神出鬼没の保育対象
「麗ー!」
「え、ランボ君?」

 人を傷付けて楽しそうに笑う雲雀先輩への恐怖が薄れて来た初夏、内藤君しか騒いでいない1-Bのこの教室で違う騒がしさが生まれました。アフロの様なもじゃもじゃの頭に突き刺さっている二本の角は未だに見慣れない。先日、沢田君のお家に行った時に知り合ったランボ君は沢田君曰く、「やかましい居候」らしい。年相応の子供らしさがあって、わたしは可愛いと思うんだけどね。そしてなぜ並中にいるのかと言うと、それはわたしにも分かってません。


「ランボさんと遊べ!」
「いや、遊ぶも何も授業中なんですけど…」
「日比野さん、それ何?隠し子?」
「誰の!?この歳で隠し子とか貞操観念イカれすぎでしょ!?」
「いや、けど似てるわよ」
「どこが!一つ一つのパーツ見ても似てないよ!」
「滲み出る馬鹿さ加減」
「シバいて良い?」

 鼻水でべとべとになったブドウの飴を突き出しながら麗の机に乗っかったこのガキはなかなかうざったいテンションをしている。それ相手にいつもの笑みを絶やさない麗の精神状態が心配で堪らない。それに加えて発言の内容がだんだんヒバリに似て来た、とか言ったらこの子は絶対卒倒するだろうから言わないでおいてあげる。けど、いつもはヒバリに自分の時間割いてるんだから、たまには私の悪ふざけにでも付き合ってよね。そんな私の気持ちなんか知らず、目の前の親友さんはいつもと変わらない鋭さでクラスメイトの発言一つ一つにご丁寧に反応していた。そんな時、1-Bの教室の扉を勢い良く開ける人物がいた。


「おいランボ!お前何やってんだ!」
「沢田君!」
「えっ、あっ、日比野さんごめん!またこいつ…!」
「良いよー。リボーン君が言ってたけど、わたしってランボ君の保育係なんでしょ?」
「あいつ何勝手に言ってんだ!信じないでね、違うから!と言うかあいつの言う事基本全部嘘だか…」

 焦っている沢田君でした。どうやらランボ君を回収しに来たらしい。いっつも嫌々やってる割には面倒見が良いんだよねえ。何だかんだでちゃんと「お兄ちゃん」やってるのかと思うと、思わず笑みが零れる、と言うもので。そんな時、沢田君の後頭部を思い切り蹴り倒す人物がいた。リボーン君だ。


「適当なこと言ってんじゃねーぞ、ダメツナ」
「り、リボーン!」
「ちゃおっス、麗」
「リボーン君は相変わらず力が強いねえ」
「殺し屋だからな」
「お前何言っちゃってんの!?」
「あはは」
「日比野さん何で笑い飛ばせるの!?」

 相変わらず傲慢な態度で現れるリボーン君は見た目が赤ん坊だと言っても決して沢田君の下手(したて)から来る事は無いみたい。さっきの蹴りで思わず涙目になっている沢田君を無視して、リボーン君はわたしにお馴染みの挨拶の言葉を送ってくれる。初対面で警戒されていた頃とは違って、何やら気持ちを入れ替えたリボーン君はわたしにかなり好意的なのだ。沢田君が何か言ってくれたのかな。そんな事を考えながら目の前で繰り広げられる沢田君とリボーン君の言い争い(と言う割にはリボーン君があまりに手を出してるけれど)を見ていると、廊下で大きな爆発音が響き渡った。


「10代目ェェェェ!」
「来た……」
「茉莉って獄寺君のこと苦手だよね」
「嫌いなの。あの忠犬ほんっとやだ」
「うるっせェクソアマ!」
「その上地獄耳なの。タチ悪いでしょ?」
「オレは!アホ牛を回収しに来たんだ!勘違いすんな!」
「騒ぎを起こしに来た、の間違いでしょ?」
「てっめ…!」

 爆発音のすぐあとに何やら叫びながら現れたのは私が嫌いで嫌いで仕方がない忠犬獄寺。あいつは何なの、「10代目欠乏症」か何かにかかってるんじゃないかしら。そう思ってしまう程に目の前の忠犬と私の相性は最悪なの。それを分かってるのか分かってないのか、麗はにこにこしながら見つめてるけど、本当能天気よね。
 この時点でもう1-Bの教室は「授業中」と言う状態から程遠いものとなっていて、その事にこの時気付いたのは沢田君だけだったらしくて、思わず冷や汗を掻いたらしいけれど、リボーン君は楽しそうにニヒルに笑っていたらしい。そして最終的に、火の粉はわたしに飛んで来る事になったのです。


「……日比野、廊下に立っとれ」
「だから何で!」




「ねえ日比野、書類整理終わった?」
「あと数枚ですけど、どうかしました?」
「これ、何か知ってる?」
「これ、って…」

 放課後、一向に終わりが見えない雲雀先輩の書類を整理を手伝う事となった。この学校はもう少し生徒会に仕事を回すべきだと思うんだよね。何十cmにもなる書類を見たら察してくれると思うけど、この量は中学生がこなす量じゃないからね。しかも結構重要な書類まで混ざってたりするから、教師からの雲雀先輩への信頼ってただならぬものだと思う(恐怖政治が前提で)。そんな雲雀先輩に見せられたあるものによって、わたしは口角を引き攣らせる事となる。


「ら、ランボ君…」
「へえ、本当に『ランボ』って言うんだ。馬鹿の一つ覚えみたいに『ランボさん』しか言わないから頭逝っちゃってるのかと思った」
「あなた本当子供にも容赦ないですね!」
「ら、ランボさんだもんね……」
「ほら泣くじゃん!」

 もじゃもじゃに伸びきったアフロの様な髪の毛を雲雀先輩に乱暴に摘まれているランボ君の顔は鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっていて、はっきり言って凄く汚いです。けど、ブドウの飴だけは絶対に離さない所にただならぬ執着心を感じます。そんなランボ君にいつも通り暴言を撒き散らす雲雀先輩は色んな意味で通常運転で、そのせいでまたぐずってしまったランボ君をあやすのはわたしの役目になっちゃうんだよね。


「雲雀先輩そろそろ自分の口が悪い事に気付いた方が良いですよ」
「君のツッコミもたまに凄いグサッと来る時あるから気を付けた方が良いよ」
「雲雀先輩に傷付くとか人間の心あったんですね」
「殺されたいの?」

 わたしが必死にランボ君をあやしていると、雲雀先輩は淡々と言葉を投げ掛けて来る。ここで何も手伝わない辺りに傍若無人さと言うか、何かそんな感じのものをひしひしと感じるよね。それに遠回しな暴言を吐ける様になったわたしの感性もなかなかおかしい事になってると思うんだけど。そう無意識に溜め息を吐いた時だったかな。機嫌が直ったランボ君はいつもの調子で雲雀先輩に言葉を吐きかけたんです。


「ランボさんと遊ぶんだもんね!」
「君で遊ぶなら僕は構わないけど?」
「何言ってるんですか!駄目ですよ!」
「この子、僕の事知らないの?」
「た、多分…」
「へえ……」

 ここに沢田君がいたら「お前何言ってんだ!」とか盛大なツッコミを入れるんだろうけど、生憎わたしは昼間のとある騒動で既に疲れでいっぱいなのです。けれど、応接室をどうにか血の海になる事から避けたいわたしは必死にランボ君を抱き締めた。その瞬間にランボ君が雲雀先輩に向かって投げた手榴弾は雲雀先輩の手によって後ろの窓に投げ捨てられて、それは空中で大きな爆発音を鳴らしたのです。雲雀先輩と関わってたら本当寿命縮むんだけどこの責任取ってくれたりするのかな、無いよね。思い切った行動を起こしたランボ君をじっと見つめていたかと思うと、雲雀先輩はふと笑みを浮かべて「面白い」と一言呟いた。


「え…」
「将来有望な小動物だね。良い人材だ、生かしておいてあげる」
「あ、あの、雲雀先ぱ…」
「何?」
「機嫌、良いですか……?」

 稀に見ない笑みを浮かべてランボ君のもじゃもじゃな頭を乱雑に撫でた雲雀先輩は、わたしの瞳(め)には凄く機嫌が良い様に見えた。まあ確かに、この異様な光景にただ首を傾げてこちらを見上げるランボ君はなかなか肝が据わってる様に思うけれど。恐る恐る雲雀先輩に問いを投げ掛ければ、雲雀先輩は一瞬きょとん、と目を見開いて、少し間(ま)を空けてからゆるり、と口角を上げたのだ。


「……そうだね。すごく良いよ」

 その笑顔をいつも見せていたら良いのに、って思った事は秘密。


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