episode 12
ハンターの役目

「おまえ仕事だろ。アイドルだろ!コンサートどうしたんだよ」
「だってー!笙悟君、全然遊んでくんないんだもんー!!それに、まだ時間大丈夫だもん!会場、そこの阪神ドームだし!」
「それにしたって、何、文化財壊してんだよ」
「笙悟君のほうこそ、いっつもアチコチ壊してるじゃない!何よーぅ!」

 笙悟は何をやってるんだ、と呆れる様な目でプリメーラを見やり、溜め息を吐いている。すると彼女は怒りながらマイクを振り回し始めたのだ。ファイはそんな彼女を笑みを浮かべて立ち上がらせると、礼の言葉を浴びせられる。一応筋は通すらしい。笙悟は未だに煙が漂っている阪神城の屋根を指差し、他人事の様に指摘した。


「なにモメてんだ、あっちは」
「痴話喧嘩、ですかね?」
「あれぇ。みんな、何泣いてるのー?」
「プリメーラちゃんはあのリーダーが好きなんだ!」
「けど、リーダーは遊んでくれなくってさびしいんだ!」
「なんで、みんな知ってるの?」
「プリメーラちゃんが公表してるから!」

 小狼はどうしたんだ、と言った焦りの表情を見せて、レイノと黒鋼は呆れの混じった表情で笙悟らを見やり、その後ろではファイが阪神城から降りて来た。気が付けば、男らは鼻水を垂らして泣いており、そんな男らにファイが優しく声を掛けると、男らは赤ん坊の様にに号泣してしまったのである。そして、男らは泣きながら一斉に一冊の雑誌を取り出した。どうやら少し型破りなアイドルらしい。


「小狼君、あの…」
『小狼ー!小狼ー!』
「モコナ!その目!!」
『ある!羽根がすぐそばにあるー!!』
「どこに!?誰が持ってる!?」
『分かんないー!でも、さっきすごく強い波動、感じたのー!』

 阪神城の屋根の先端では目を見開いたモコナがぴょんぴょん、と跳び跳ねていた。モコナがこんなに大きく反応したと言う事は、レイノも気付いている。モコナが駄目なら、と焦った表情を浮かべて隣の彼女へと目を向けるが、彼女は肩を竦めていた。こんな事になるならあの時言えば良かったかなあ。


「やっぱり巧断が取り込んでるのかなぁ」
「しかし、強くなったり弱くなったりするってなぁ、どういうことだ?」
「力が一定じゃない理由、分かります?」
「巧断は憑いているひとを守るものだと、空汰さんは言っていました。だから、一番強い力を発するのはその相手を守るため」
「つまり、やっぱり戦ってみないと分からないってことだね」

 先程、男に渡された「マガニャン」と言う雑誌を読みながら、黒鋼は問い掛けた。それに続く様に問い掛けたレイノは顎に手を添え考え込んでいる。しかし、それらの答えは小狼の中で既に出ていた様だ。笑みを浮かべながら結論を出したファイの腕は微かに擦り傷が出来ており、そんな彼女の視線に気付いたファイは苦笑を浮かべて彼女の頭を軽く撫でたのだ。


「俺が余計なこと言っちまったせいで迷惑かけて悪かったな。シャオラン。けど、気に入ったってのは本当だぜ。おまえ、強いだろ。腕っぷしが強いとかじゃなく、ここが。だから、お前とやり合ってみたかったんだよ。巧断で」
「笙悟君の巧断バトルマニアー!ばかー!」
「ばかっていうな!せめてあほって言え」
「…分かりました…その申し出、受けます」

 笙悟は言葉を紡ぎ、にっとした笑みを浮かべて胸元を親指で押さえた。そんな彼に対し、小狼はボッと炎を纏った巧断を出し、一歩前に歩を進め、笙悟の要求を了承する。その時の真っ直ぐな瞳は何よりも熱くて、何があっても、何が起こっても小狼の瞳にはサクラしか映ってないんだと、そう悟った。


 笙悟の掛け声と共に始まった小狼とのバトルは序盤から激しいものだった。炎と水が激しくぶつかり合い、周りの瓦礫はどんどん下に落ちて来る。その際に向かって来たそれにいち早く気付いた正義は叫ぶが、分かっていた小狼は自身の足でそれを砕いてみせた。そんな小狼は遺跡発掘が趣味の男の子と言う訳ではない様だ。色々あった、そう言うだけなら簡単なのだが。そんな事をレイノらが話しているとは露知らず、小狼は炎を纏った左手を力強く突き出した。それは笙悟を吹き飛ばす程の威力で、その一撃で笙悟の心に火が灯ったらしい。しかし、それがいけなかった。津波の様に襲って来る水から正義を守った事により、正義の巧断の中にあるサクラの羽根が覚醒してしまったのだ。


 小狼が言った「巧断は憑いた相手を守る」と言う言葉は正解だった様だ。その証拠に正義を守った巧断には余りに強い力が備わっている。しかし、強すぎる力と言うものは時に害悪になる場合があるのだ。今回の件が良い例である。正義の巧断に飛び込んだ小狼は胸元で輝くサクラの羽根に手を伸ばした。その手が奥に進むほど、正義の心臓も焼ける様に痛くなる。痛い、痛い。涙が出る。死にそうな熱さだ。――けど、だけど、一緒に探すと約束した。小狼君は僕の憧れの人なんです。だから、だから。


「だから熱くても平気です!!」

 初めて放った僕の欲は、何よりも相手の為でした。




「あーあ、小狼君はやーい」
「どうしよう……」
「お前のせいだろ」
「笙悟君も壊したじゃない!」
「うっ!」

 サクラの羽根を手に入れた小狼はすぐ様駆け出してしまい、その姿はもう見えなくなっている。そんな彼を見てへにゃ、と笑い、褒めてるのか分からない言い方をするファイの横では震える声を発したプリメーラが、青ざめた顔をして阪神城を見上げていた。しかし、やった事と言えば笙悟も同じなのだ。現にプリメーラに図星を刺され、顔が歪んでいる。


「…リーダーさん」
「…え、俺?」
「これ、直した方が良いですか?」
「え、まあ、そりゃ……って直せんのか?」
「まあ、わたしの巧断ってそう言う力らしいですし」

 目の前のぐちゃぐちゃに壊れてしまった阪神城を視界に入れたまま、レイノは笙悟に声を掛けた。どうやら彼女はこの惨状を一人で修復する気らしい。しかし、この有り様だ。どれだけの時間が掛かるか分からない。彼女はそれだけが気がかりだった。ちらり、と横を見ればファイと黒鋼がぱちくり、と瞬きを繰り返している。この時だけは、この二人の事を可愛いと思えた。


「お前、本当に出来んのか」
「一応」
「倒れたりしないー?」
「しませんよ」
「…本当に?」
「疑い深いですねえ。何なら見張ってて下さいよ」
「いや、最初からそのつもりだけど」
(こいつ…)

 淡々と進んで行く会話はまだまだ互いの事を探る様なそれで、周りの者はちらちら、と視線を合わせていた。そんなざわめきを無視し、ファイは白々しい笑顔をレイノに向けた。何だろう。唐突に腹が立って来た。これ絶対わざとだよね。握り締めた拳に気付いた黒鋼の額には冷や汗が垂れている。そんな黒鋼の様子に気付かないレイノは淡い光を手に浮かべ、それで壊れた阪神城を覆った。


「ファイさん」
「んー?」
「一つ、言っておきますね」
「…なあに?」
「わたし、かわいそうな女の子じゃないんです。自分のやるべき事くらい分かってます」

 ぽそり、と小さく呟いたレイノちゃんの声は、喧騒の中のはずなのにオレの耳に酷く響いた。ソプラノの細い、存在感のない、そんな声だった気がする。けれどどこか芯を持っていて、自分の考えはきちんと持ってるんだろうな、と言う印象だった。けれどそれは少し違っていたのだと、この時理解した。


「わたしがやるのは、裏方で充分なんですよ」

 それが自分だと、儚い存在だと言っている様で、少し、悲しくなった。

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