03 : 君と繋がる手







たまたま出会ったのは、あのお馴染みの顔で。




「あ・・・ヒスイ様だぁ〜!」

「貴方は…えっと」

「神託の盾騎士団導師守護役所属、唱師アニス・タトリン響長です!」


イオン様の担当なんですけどね、と笑う。くったない笑顔はまだまだ幼い。
モースさえいなければ、彼女は自由を勝ち取ることができただろうか・・・。

黙っているあたしを見かねてアニスは口を開いた。


「ヒスイ様付きの導師守護役って誰なんですか?」

「それが…えーっと…」


「なにしてんのさ、こんなとこで。」


馴染みの声が聞こえて振り向いた。これがあたしのガーディアン。


「第三師団長の…烈風のシンク」

「ヒスイ、アンタ執務が終わったからってさっさと出てかないでよね。」


アニスの驚愕の表情には目もくれず淡々とあたしにせまる。
本当は優しいのだけれど、どうやら育て方を間違ったようでツンデレになってしまった。
まぁ、それも悪くないというか…これもローレライが決めたことなのかもしれない。
性格のいいシンクなんて想像できないしね。気持ち悪いかも・・・。

あたしがため息をつけば「ため息を吐きたいのはボクなんだけど。」と仮面越しにあたしを睨む。
雰囲気でわかってしまうのだ。


「アニスさん、この子があたしの導師守護役なの。」

「ヒスイ様も大変そう〜…。」


表の仕事はイオンに任せてあるため、大体あたしの仕事は雑務だけ。
書類とかそういったものは結構処理が得意だったから簡単に片付いてしまう。


「今日の用事他にないじゃない、どうして追ってくるんだ?」

「それはっ…」


シンクが目をそらしたみたいにうつむいた。
ああ、そうか・・・


「寂しかったの?」

「ち、ちがっ・・・!」


微かに覗く頬を赤く染めてシンクは走って戻っていく。
アニスは珍しいものでも見たようにその後姿をずっと見ていた。

シンクはまだ言葉を読み書きできるようになってから日が浅い。
感情表現は苦手だと思う。それゆえ少しつっけんどんになってることは見て取れる。

と、思ってるのはあたしだけみたいで。


「はわ〜…珍しいもの見ちゃいましたぁ」


少なくとも他所ではツンツンぶりを発揮している模様。




アニスと別れてあたしは外を歩いていた。
ときたますれ違う参拝者に挨拶をし、草木と馴れ合う。
シルフを開放すれば喜んで外を飛び回っていた。

ふと、足元に何かがあたった。どこかで見たことのある人形…トクナガではないけど。


「あれ…これ、アリエッタの人形?」

「っふぇ・・・イオンさま・・・・・。」


聞こえる泣き声に、木陰を見た。こちらからは死角になっていたので覗かないといけなかった。
泣き声の主に声を掛けた。


「こんにちわ、どうして泣いてるの?」


あたかも人形が喋っているように人形の首をかしげて話しかけてみた。キョトンと、する。
やがてまた涙がこみあげてきたようで、嗚咽を漏らして泣き出した。


「アニスが…アリエッタのイオン様とっちゃった・・・」

「あの子はアリエッタのイオン様じゃないんだよ。」

「っ…!アリエッタのイオン様だもん!」


泣きながら怒るアリエッタの頭をそっと撫でる。
だけど、嫌がって振り払われた。


「ううん、違うよ。アリエッタはイオン様に会いたい?」

「あ、当たり前っ・・・!」


じゃあこうしよう!とあたしはぬいぐるみをアリエッタからとりあげた。


「もし、アリエッタがあたしとお友達になってくれるなら、大好きなイオン様に会えちゃうかも!」

「ほ、ホントに・・・?アリエッタで、遊んでない……?」


ほんとほんと、とあたしは笑った。
約束してたもんね、イオンと…最初に降り立ってから大分時間は経ってしまったけれど。
あたしはアリエッタの手をひいて音叉を握り締めた。
綺麗な音がして、導かれるように歩いた。

教会からほど遠くないところに小さな小屋がたっていた。
外では薪をわるフードをかぶった人がいるだけで、他は何も無い。
音叉の反応はそこでぷつりと消えたから、ここで間違いないと思うのだけれど。


「よくここがわかったね、導師ヒスイ?」


皮肉染みた声、フードの人はこちらを見ながら言った。
この声は、忘れるはずも無いあの人。


「イオン、約束したからね。」


そういってアリエッタを見た。
フードをとって顔をだしたイオンを見て、唇が震えているようで。
大きな瞳には涙をいっぱいに溜め込んでいた。


「イオン、さま・・・?」

「久しぶりだね、アリエッタ。僕の劣化複写人形は元気に動いてるかい?」


にっこりと、どこか泣きそうな顔をしてアリエッタを見るその顔は、ただの少年だった。
薄々感づいてた違和感が解けて、アリエッタはイオンの胸に飛び込んだ。
少し揺れて、それでもしっかりと抱きとめている。


「イオン、これで音叉の恩は返したよ。アリエッタもなるべくはやく帰ってきて。」


幸せそうな笑顔を見せるアリエッタの顔は涙でひどくぐしゃぐしゃだったけど、それが人間らしく綺麗に見えた。
悲しまないでくれればいい。誰かの幸せは誰かの不幸を引き換えにすると聞いたけれど、
ならせめて、みんなの幸せを誰かが受け止めたらいいんだ。
そう、誰かが。

あたしはすっかり落ちてしまった夕日に視線を向けて、改めて決心をした。





真っ暗になってから帰ると、拗ねたような顔をしたシンクが座っていた。


「遅いん、だけど」


仮面はとってなかった、ただ口元が"へ"の字になっていた。
随分長いこと待ったのかなと思ってあたしはシンクの隣に腰掛ける。


「ごめんね、今日はアリエッタと・・・」

「アイツ(被験者)のトコにいった。まだ生きてたんだ、アイツ。」


シンクは顔をそらしてそうこぼした。
どうやら後をつけていたようだった。


「そうだね、イオンのトコにいt「何でアイツなのさ!?」」


いきなり大声をあげてあたしの両肩を掴む。
反動で仮面があたしたちの間に少しあった距離の中に落ちた。


「ボクはッ・・・ヒスイがいなきゃ、やだよ・・・・・」


今にも泣きそうな声でシンクは訴えた。
まだ・・・生まれてそんなに経ってない命で、刷り込みで得た情報だけしかなくて。
不安だらけの世界に、赤ん坊同然の彼を独りにさせてしまった。

それが少しの間だけだったとしても、どんなに不安だったかはあたしにはわからない。
だからこそひどいことをした・・・そう思うと、あたしも泣きそうになった。


「・・・ごめんね。離れないよ」

「・・・嘘。アンタ、絶対ボクから離れるよ」

「そうかもしれない。でも、その時は」


シンクがあたしを裏切るときなんだよ、きっと。

そう笑うと、そんなのありえないねとシンクは笑った。
まだまだ始まったばかりで、全然なんの考えもなくて。
ただ今はシンクの笑顔を守るために動いてる気がした・・・でも、もしかしたらその必要はないのかもしれない。
これからは彼が人生を何か感じられるものにするためにはどうしたらいいか、
生を憎まないためにはどうしたらいいか・・・考える必要があるのかな。

もう少しだけこうしていたいな、と先に歩くシンクの背中を見ていると手を差し伸べられた。
まだ白い綺麗なその手を、あたしは恐る恐る掴んだ。


「今日は、アンタの好きな夕飯だったはずだよ。」

「え、もつ鍋!?」

「・・・ナニソレ?前に絶賛してたヤツがそういう名前なワケ?」

「あ、じゃあきっと和食だっ」


やったー!と喜べば、馬鹿みたいと彼は笑う。

ローレライ、アンタがあたしを呼んだこと後悔させてあげるよ。
どんな残酷な未来だって捻じ曲げてやる。

だから暫くは、このままで。











08.06.11 Old Story 03 -- さぁDIVA、お手をどうぞ?






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