踏み入る勇気を讃えよ
※最新刊のネタバレを含みます。
「――補習組、動き止まってるぞ」
夏合宿三日目、本日も今までと特段変わる事は無く、早い時間帯から阿鼻叫喚な光景が広がっていた。予想していた事だが、何度目にしても漏れる苦笑を隠す事は難しい。この数日、身体や気力を酷使し続け、蓄積して行った疲労は特に、補習組――切島、芦戸、瀬呂、上鳴、そして砂藤――は顕著だった。身体は鉛の様に重いが、動かせない程ではない。しかし、動かしたい速度で動かないそれは予想以上にストレスでもあった。
「オッス……!!」
「すいません、ちょっと…眠くて…昨日の『補習』が…」
「だから言ったろ、キツイって」
この合宿、普通であれば10時就寝の7時起床なのだ。補習組はそれに加え、通常ならば学校で受ける筈の授業をこの場で受けている。合宿のメイン自体を削る訳にはいかないため、泣く泣く睡眠時間を削る羽目となったのである。ショートスリーパーでもない限り、5時間睡眠で最高のパフォーマンスを保つ事は難しいであろう。しかし、合宿内容自体を甘くしては本末転倒。よって、身体を酷使して貰う他に術は無いのだ。
甘やかすつもりは無い。なぜそこまで疲れているのか、よく考え、新たな目標を作り、それに向かって行動すること。それさえ糧にして欲しいからこうして声を荒げている。それは補習組に限った話ではない。少しでも隙を見せればみな、現状からずるずると落ちて行く。落ちる時は一瞬だから。そうならない為に、そうなった奴らさえ救い上げるため、俺は嫌われ役となる。ここまで気張らせるのはなぜか、それは――、
「――死なせない為だよね」
相澤の言葉に続ける様な言葉が彼の鼓膜を震わせる。つい先刻まで誰も居なかった筈の隣には、何故かさつきが立っている。思わず目を丸くし、そちらに視線を向ければ、彼女の笑みは僅かに深みが増した。――伊達に濃い二年半を過ごした訳じゃない。しかし、なぜ今さつきが笑みを浮かべているのか、その確信的な理由が、相澤には分からないでいた。だが、それが分かるのが轟のみである事は理解している。皮肉な事だ、と目元に皺を寄せた。
「……なんでいる?」
「飲み物の配達。適度に休ませないと熱中症になっちゃうよ」
「…助かる」
誤魔化す様に口を開けば、そんな相澤には気付いていないのか、さつきは肩から斜めに提げたクーラーボックスを指差した。その中にはスポーツドリンクを始めとしたフレーバーウォーター、フローズンドリンクまで揃えられている。至れり尽くせりだ。その中の一つを彼に手渡せば、それは喉を通り、しっかりと水分を身体中に染み渡らせて行った。その一通りの行為を眺めていた彼女は僅かに眉を下げ、もう一度口を開く。
「ここまで急ピッチで進めるの、いつまでも守れる訳じゃないからだよね」
「……あまりに聡いのも考えものだな」
「見逃してよ」
「…ヴィラン連合の動きが気になる。お前が話したいらしい事も。…まだ話さねえか?」
「……もうちょっと」
それは、相澤の図星でもあった。そんな心中を誤魔化すよう、溜め息を零す。そして、慰める様にさつきの黒髪を軽く撫で回した。――元々、深海がここに来た理由が「話したい事がある」と言うのは知ったものだが。その全容を、こいつは未だに口にはしない。話す気がない訳ではないと思う。まるで、何かの決心が鈍っているような、そんな感覚さえあった。そこに踏み入る事が出来ない俺は、やはり、深海の苦しみすべてを手にする事は出来ないのだと悟った。
「……と言うかお前、仕事は?」
「これでもう終わり。見てて良い?」
「岩陰にいろよ。昨日みたいに巻き込まれんぞ。まあ、自分から巻き込まれに行ったも同然だけどな」
「喧嘩売ってる?」
休憩時間はもう少し先だ。しかし、さつきがそこから動く気配は無い。どうやら彼女の仕事は飲料配達で終わるらしく、折角なのでこの場に留まりたい、との事だ。そんな彼女からの申し出に軽く肩を下げ、相澤は近くにある岩陰を指差した。地面が異様に出っ張っているそこは、真夏の灼熱地獄の中でも天国の様な場所である。そこに座ると、ひんやりとした感覚に包まれた。暫しの間、癒しを楽しんでいると、隣から「水」と言った要求の声が響く。クリーム色の尖った毛先が風に靡いて、それが存外柔いものである事を知った。
「もう休憩?」
「怠くなりゃ休む。筋肉を壊し続けても良い事なんざ一つもねェだろ」
「…なんでこっちに来たの?」
「悪ィか」
「わたしと喋ったら絶対言い合いになるのにな、と思って」
「そりゃてめェが突っかかって来るからだろうが…!」
軽い衝突音を響かせて座り込んだ男――爆豪――は半ば奪い取る様な形で手に取った飲料を、喉へと流し込む。よい塩梅の甘さは、溜め込んだ疲労を吹き飛ばしてくれている様な気がした。そんな彼を軽く覗き込む様な形で、さつきは黒髪をひと房、膝小僧へと垂らす。汗と太陽光の反射で煌めく頬は、同級生には出せない色だと感じた。その姿を横目で見下ろして、喉を鳴らす。――
他人の神経を逆撫でする奴だな、と思った。
「……爆豪くんさあ、本当デリカシーないもんね」
「ア"ァ!?」
「焦凍くんが爆豪くんみたいな性格だったら、あそこまで拗れてなかったかな」
馬鹿だな、と
嘲笑ってやりたくなった。どれだけ思っても変わらない事に追い縋る弱さも、それを俺に言いやがる無神経さも心底理解できねえ。ボコボコの地面を指でなぞりながら、時々視線を俺に向ける。それが妙に試されているようにも思えて、俺は思わず顔を歪めた。天然が過ぎた馬鹿もお前も、似た者同士でお似合いだよ、と吐き捨てたくなったが。それを言わなかった俺の度量を誰か褒めやがれ。
「…………お前、やっぱりクソだな」
「な、なにが」
「どうせ無自覚なんだろうから言ってやるが、てめェの相手はあいつ以外無理だろ」
「ど、う言う…」
「あいつ離れしたい、だとかアホみてえな事を考えてるのかもしれねェが、――出来る訳ねえだろバァカ」
「ば、バカ!?」
酷く蔑む様な爆豪の視線に、さつきは僅かに声をどもらせた。驚きだけではない、図星を突かれた事に感覚が敏感になってしまったのである。しかし、彼の言葉は真意であり、限りなく正論であった。次々に浴びせられるそれと暴言は彼女の精神を蝕み、それと同時に羞恥さえも煽られて行く。その事に気付いてもなお、距離を縮める目の前の後輩は垂れた黒髪を軽く掴み、僅かに引き寄せては睨み付けた。
「――諦めろ。お前は一生だれかに守られる」
そう言った爆豪くんは少しだけ、優しい
瞳をしている、気がした。
「オールマイトに何か用でもあったのか?相澤先生に聞いてたろ」
「…うん。洸汰くんのことで…」
「洸汰?誰だ?」
「ええ!?あの子だよ。ホラ、えっと…」
日中の訓練も終了し、本日も草臥れた身体を使い、夕飯作りに取り掛かる。今日のメニューは肉じゃがだ。煮込む時間が若干のネックにはなるが、温かく、出来立ての物を食べるだけで緊張した身体は弛緩して行く様な気さえした。――その途中、轟は緑谷に声を掛ける。何時もよりか影が見えるその表情に覇気は無く、酷く分かりやすいものとなっていた。そんな緑谷は周囲を見渡すも目当てのものは見当たらなかったらしく、思わず瞳を伏せる。
この男は、時々とても傲慢なものの言い方をする。人が人の為に出来る事なんて微々たるものでしかないのに、すべてを掬い上げる気でいる。「私が来た!」と言い張るオールマイトでさえ諦める部分はあるのに、こいつの執着には目を
瞠る。それが少し恐ろしくて、少しだけ、羨ましかった。でも、断定できない俺は簡単な言葉しか口に出来ない。
「…………場合による」
「っ…そりゃ場合によるけど…!!」
「――素性もわかんねぇ通りすがりに正論吐かれても煩わしいだけだろ。大事なのは、『何をした、何をしてる人間に』言われるか…だ。言葉単体だけで動くようなら、それだけの重さだったってだけで…言葉には常に行動が伴う…と思う」
轟もあの時、あの場所で満身創痍の緑谷に言われなければ炎は出さなかった筈だ。あの状態の緑谷であったからこそ届いたものがあった。行動と共に送られた言葉だから、轟の諦念が少しだけ顔を隠したのである。――丁寧に、言葉を選ぶ様に話す轟は酷く朧気だ。しかし、それは彼の処世術になるに違いない。そして、それは緑谷の心を撃つのである。多くの事柄を掬い上げて来たオールマイトの言葉だからこそ、緑谷は今、ここに居るのだから。
「…そうだね。確かに…通りすがりが何言ってんだって感じだ」
「お前がそいつをどうしてえのか知らねえけど、デリケートな話にあんまズケズケ首突っ込むのもアレだぞ。そういうの気にせずぶっ壊してくるからな、お前。意外と」
「…なんかすいません……」
「…あと、そう言う話題は俺よりもさつきの方が分かる、と思う」
「……深海先輩?」
「あいつもこの現行社会を嫌ってるから」
その後に「憎んでいる」「絶望」と単語を羅列した轟は、何処か複雑な様子でもあった。そんな彼の様子に思わず眉を下げる緑谷ではあったが、目の前の轟の気持ちを全て理解した訳でもない。――あの時、
敵を倒したあと、微笑んだかと思えば思い切り泣き出したさつきに、緑谷は困惑したのだ。怖かったのか、轟と仲直り出来た事がそれほど嬉しかったのか。事実、その中に正しい理由は無かったのだが、それを聞く事は終ぞ叶わなかった。
「……大丈夫だ、あいつはそんなに怖い奴じゃない」
「へ…」
「もともと面倒見は良い人だから、そうやって悩んでる奴を放っておけないんだ。…だから、ちゃんと聞いてくれる」
「なんだか、…ヒーローみたいだね」
何処か戸惑いがちな緑谷を見兼ねたのか、ふと軽い笑みを漏らし、轟はゆるり、と瞳を細めた。――きっと、これからもきっと、色んな奴に誤解されて行く人だ。そう言う運命なんだろうし、そう言う色の人生だ。でも、そんな人であると俺だけは、せめて俺だけは分かり続けたい。傲慢だって言うか?……いいよ。そうやって、俺に向かって
微笑うあんたがすきだ。もう少しだけ弟として、幼馴染としていさせてくれ。あんたが前を向いたらもう一度、手を伸ばしてみるから。
「――俺の、唯一のヒーローなんだ」
ふわり、太陽の光をたっぷりと浴びたシーツを両腕に抱え込み、それらは風に靡く。真夏と言う事もあり、夜風でさえも生ぬるい。長く垂れる黒髪が風に遊ばれると、少女――さつき――はそちらに目を向けた。昼間の快晴の甲斐もあって、夜空には雲一つない。――その筈だった。視界の端が捉えた黒い靄はさつきに疑念を抱かせ、時間が経つ度に、それはただの現実へと変わって行く。こちらを覆い隠さんとするその動きに、彼女は思わず目を丸くした。
「山火事…?」
『――皆!!』
次第に広がって行く蒼炎はさつきの視界を独占し、言いようのない焦躁を生み出して行く。その瞬間、脳内に響いたマンダレイの声も酷く焦りを孕んでいた。――マンダレイの個性の一つである「テレパス」は、己の言葉を他人へと、一方的に伝える事が出来るのだ。ただの伝言ではない、明らかに聞いた事のない色を含んだ声は、さつきに危機感を抱かせた。そして、己が思ったよりも危機へと近くなっていた事に気付いた瞬間、その背に掛けられる声があったのである。
「深海!」
「相澤ちゃん…!」
「お前、中入ってろ」
「でも、
敵が出たって…」
「知ってる。だから早く、――」
「――逃がす訳ねェだろ、イレイザーヘッド」
目の前の火災を呆然と見つめるさつきの肩を掴み、相澤は彼女を室内へと促した。しかし、その足を止める一声がその場に響き渡る。ピアスの隙間から覗く白い歯は酷く厭らしく歪み、それは確かに彼女らに向けられていた。宿舎内に居るブラドを呼び付けようと声を張り上げるが、それさえも遮る様に男――荼毘――は手を差し伸べる。そこからは蒼炎が溢れ出て、二人の姿をゆうに包み込んだ。
「邪魔はよしてくれよ、プロヒーロー。――用があるのはお前らじゃない」
そう言って楽しげに嗤う荼毘の目元は、ただ前を見据え、泣いていた。
同時刻、肝試しの最中であった轟と爆豪は、森の中で火災に見舞われていた。穏やかな夜風が吹くせいで火は簡単に燃え広がり、夜空一面に黒煙が舞っているせいでむやみに飛行は出来ない。そのため、酸素の薄い地上を歩いて行くしかないのである。しかし、轟の背には気絶した円場が居る。眉を顰めたままの状態を見ると、あまり長時間ここら周辺に滞在するのはいただけないようだ。涼しい夜であった筈の現在、轟と爆豪の額には、暑さと焦燥によって汗が垂れる。
「くっそ…!!」
「このガスも敵の仕業か。他の奴らが心配だが、仕方ねえ。ゴール地点を避けて施設に向かうぞ。ここは、中間地点にいたラグドールに任せよう」
「指図してんじゃね…」
悪態を垂れていても状況が良くなる事は無い。しかし、現状の全容を把握しきれないため、ただただ歩を進める事しか術は無いのだ。――森の中を道なりに歩いていると、ふと黒い人影が爆豪の視界に映る。半ば蹲るその姿から、健康的な生気を感じ取る事は出来なかった。それどころか、爆豪の目にはもう一つ、見るべきではないものを映してしまう。その事に気付いてしまった爆豪は、先程よりも紅い瞳を丸くさせた。
「おい。俺らの前、誰だった……!?」
「――きれいだ、きれいだよ。ダメだ、仕事だ。見とれてた。ああ、いけない……」
「常闇と…障子…!!」
「きれいな肉面。ああ、もう、誘惑するなよ……。――仕事しなきゃ」
「交戦すんな、だぁ……!?」
恐らく、こちらには気付いている。しかし、その興味は全て地面に転がる、千切れた片腕に注がれていた。断面からは円状に血が広がり、無理矢理奪った事は明白である。だが、気紛れにも思い出させてしまった使命は、その男の上体を起こし、こちらへと視線を向けさせた。口元のみを露わにした彼は全身に拘束具を嵌められながらも、確かにこちらに敵意を持つ。そして、それに冷や汗を垂らす爆豪は、恐らく逃げられぬであろう事を悟ったのだ。
数分前、さつきと相澤が荼毘と接触した瞬間、宿舎の玄関は一瞬にして蒼炎に覆われる。しかし、あまりに強大な個性にも限界はあるらしい。微かに焦げ臭い香りを纏わせながら、荼毘は楽しげに軽く上を見上げた。「プロだもんな」と自嘲気味に吐き捨てる荼毘の視線の先には、彼女を抱えながら捕縛布を柵に巻き付けて体勢を整える相澤の姿がある。そんな男に向かって手の平を翳す荼毘に敵意はあるものの、何処か余裕を見せているように感じる事も否めない。
「――出ねえよ」
そんな荼毘に対し、相澤は捕縛布を突き出す。その一本は荼毘の上半身を拘束し、身動きを取れなくした。それを自らに引き寄せては接近する荼毘の黒髪を掴み、顔面に膝を打ち入れる。そして最後だ、と言いたげに、視界を奪う様にその身体を地面へと押し付けたのである。――その様子を、さつきはただただ眺める事しか出来なかった。己の父(と言うのも憚られるが)も、こんな風に
敵を制圧していたのだろうか、だとか。今となってはその男も立派な
敵であるし、悲しいとも思わなくなったけれども。
「目的・人数・配置を言え」
「何で?」
「――こうなるからだよ」
あまりに冷たい視線で荼毘を見下ろしながら、彼の左腕を無情にも折る。夜風に靡く木々の音、二人の声音のみが響き渡るこの場では、痛々しいその音がやけに響いた。その際に零れた声にならぬ悲鳴にも眉一つ動かさず、相澤は情報を吐き出させる事に一直線である。――おそらく、これが「アングラ系ヒーロー」と呼ばれる所以であろう。オールマイトとはあまりにも対称的な所業に、さつきは思わず眉を顰めた。
「次は右腕だ、合理的にいこう。足までかかると護送が面倒だ」
「焦ってんのかよ?イレイザー」
容赦のない言葉を贈る相澤に、煽る様なそれを口にする荼毘は未だ、燻る蒼炎を僅かに溢れさせた。それを抑え付ける様に右腕さえも折った瞬間、遠方にて何やら爆発音が轟いたのである。それだけならまだ良かった。しかし、その直後に現れた飯田、峰田、口田、そして尾白ら生徒に気を取られてしまった事を隙に、荼毘は相澤の股下から抜け出したのだ。両腕の不自由と言うハンデを負わされても、なお消えぬその笑みは酷く厭らしく見えた。
再び個性を消し飛ばした相澤は、荼毘へと続く捕縛布をもう一度引き寄せる。しかし、敵の身がこちらへと近付く事は無かった。「生徒が大事か?」と言った煽動の言葉と共に、荼毘のそれは脆くも泥の様に崩れ去ったのだ。
「守りきれるといいな……。また会おうぜ。――さつきちゃんも、またな」
僅かに柔らかくなった声音にさつきの身体は固まった。その数瞬の間に液状となり、蒸発してしまった荼毘に何かの言葉を掛ける事も叶わず、彼女は灰色の瞳を大きく見開いている。――恨みの籠った透き通る目じゃない、少しだけ残った倫理観に貫かれた気さえした。わたしの事を「さつきちゃん」と呼ぶ人は数少ない。成田と、プッシーキャッツさん達。そして、今の今まで消えていた。一週間、ずっと側にいてくれた。いつだって愚痴ばかりだった、口の悪い初めてのおともだち。
「――燈矢くん」
「あーダメだ荼毘!!おまえ!やられた!弱!!ザコかよ!!」
「もうか……。弱えな、俺」
「バカ言え!!結論を急ぐな、おまえは強いさ!この場合はプロがさすがに強かったと考えるべきだ」
全く要領の得ない叫びを羅列する覆面の男――トゥワイス――は液状化した筈の荼毘と共に居た。トゥワイスの支離滅裂な発言の数々を全て聞かなかった事にしては、やはりニヒルな笑みを絶やさない。それはこれから
歪を描くのであろう現行社会と、すぐに訪れるのであろう待ち望んだ再会が最たる理由である。――常に熱い身体が、ひと際熱を帯びた気がした。それが、生きている事を明確に教えてくれている。
「もう一回俺を増やせ、トゥワイス。プロの足止めは必要だ」
「ザコが何度やっても同じだっての!!――任せろ!!」
久し振りに呼ばれた名前にどきり、とした。だが、それ以上に興奮した。十年以上も共に暮らした家族よりも、たった一週間しか過ごさなかった友だちが先に気付くんだぜ?あまりの滑稽さに腹を抱えたくなった。血の繋がりなんてそんなものだ。なァ、分かるだろ?さつきちゃん。あんたが一番分かるはずだ、かわいそうな子ども。だから俺はあんたが好きだよ、さつきちゃん。――トゥワイスの返答に笑みを深めた荼毘は「それに」と言葉を付け足し、再び唇を動かす。
「――念願の逢瀬だ。邪魔はさせねえよ」
そう言って煌めく目は、決して愛なんかではなかったけれど。