episode 24
仮の関係
「なんか、歓迎されてないって感じがビシバシするねぇ」
「されてねぇだろ、実際」
「まあ、『ヨソモノ』ですから」
バタンバタン、と一行が町の中を進む度に次々と窓の扉が閉められる。これが拒絶なのだろうか。しかし、とある家の前には人影がある。この静かな町には珍しく黒髪を二つに纏め、黒猫の人形を胸に抱えている少女だ。その少女を見付けた小狼は馬を止め、蹄の音を立てた。そして、「北の城」について問い掛ける前に少女の背後の扉がガチャッと音を立てて開いたのだ。そこには少女の母親らしき人物が姿を現しており、その少女を無理矢理家に押し込んだのである。
「あー。コレはやっぱりあの酒場で聞いた話のせいかなぁ。伝説を確かめようにもこれじゃ話も出来ないねぇ」
「せめて金髪の姫がいたという城の場所だけでも教えてもらえるといいんですが……」
そんな状況にファイが苦笑を浮かべ、小狼が苦痛の表情を浮かべる中、一行の前方からは騒がしい足音が近付いて来る。足音が止まったかと思うと、彼女らの視界は銃口でいっぱいになった。そして、小狼は相乗りしていたサクラの肩を持ち、ファイも相乗りしていたレイノをコートで包み込み、黒鋼は馬で己を隠したのだ。
「おまえ達、何者だ!?」
「旅をしながら各地の古い伝説や建物を調べているんです」
「そんなもの調べてどうする!」
「本を書いてるんです」
銃を構える人々を携える男は一行に対して声を荒げるが、小狼はまるでどーん、と効果音が付いた様に大真面目な表情で軽々と嘘を言い放ったのだ。本に書いてそうな事は山程やって来たが、決して創作活動なんぞはやって来ていない。しかし、真面目そうな顔をして小狼の一体何処にそんな度胸が潜んでいるのだろうか。
「本?」
「はい」
「おまえみたいな子供が!?」
「いえ、あの人が」
「そうなんですー。で、その子がオレの妹でー、その子が助手でー、で、こっちが使用人」
「なんだと?!誰が使用人…」
サクラが冷や汗を掻いている中、小狼は真顔でファイを指差す。小狼の人選は妥当だとは思う。その上、ちゃっかり嘘に嘘を重ねているのだ。彼の言葉に続く様に話し始めたファイはサクラ、小狼、黒鋼と順番に紹介して行く。黒鋼は余程「使用人」呼ばわりが嫌だったのか鬼の様な形相でファイを睨むが、コートに入っていたモコナの頭突きによって阻まれたのだ。その時にあげた呻き声はよほど痛かったのだと見える。
「で、この子が使用人B」
「そのついでみたいな言いか…っ」
そして、ファイは最後にレイノを指差した。適当に処理した様な言い方に彼女は噛み付くが、何時の間にか手袋を外していた彼の手によって腰を掴まれる事となったのだ。これ完璧にセクハラなんだけど何で誰も気づかないの。馬鹿なの。ファイのその行動により短く声をあげたレイノはその後、もう何も言えないのだ。そんな所に割り込む声がある。それは「先生」と呼ばれる人だった。
「旅の人にいきなり銃を向けるなんて!」
「しかし、今の大変な時期に余所者は…!!」
「余所から来た方だからこそ無礼は許されません!失礼しました、旅の人達。ようこそ『スピリット』へ」
男性にしては高めの声を持ったその男は、一行を庇う。その男により何とか気持ちを落ち着かせる事が出来た彼女らだったが、警戒心を解く事は無かった。特にレイノは快く迎え入れてくれたその男をじっと鋭い視線で睨んでいた。その瞳には警戒心と不信感、その二つの気持ちが孕んでいた様に思う。
「この町の医師、カイル=ロンダートと申します」
「ありがとうございます。泊めて頂いて」
「気にしないで下さい。ここは、元は宿屋だったので、部屋は余っていますから」
「どういうことだ、先生!こんな時に素性の知れない奴らを引き入れるなんて、正気か!」
所変わって、ここは宿屋である。助けてくれた男に付いて行き、一行はその男に宿を貸して貰う事になったのだ。そんな和やかな雰囲気はとある音によってぶち壊され、それの原因は大きな叫び声と激しい音を立てて開かれた宿屋の扉である。レイノがカイルに出された飲み物に口を付けている最中にそれらが鳴った為、レイノの肩は酷く跳ねる事になった。
「落ち着いて、グロサムさん」
「これが落ち着いていられるか!町長!!まだ誰も見つかっておらんと言うのに!」
「だからこそです。この方達は各地で伝説や伝承を調べてらっしゃるとか。今回の件、何か手掛りになることをご存知かもしれません」
「どこの馬の骨とも分からん奴らが、何を知っていると言うんだ!」
「この地で暮らす者では分からないことを」
「これ以上、何かあった後では遅いんだぞ!」
「グ…グロサムさん!」
入って来た者は豪華な装備のしてある暖かそうな黒い服を着込み、長い黒髪を一つで纏めている老人だった。その後ろにはその人物の怒りを宥める老人がいる。そんな怒りをものともせず、カイルは真剣な眼差しの小狼と不安そうな瞳のサクラ、何もかも見透かした様な瞳のファイと手に持つカップを凝視するレイノ、そして、鋭い視線で睨む黒鋼を見やった。グロサムと呼ばれた男は怒った様子で一行を杖で指差す。そして、カイルとしばらく睨み合った後、宿屋を出て行ったのである。その後に続く老人はグロサムの怒りを鎮める為に奔走していた。
「すみません。紹介も出来ないで。今のが、町長と、グロサムさん。グロサムさんはこの町の殆どの土地の所有者です」
「大変な時にお邪魔してしまったみたいですねぇ」
「隣町で聞いたんです。この『スピリット』の伝説の事について」
「私も、あれは良くある只の御伽話だと思うんですが、まさか、本当に子供達がいなくなってしまうとは…手を尽くして探しているんですが、一人も見つからなくて。もう二十人になります」
「そんなに…」
「俺達を見て警戒するワケだ」
カイルは申し訳なさそうに謝罪しながら、乱暴に開けられた扉を静かに閉める。そんな彼はグロサムとそれを宥めている老人の町長を見つめながら説明して行った。被害者はどんどん増える一方で、自警団の仕事量や悲しむ町民達も増える一方である。その状況を見兼ねたカイルは、一行に子供達を探す糸口を見つけて欲しい、と依頼したのだ。
「とりあえず、宿は確保できたねぇ」
「信じて貰えて良かったですけど、まさか小狼君があんな嘘を真顔で言うとは思いませんでしたよ」
「父さんと旅している時もあったので」
「でも、なかなか深刻な事情だねぇ。実際、伝説の通りに、金の髪の姫君が関係してるのかは、分からないけどねー」
レイノらが話している後ろでは、黒鋼とモコナはじゃれ合っている。そんな黒鋼とモコナを放置して、ファイは「金の髪の姫」について話し始めた。外へ目を向けると、自警団が灯りを持って子供達を探している光景が見える。今夜の捜索は夜明けまで終わりそうにない様だ。ファイの話が一区切り付いた所で、サクラの身体はふらっと傾く事になった。どうやら今夜はここでタイムリミットになるらしい。
「寝たほうがいいみたいだねぇ」
「…また急に寝ちゃったんだ」
真夜中にちらちらと白い雪が降る中、サクラはゆっくりと起き上がる。彼女は可愛しく声を上げ、被せられていた毛布を口元へと寄せ付けた。横ではモコナがむにゃむにゃ、と何やら寝言を言っている様子である。そんなモコナを抱いて、レイノは縮こまって眠っていた。そんな様子に思わず笑みを溢したサクラがふと窓の外を見ると、暗闇の中に淡い光が一つ、現れた。その光は人型となり、長い金髪、今の季節には合わない薄いドレスを着た女性となる。その女性の周りには不気味な黒い鳥が漂っていた。
「金の髪のお姫様…!?」
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