フラグ建築者になりました
「ほんっと有り得ない……!」
(わたし一応書類の手伝いに来たんですけど!?なのに、あの野郎…!)
そう愚痴を溢すのは手にケーキの箱を持った並中生、日比野麗である。秋が深まって来た、と言ってもまだまだ残暑は厳しい。そんな中、彼女は徒歩で並盛町の端にある(もはや黒曜町と言っても良い)ケーキ屋に赴いていた。これが初めてではないから、それは良いのだ。彼女が地団太を踏みたくなる理由は今日が土曜日であり、普通ならば休日だからなのである。
『おつかいよろしくね』
(何良い笑顔浮かべてんの!?馬鹿なの?)
「日比野さん?」
(「おつかい」じゃねーよ後輩だよ顔綺麗なのが逆に腹立つ!)
「あ、あのー…」
「っ…何なのもう!」
改めて思い出すと腹が立って来た麗の耳には、所々に挟まれているとある声が入っていない様である。それだけ周りが見えていないと言う事なのだが、これでは勇気を振り絞って声を掛けた人物があまりにも不憫すぎる。ふと痺れを切らした彼女はその声の方へ思い切り振り向いて声を荒げた。そこで発された悲鳴にも聞こえる声は紛れもなく沢田のものだったのである。
「…さ、沢田君?」
「お、お久し振りです……日比野さん」
「……ご、ごめん!全然気付かなくて!いつからいたの?」
「『ほんっと有り得ない……!』って所から、です……」
「最初じゃん」
はっと我に返った麗の視界に入ったのは、びくびく、と言った風に頭を抱えている沢田の姿だった。恐る恐るこちらを見上げるその姿は酷く庇護欲を駆られ、思わず手を握って謝罪の言葉を口にしたのだ。その後、その場に響き渡ったのはべしゃ、と言った誰かが転倒する音である。二人して地面を見下ろせば、そこには大きな身体が寝そべっていた。
「ど、どちら様?」
「ディ、ディーノさん!何寝そべってんですか!」
「いや、今日は良くコケるんだよ。何でだと思う?」
「部下がいないからだって好い加減気付いてくれません!?」
「部下?」
「あ、いや…あの、えっと」
ケーキの箱を抱えて、麗は思わずしゃがみ込む。その隣では沢田が寝そべっている男を何とか起き上がらせようと腕を引っ張っていた。知り合い、だろうか。ふとがばっと顔を上げたその男は楽しそうに笑いながら沢田にそれを向けていた。部下、と言う事は社長さんか何かなのかな。限りなく一般人である彼女はそこまでの考えにしか及ばないのだ。
「ツナ、この子は?」
「え、あ、同じ中学の…」
「日比野麗と言います。沢田君の友達です」
「そっかそっか!」
「…で、あ、あの、ディーノさん」
「ん、何だ?」
ディーノは地面に寝そべったまま、笑みを浮かべて問いを投げ掛けた。その表情は凄く良い笑顔だ。しかし、体勢が悪かった。何故寝そべったままなのだろうか。それに対して突っ込みをしてくれたのは沢田で、これ程「ありがとう」と言いたくなった時は無いだろう。
「好い加減起き上がりましょう」
「へえ、ディーノさんってイタリア人なんですね」
「ああ」
「それにしても、日本語お上手ですよね」
「仕事の関係で外国語が必要なんだ」
「…日本にはお仕事で?」
「まあな。あと、ツナにも会いたかったし」
「……沢田君って生粋の日本人だよね?」
「り、リボーンの知り合いなんだ!」
「へえ……リボーン君の人脈ってすごいねえ。大人みたい」
「あ、あははは……」
道の真ん中から移動した麗らはバルコニーになっている喫茶店に腰を落ち着かせ、紅茶を啜った。彼女の傍らには雲雀に頼まれたケーキが入った箱が置かれているが、もはやその優先順位は最下位である。そんな優雅な空間で展開される会話は端から見ればただの世間話だが、沢田は冷や冷やして仕方がなかった。目の前に座るディーノと言う男は容姿端麗の金髪と言った、所謂「イケメン」と呼ばれる部類の人物である。しかし、その正体はイタリアンマフィアのボスなのだ。日比野さんにだけは絶対バレてはいけない。リボーンにシバかれる。あいつは女には紳士なのだ。寧ろ殺されるかもしれない。
「そう言えば日比野さん、その箱って…」
「雲雀先輩に頼まれたケーキだよ」
「え"っ…早く行かなくて良いの?」
「いやあ…もう良いかな、って…」
「怒られない……?」
「机に置いて速攻退散しようと思ってる」
「危なくない?」
「……慣れって怖いよね」
遠い目をしていらっしゃる!その時に沢田が思ったのはその一言のみだったと言う。
「『雲雀先輩』って誰だ?」
「この町はそのヒバリさんが牛耳ってるんですよ」
「お坊ちゃんですし、風紀に対してはガチ勢ですからねえ。ほんっと気持ち悪い」
「日比野さん今のガチトーンだったよね!?」
「牛耳ってるって、そいつ強いのか?中坊だろ?」
「常に武器持ってるんですよ。戦闘狂と言うか、何と言うか…」
「へえ、面白いやつだな!会ってみてェ」
「ディ、ディーノさん!止めた方が…!」
「良いかもしれませんね」
「日比野さんまで!」
雲雀の存在を知らないディーノはきょとん、とした顔付きをこちらに向けて来た。しかし、麗と沢田の一連の会話を聞いたディーノは「面白い」と言いたげににやり、と口角を上げ、笑みを浮かべたのだ。それに便乗する様に言葉を紡いだ彼女を沢田は止めるが、その後に続いた言葉に再び心の中で突っ込みを繰り出したのである。
「将来、行動を一緒にしてたら面白いよね」
日比野さん、巷でそれを「死亡フラグ」って言うんだよ。
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