デジャヴを感じるデスゲーム
「すみません草壁さん、家の用事に付き合わせちゃって」
「いや、かなり遅くまで委員会の用事に付き合わせてしまったのはこっちだからな。気にするな」
「ほんっと紳士ですねえ……ちょっとだけ雲雀先輩にその優しさ分けませんか?」
「無理だ」
午後7時を超えた頃合い、麗と草壁は並盛町のとあるスーパーで買い物をしていた。あまり見掛けないこのコンビは端から見たらただの親子である。何時もならば隣に居る筈の雲雀は自分の仕事を終わらせた途端、颯爽とバイクを走らせて帰路に付いたのだ。薄情な奴め。そう頬を膨らませていれば、ポケットの中では震える携帯があった。慣れた手付きでロックを解除して「メッセージ」のアプリを開けば、そこには「油揚げと味噌買って来て」と言う何時ものパシリを意味するものが表示されていた。携帯へし折りたい、しないけど。
さて、気を取り直して明日の弁当のおかずを買わなければいけない。最近は茉莉や雲雀によってどんどんおかずを奪われるので食費がかさむのだ。そりゃもう楽しそうに楽しそうに取るものだから余計に腹が立つのである。冷凍食品売り場で商品を選んでいると、他の売り場に売っている物を持って来てくれた草壁が重くなったカゴを持ってくれる。このくらいの紳士さと言うか、レディファーストが雲雀先輩にもあれば良いんだけどね。無理だよね。そんな時に恐る恐る、と言った具合にこちらに声を掛けて来る人物が居たのである。
「沢田君!」
「隣の人って、えっと…」
「ああ、風紀委員会の副委員長の…」
「草壁だ」
「あ、えっと、沢田綱吉です!」
「で、そちらの女性は…」
「……げっ」
完璧に部屋着です、とでも言いたげなスウェット姿の沢田は片手にカゴを持ち、そして、それとは逆の方にくっ付いている少女を煩わしそうに距離を置かせようとしている。彼の髪型は相変わらずの爆発加減である。草壁の雰囲気に圧されている沢田に思わず苦笑を浮かべるが、隣の彼女の顔を視認すれば、その表情は苦々しいそれに一変したのである。
「げっ、って何ですか。またハルに喧嘩売ってるんですか?」
「いや、そう言う訳では…」
「えっ、ハルお前、日比野さんと知り合いだったの?」
「知り合いじゃないです!ハルとビアンキさんの敵です!」
(やっぱあの人もグルかよ……!)
「はあ?」
セミロングの黒髪をポニーテールとして一つに纏めている「ハル」と言ったその少女は沢田の腕に密着しており、麗の顔を恨めしそうに見つめていた(本人は睨み付けているつもりだが、身長差のおかげでただの上目遣いにしかなっていない)。そんなハルは、どうやら先日麗を殺しに来たビアンキとグルらしい。その事に思わず頭を押さえたのは、もう仕方がない事だと諦めて欲しい。そんな麗に顔を近付けた草壁は小声で麗に声を掛けた。
「凄い敵意を感じるんだが、何かしたのか?」
「いや、あの、したと言うかされたと言うか…まあ、はい」
それは、数日前にまで遡る事となる。
『おはよ。山本君、獄寺君』
『おーっす!』
『…おう』
『相変わらず無愛想だねえ。沢田君相手じゃ目キラキラさせて身体を90度折り曲げるくせに』
『おちょくってんのかてめェ!』
『全然?』
『まあまあまあ!』
『はいはい可愛い可愛い』
『ここで果てるかクソアマ』
『口悪いよ』
風紀委員会の仕事の一つに、「早朝の見回り」と言うものがある。それを終わらせて学校へ戻る道中、麗の視界に入ったのは登校途中の獄寺と山本の姿だ。それだけで少し和やかな気分になった彼女は二人に声を掛ける。しかしこのメンツで円満な会話が広がる訳もなく、獄寺はただただ彼女にメンチを切ったのだ。そんな所に「失礼します!」と声を張り上げて割り込んで来たのはハルである。
『馬鹿女?』
『馬鹿女じゃありません!『三浦ハル』と言ったちゃんとした名前があるんです!』
『うるせー……』
『獄寺って喧嘩でしか女子と話せねーの?』
『んな訳ねーだろうが!』
『や、山本君』
『んー?』
『ど、どちら様?』
ハルの事を名前ですら呼ばない獄寺はまさにそれが自分の中の常識で、それを受け入れられない彼女と無意味な攻防を繰り広げていた。そんな光景を、山本はヘラヘラとした笑みを浮かべて眺めている。そんな山本におずおずと問いを投げ掛けた麗にはほぼ各日で雲雀と攻防を繰り広げている面影は全く無い。
『あなたが『日比野さん』ですね!?』
『えっ、はっ、はい……』
『ツナさんに色目を使ってる…』
『何の話!?』
『てめェ10代目狙いなのか!?』
『違うけど!?』
『日比野って結構肉食系なのか、やるなー』
『話聞こう!?』
山本が答える前に割り込んで来たのは妙に気迫を感じるハルである。思わずどもってしまった声は仕方ない、と割り切って欲しい。しかし、その後に続いた言葉は聞き逃す事は出来ない。これ、ビアンキさん?の時と同じ流れじゃん。しかも、あの時と同じくツッコミ役がいないってどう言う事なの。怖いんだけど。疲れるんだけど。沢田君か草壁さん通ってくれないかな。無理だよね知ってた!
『ちょっと待って、それどこ情ほ…っ』
何故か向こうに付いた獄寺と依然としてこちらを見つめるハルを必死に説得しようとした麗の耳元では、微かな風を切る音が響いた。その音とデジャヴを感じるこの現状に恐る恐る横を見ると、そこには薙刀があるのだ。うっそでしょ。どこから出したのそれ。怖いよ。
『…山本君ってさ、走るの速かったっけ……?』
『ん、まあな?一応野球部のレギュラーだし』
『あの、何も聞かずに全速力で並中に向かってくれません……?』
『鬼ごっこだな!楽しもうぜ!』
『デスゲームだよ楽しめない!』
この光景を見ても冷や汗一つ掻かない山本君は一体何者なんだろう。そんな風に別の事を考えていないと、根っからの平凡な一般人は腰抜かしちゃうんだよ。と言うか何で獄寺君は向こう側に付いてるの、馬鹿かな。どんだけ「10代目」大好きなの。気持ち悪いわ。楽しげにわたしの手を取って全力疾走してくれる山本君の力を借りてその場を切り抜けた訳だけど、帰ってから雲雀先輩から「遅い」やら何やらのお小言を貰ったんだよね。ちょっとくらい許してくれても良いのに。そうぼそっと言ったらまた始まっちゃったんだよね、鬼ごっこと言う名のデスゲームが。まあ、そんな感じで散々だった訳なんですよ。
「わたし完璧巻き込まれ事故じゃないですか?」
「それは、まあ……そうだな」
「わたし最近凄い狙われるんですよ。助けてくれません?」
「無理だ」
後輩のおねだりを即答で切り捨てる先輩ってどう思いますか。先程までの「紳士」発言撤回しようかな、嘘だけど。目の前では麗に対して敵意を剥き出しにするハルを何とか宥めようとする沢田、と言う構図が出来上がっており、一番の被害者は沢田君なんじゃないだろうか、と思ってしまう。本人が完璧に鴨の外だもんね。そりゃ一番焦るよね。わたしほぼ連日で命の危機に晒されてるけどね。この子と友達だって言う京子ちゃんって実は凄いんじゃないかな。嗚呼でも、そうだな。
仲良く、なってみたいんだけどな。
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