いて。あたしはやっぱり先にアクゼリュスに向かう。」

「ヒスイ様、それはだめです!」


きっ、とラクトがあたしを睨んだ。
わかってるよ、わかってる、けど。


「シンクはもう一度ルークたちと合流する。その前にシンクと合流しておいて。
 作戦の全容をシンクに報告してほしいの。時は一刻を争うから」


こっそりとあたしが囁くと苦々しい顔をする。
ラクトは本当にあたしをしっかりと護ってくれているから、・・・いつもいつも心配かけてごめん。

心の中で謝罪をしながらあたしは彼に背を向けた。
譜陣を描けば成功する・・・なんて保障はどこにもない。あたしは預言を狂わせているのだから。
多分シンクたちがここを発つまで一回くらいは転送することができるだろう。
一回できればあとはこっちのものだから、ラクトに見ていて欲しいのだ。
できなければ彼はきっとシンクを通じてあたしに報告するはずだしね。

ライガの頭をそっと撫でて背に乗った。アリエッタのように言葉を交わせるわけではないけれど、真っ直ぐ海に向かってくれる。
エアリアルボートを出して、あたしとライガは風に身を任せた。






「みなさん、荷物をまとめてこちらに!」


導師の名をつかわないと中々人は動いてくれない。
陣を描いて人を集める。


「女性は子供を見ながら荷物を持ってこちらに、動ける男性は障気障害の方をこちらまで運んでください!」


お腹に力をいれて精一杯叫ぶ。
パイロープさんもいろんなところに走り回ってくれている。
だいぶ人が集まったのを見てマクスウェルを呼んだ。


『かなりの体力勝負になるじゃろうのぅ』

「もちろん、覚悟の上だよ。いつもより薬大目に飲んでるしね。
 さぁ・・・行くよ!」


陣が、輝きだした。

マクスウェルに教えてもらった詠唱を淡々と読み上げていく。
誰も傷つかないでほしい。あたしの願いはただ、それだけなのに。

ばん!と大きな音を立てて人が一瞬にして消えた。
途端クポが騒ぎ出した。


『クポ!クポ! 通信だクポ!
 ・・・"ヒスイ!?アンタまた無茶したね!ラクトから全部洗いざらい聞き出したよ"』

「シンク・・・そっちにいった?」

『"きてなきゃこうして連絡しないし!っていうかいつも相談しろってボク言ってるよね!?
  いい加減ボクもキレそうなんだけど?"』


シンクの切羽詰った声を聞いてほんの少し安心。
今のうちにマクスウェルには譜陣の上に奥の坑道で動けない人たちを運んでもらうように頼む。
一回に1000人くらいしか移動させられない。その歯痒さをあたしはかみ殺した。


「シンク、あたし・・・待ってるね」

『"当たり前だよ、さっさと行くから大人しくしててよね。ほら、ラクト行くよ!通信終了!"
 ・・・クポ!』


クポはそう言ってまたあたしの肩に乗った。
マクスウェルが戻ってきたのでまた詠唱を始める。

ばん!

一瞬にして消えてマクスウェルはまた奥へと戻っていく。
パイロープさんがあたしの傍にきた。


「現在おおよそ8500人くらいがアクゼリュスの生きている住人でさぁ。
 ただ確認のとれている数なんで実際にはもう少し少ないかもしれません」

「ありがとうございます・・・パイロープさん」


1500人はあたしの行動が遅いせいで死んだ。
もっとはやくに動くべきだった?どの時点が良かった?
全員を幸せにすることなんか、きっと無理だとわかっていたけれど。

つう、と頬を伝って落ちる涙を必死に拭い隠すと、戻ってきたマクスウェルとまた詠唱を始める。
陣の周りにはたくさんの人間が集まってきてくれて順番を待っている。
女性や子供、重症人を優先して送ってはいるけれどまだまだ回数が足りない。

ばん!と音がしてあたしは地面に膝をついた。
ひゅぅ・・・と風の音がして必死にノドを押さえるように絞める。まだ、鳴っちゃだめ。
すっと差し出された水にあたしは顔を上げた。


「おねーちゃん大丈夫??」

「あり、がと」


なるべく笑顔で少年に言うと水を含んだ。
お世辞にも、美味しいとは言いがたい水だったがあたしに立ち上がるための水分としては十分だった。

空になったコップを少年に渡すと、彼は嬉しそうに走り去っていった。
あんな無邪気で元気な子の未来は奪いたくない。
マクスウェルが戻ってきて「ほとんど生きている者は運び終えた」とあたしに言った。


「ありがとう、じゃぁ重症者はラストだね。」

『これが終わったらおぬしも休むと良い』

「・・・。」


マクスウェルの気遣いも今のあたしには必要のないものだった。
詠唱を始める・・・水分でいくらか滑らかになったノドが最後の節を詠むとばん!と大きな音を作った。

くらり、と眩暈がして重力にしたがって後ろに倒れる。


「ヒスイ!」


倒れる前に、大切な彼の声が聞こえた気がして、あたしは意識を手放した。







08.07.21 07 -- その声に、その香りに包まれていたくて。今は。





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