episode 14
旅立ちの時

「正義君。ほんとうに有り難うございました」
「僕も…巧断も、ずっと弱いままだったから、だから…だから…!ちゃんと渡せてほんとに良かったです!!」

 翌日、一行は再び正義と共にお好み焼き屋「風月」に訪れていた。さっそく黒鋼とモコナはお好み焼きの取り合いをしていた。お好み焼きはモコナの分もあるのにも関わらず、である。一方で小狼に話し掛けられた正義は浮かべた涙を乱暴に拭い、拳を作り、嬉しそうに笑ったのだ。


「正義君は弱くなんかないです。現に、ちゃんと巧断を信じていたんですから」
「レイノさんの言う通り、正義君は弱くなんかないです。戦うことだけが強さじゃない。誰かのために一生懸命になれることも、立派な強さです」
「有り難う、ございます!」
「よう」

 正義はレイノと小狼の言葉に心動かされたのか、笑みを浮かべたままぐいっと涙を拭った。そんな所に響き渡った声色は先日聞いたばかりのそれである。しかしそれに見向きもしない彼女は目の前のお好み焼きに夢中だった。今彼女が口に含んでいるのは正義に勧められたトンペイ焼きである。


「笙悟さん!」
「うちのチームの情報網も捨てたもんじゃねぇな。あ、ここちょっと詰めてくれな。あ、俺も豚モダン。んで、虎コーラ」
「はーい」

 先ほど黒鋼の箸から奪い取ったお好み焼きをモコナはむぐむぐ、と美味しそうに口に含む。そんなモコナを疑いの目でじー、と見つめるのは言わずもがな、日本国の忍である。一方、小狼の発言のお陰で変な渾名を付けられた店員は否定の言葉と多少の苛立ちの表情を見せた。トンペイ焼きを口に含んだまま顔を上にやったレイノの口には僅かにソースが付着しており、それに気付いたファイはナプキンで拭いてやる。親子みたいだ、と思ったのはここだけの秘密である。


「ケガとか大丈夫か?」
「はい」
「戦いの途中ですみませんでした」
「いや。あの状態じゃ仕方ねぇだろ。それに、あのバトルは完全に俺の負けだ」

 黒鋼はさっきの仕返しだ、と言う様にモコナを鉄板に近付けるとモコナは奇声を上げ、めきょっと目を見開いていた。向こうでは賭けに負けた笙悟の仲間がブーイングを出しており、痺れを切らした笙悟によって叫ばれる事となるのである。嗚呼、平和って良いなあ。


「きゃー!モコナが焼けちゃうー!」




「いつまで阪神共和国にいるんだ?」
「もう次の世界…いえ、国に行かなければならないんです」
「そっか。あちこち案内してやったりしたかったんだけどな。プリメーラも残念がるな」

 黒鋼は自分のお好み焼きを取られたのがよほど嫌だったのか、モコナを両脇から挟み込み、痛々しい音を出させていた。小狼は笙悟と握手を交わした後、笑みを浮かべて正義に手を差し伸ばす。しっかりと握られた双方の手からは確かに友情が生まれた。そんな気がした。


「また、この国に来たら会いに来ます。必ず」
「元気でー!!」

 小狼は傷付いた顔に笑みを浮かべて、レイノとファイ、そして、モコナは手を振り、あっさりとした別れを告げたのだ。きっとまた会えると、そう信じている。そう伝えたら正義君、また泣きそうだもんね。言わないけど。そう含み笑いをした彼女は商店街を抜ける為に歩を進めたのである。


「で、ものは相談なんだけどな。入らねぇか。うちのチーム」
「……は」

 唐突に話し掛けられた正義はふと笙悟の顔を見上げた。すると、いきなり正義の視界は真っ暗になったのだ。ぱちくり、と目を開けるとそれの正体は笙悟のゴーグルだ。それを被ると言う事は「正義は仲間」だと言う事を表していた。きっとこれでもう大丈夫。貴方はもう、充分強いよ。


「はい!!」




「もう行くんか」
「はい」
「まだまだ、わいとハニーの愛のコラボ料理を堪能させてへんのにー」
「大丈夫ー?」
「まだ、ちょっと眠いだけだから」
「無理、しないでね」
「はい」

 空汰の下宿屋に帰って来た一行はそれぞれの国の衣服に身を包み、これからの旅に備えていた。もうすぐ居なくなる一行に対して空汰は悔しそうに目を細めるが、嵐はそんな空汰を放って小狼から蛙型のがま財布を受け取る。そんな横では、こし、と眠そうに目を擦るサクラを悲しそうに見つめる小狼が居た。見てて凄く辛くなるのは何故だろうか。


「下を向くな。やらなきゃならねぇことがあるんなら、前だけ見てろ」
「…はい」

 黒鋼の言葉は厳しく、けれど、何処か慰めている様にも聞こえた。それが小狼にとって、どれだけ心の支えになるだろうか。大丈夫。やるべき事がある限り、おれはきっと前だけを見ていられる。そう心が決まった時、モコナの背には次元移動の為の羽が生え、足元には侑子の魔法陣が現れた。


「ほんとうに有り難うございました」
「なんの!気にするこたぁない」
「次の世界でもサクラさんの羽根が見つかりますように」

 神に願う様に目を瞑り、嵐はそっと呟く。それは本当に神々しい、巫女そのものだった。モコナは五人を吸い込み、自身も魔法陣と共に消え失せたのである。その場に残ったのは空汰と嵐のみだ。きっと、大丈夫。これから何があっても、何が起こっても、どうにかして切り抜けるだろうと、空汰は言う。また会える日を信じて、二人は次元移動の残り香を見上げたのだ。

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