episode 28
見えないもの

「わー。やっぱり原形とどめてないねぇ」
「階段があります。上はほとんど崩れています。子供達がいるとすれば、地下でしょう」

 ファイらはカイルを追い、北の城へと入る事になった。城中はボロボロで、道と言う物は殆ど無い。そんな中、小狼は地下への小さな階段を見付け、それを指差した。そこには淡い光が点されており、カイルが下って行った事が分かるだろう。そう確信したファイらは、地下へと足を踏み入れたのだ。




「サクラちゃん!」
「え?」
『待っていました』
「エメロード姫!!」

 サクラはレイノの懸命な声に恐る恐る翡翠の瞳をゆっくりと開いて行く。そんな二人の前に現れたのは、白いドレスに長い金髪の伝説の姫君であるエメロードだった。エメロードはただ何も言わず、子供達が入って行った後ろの小さな穴を儚げに指差す。それに導かれる様にサクラが小さな穴を戸惑いがちに覗くと、そこから見えたのは、先ほど見付けた子供達と氷付けにされたサクラの羽根だった。一人の女の子が強く氷を叩くと、ビシビシ、と氷に亀裂が走り、眩しい光が漏れ出したのだ。
 するとその直後、小さな穴から女の子が出て来る。もちろん腕には、氷付けにされたサクラの羽根が抱えられている。エメロードは何時の間にかレイノの背後にいて、儚げに虚ろな瞳の子供達を見つめながら静かに話し始めたのだ。




「地下、広いんだねぇ」
「なんだ、この部屋は!?」
「ベッドがいっぱいー?」
「足跡が途切れてる!」

 ファイらはレイノとサクラ、そして、子供達を救出するべく、光る足跡を辿って行く。地下を進んで行くと、等間隔で設置されている部屋がある。柵の間から中を覗くと、そこには古びたベッドが規則正しく並んでいた。しかし、それに気を向ける暇もなく、とある変化に誰かが叫んだ。


「気付いて脱いだな」
「別の足跡があります」
「子供か!?」
「これ、消すヒマはさすがになかったかー」

 途切れてる足跡に気付いたファイらが周りを見渡すと、瓦礫の近くに埋もれるカイルの靴が視界に入る。しかし、それと同時に別の物も視界に入ったのだ。小狼が指差す先は恐らく地下だろう。その先にある階段は先ほど下ったそれよりも幅が広くて、黒い、小さい無数の足跡が彼らの進む先を導いている様だった。




『子供達をどうか家に帰してあげて下さい』
「…エメロード姫」
「サクラちゃん…?」
「レイノさん、サクラさん!」
「カイル先生!」
「みんな、探していましたよ。さ、こちらへ」

 サクラが見ているものが見えないレイノの脳内は疑惑や不安で埋め尽くされていた。しかしその直後、レイノの後ろからはカイルの声が響き渡る。そんなカイルは何時もと違う雰囲気を漂わせていて、レイノは咄嗟にサクラを後ろへとやったのだ。どうやらわたしの勘は当たっていた様です。


「どうしました、裸足のままでは怪我をしてしまう。早くこちらへ…」
「どうしてわたし達が裸足だとご存知なんですか?」

 レイノは驚いているサクラを後ろへとやり、目を細めてカイルを睨み、警戒する。何故ならば、この人物こそがレイノを殴った張本人なのである。ジェイド国の女性の服装はドレスで、派手な運動でもしない限り足は見えない。更に今は二人共しゃがんでいて、足はドレスで隠れて見えない筈なのだ。つまり、それを知っているのは犯人のみ、と言う事になる。言い逃れが出来なくなった彼は一瞬目を見開くが、それは一瞬の事で、彼は手を口元に寄せて、ククッと喉奥を震わせて笑ったのだ。


「羽根をよこせ!」
『渡さないで』

 カイルの狂変した姿にレイノは鋭い目付きで彼を睨んだ。しかし、そんな彼女の心の内は「焦り」と言う感情で支配されていた。彼は表情を変え、サクラが抱えている氷付けにされたサクラの羽根に手を伸ばす。エメロードが決死の表情で二人の前に出るが、まるで何も居ないかの様に彼は通り抜けてしまったのだ。


「エメロード姫!」
「おまえに暗示はかけていない。幻でも見てるのか?」

 エメロードが見えないレイノは目の前で何が起こっているのか分からない。けれど、サクラが叫んだ事からとある一つの仮説が浮上して来た。そこから考えると、恐らくここでサクラを守れるのは自分だけ、と言う事になる。顔を力ませたレイノはカイルに気付かれない様にサクラの手を掴み、小声で囁いて走り出した。


「…走って!」
「レイノちゃん!?」
「それを掘り出すために子供達を集めたんだ。あの絵に隠されていた穴は三百年前、城にいた子供達の避難用だったらしい。掘り崩せない程、固い上に大人じゃ通れないくらい狭い。おまけに羽根がある氷は春になっても溶けやしない。バカみたいに硬いしな。仕方ないから子供達に暗示をかけて、城で掘らせてたんだ。思ったより時間がかかったがな」

 カイルはレイノとサクラを追い掛けながらもべらべらと喋り始めた。穴について、氷付けにされたサクラの羽根、暗示を掛けた理由など、よほど手に入れる自信があるのだろう。そんな事させる訳がないのに。地上に出れたら良いのだけれど、その為の道は彼に塞がれている。そんな時、二人の手が唐突に離れてしまったのだ。


「やっと手に入る」

 視界には、カイルに捕らえられたサクラの姿が映っている。


「サクラちゃん!」
「サクラ姫!!」
「レイノちゃん!」

 カイルはサクラの足首に付いている鎖を引っ張り彼女を転ばすが、彼女は決して羽根を離したりはしなかった。それと同時期、彼を追い掛けていたファイらがようやく追い付いた様だ。しかしレイノはそちらに目を向けず、離してしまったサクラを悔しげに見つめている。それを見たカイルは楽しげに笑みを深め、サクラの顎に短剣を添えたのだ。ピク、と反応した自身の眉は、危機感を表していた。


「この羽根さえ手に入れれば、こんな小さな町、いや、国も全部、意のままだ。何せ、三百年前金の髪の姫はこの羽根の力で、城下町の子供達を救ったらしいからな」
「金の髪の姫は子供達をさらって、城で殺したんじゃ…!」
「殺すためだけなら、こんな部屋、必要ないだろう」
「そういえばここに来る途中、たくさんベッドがある部屋もあったねぇ」
「城に集めた子供達の為のものか」
「羽根を手にした後、王と后はすぐに死んだって!」

 カイルの言葉に、思わず周りを見渡すとボロボロである事は確かだが、複数の遊具が設置されていた。殺す為だけなら、遊具などを用意する必要は無いだろう。そんな中、サクラの視線は何処か遠くを見ている様だった。そんな彼女はエメロードを見て「違う」と呟いた。そして、エメロードの唇から紡ぎ出される真実は、エメロードの純粋な優しさを表していたのである。しかし、それが理解出来るのはこの場ではサクラだけだったのだ。


「サクラちゃん、誰と話してるんだろうー?」
「幻との会話に付き合っているヒマはない!」

 ファイの言葉が今一番自身の気持ちに近いと思う。けれど、こんな時にもサクラが嘘を吐くとは思えない。優しく、真面目で人を思いやる心をなくさない子だと言う事は数ヶ国の旅をして来て良く分かっている。どうにかして彼女とカイルの距離を離さなければ。けれどそんな時、カイルは彼女に刃物を振り下ろそうとしていたのだ。


「その羽根を渡せ!!」

prev next