三年越しの理解者は求めた
「あっれショータァ!帰んねえの?」
「用事」
「例の子?」
「ああ」
「長いよなァ。今年で何年目?」
「三年目だな」
動と静の会話も束の間、その間に響くのは「相澤ちゃん」と呼ぶ幼ささえ孕んだ声音である。一日に一度だけ、その声の主――さつき――は職員室を訪れる。この二年と少しで随分と見慣れたその表情は、入学当時と何も変わりはしなかった。全てを諦めた様な表情に全てを見下す視線、しかし、しっかりと伸びた背筋は生きる事を諦めてはいない様だ。残業を心に決めた教師陣から生温かい、何処か同情染みた視線を向けられるも、さつきがそちらに向く事は一瞬たりともなかった。
「相ッ変わらず深海はクールだねェ……」
「相変わらず過ぎた声量ですね。個性だからすべて許されるんですか、尊敬します」
「……ちょっとショータほんと何この子!」
「お前が『来た』とか言うからだろ」
マイクはさつきを見下ろし、視線をそちらに向ける。しかし、彼女の好奇心は煽られない様で、床に冷たい視線を注いでいる。それに加えて紡がれる言葉は彼の怒りを誘う様に淡々と、その空間に響いた。――「早く行こう」と言うさつきの言葉を皮切りに、相澤は彼女と共に職員室を後にした。放課後になると、生徒はさっさと帰宅するか、自習室や工房に籠るか、の二択になる。そのため、日中ならば雑音に包まれる廊下も静寂に包まれ、ただ夕陽の光に纏われる。そんな中で響くさつきの声はか細く、常に迷いを孕んでいた。
「今日は何をするの」
「1対1」
「二年の後半から増えて来たよね。マイブームなの?」
「違う。教える事がねえんだよ。お前、呑みこみが早いから」
「……じゃあもう止めても良いのに」
「――嫌だ」
淡々と進んで行く会話にも、同年代の中でも群を抜いて大人びたその雰囲気にも、もう慣れた。愛想がない訳ではないのだ。ただ、言葉の端々に諦念が浮かぶ。齢十八で抱く気持ちではないだろう。だからこんなにも気に掛けてしまうのだろう。そんな思いを抱く相澤は、確かにヒーローだった。――明確に否定を示した相澤の声に、さつきはぱちくり、と瞬きを繰り返す。その時、初めて視線が絡み合った。
――ああ、やっぱり似ている。本人には言えねえが。言えばきっと、泣かせてしまうだろうから。
「……そんな、喰い気味に答えなくて良いよ」
「…してない」
「本当かな。相澤ちゃん、結構ごまかす癖があるから」
「誰も気づかねえんだから良いだろ」
そう言って溜め息を吐くと、深海は一瞬だけ喉を震わせて「うそつき」と言った。きっと、笑ったんだろう。けれどこの二年間と少し、その顔を見せてくれた事は一度たりともなかった。やはり俺も、ヒーローとして見られているのだろうか。まだ、大人は信じられねえか。きっと、俺はお前の身体を、儚い心を壊す事は一度たりともねえぞ。――なあ、深海。俺はいつになったら昔のお前が残るその髪、触れる事を許される?
事件発生当時から名前だけは聞いていたものの、俺が深海さつき個人を認識し始めたのはあいつが雄英高校に入学してからだった。あの「一家殺人未遂事件」がヒーローによるものと言う事で、ヒーロー業界でもしばらくは話題になっていた。そんな話題の生き残りが、恨んでいるはずのヒーローを数多く輩出して来た雄英にやって来たんだ。注目しない訳がない。しかし案の定クラスは普通科に入ったようで、落胆する者も多かった記憶がある。
4月の数週間は平和そのものだったが、それが騒然とした空気に変わったのはその後だった。ある生徒が例の事件を碌に調べもせずに深海を「人殺し」呼ばわりし始めた。決してあいつが人を殺した訳じゃない。寧ろあいつは被害者だ。少しばかりの同情も否定は出来ない。この場で騒ぎを静めた方が合理的だった。それが出来なかったのはあの時、あいつが悲しく、苦しく、しかしそのすべてを背負い死んで行くような、そんな笑みでその場を静めてしまったからだ。――そんな、今にも消えちまうような表情をしちまうお前は、今までどれだけの我慢をして来たんだろう。
GWも過ぎて蒸し暑くなって来た頃、校舎裏に呼び出されている深海の姿を見かけた。明らかに内緒話をしに来た友人同士ではなかったし、告白現場でもなかったろう。そう判別できたのは、空気を割るように響いた「黙ってねえで何とか言えよこの人殺し!」と言う言葉が聞こえて来たからだ。――明らかに度が過ぎていた。耳が痛くなる程の人格否定だ。見ていられなかった。俺はすぐさま校舎から飛び降り、男子生徒の胸倉を掴み上げる。
『――お前言って良い事と悪い事の区別もつかねえのか』
『っ、い、イレイザーヘッド…⁉』
『歪んだ情報をいつまでも鵜呑みにしてんじゃねえぞ』
『ひ…っ』
掴み上げた胸倉をきつく締め上げる。ビビったそいつらは顔を蒼褪めさせながら尻尾を巻いて逃げてった。ちらりと深海の方を見ると、ぱちくり、と目を大きく瞬かせている。初めて見る表情に、多分、俺まで同じような表情になっていたはずだ。しばらく何もない時間が過ぎて行った。もしかしたら、たったの数秒だったのかもしれない。我に返ったように深海の様子を確認した俺は、ようやく口を開いた。
『深海、大丈夫か』
『…………えっ、あ、はい。……ありがとう、ございます』
『…なんで言い返さねえんだ』
『――事実なので。それに言っても無駄だって、教えられて来ましたし』
あの騒然とした空気を一瞬で静めたあの時と同じ笑みだった。どうやらその表情は何かを諦めた時に出るもののようで、無意識らしかった。充分な愛情をもって生きて来れば、まず出ないものだろう。その時、俺はある可能性を悟った。――また、無言。どうにもいたたまれなくて、俺は普段ならば絶対に言わない事を深海に告げていた。それが同情である事も分かっていた。けれど、どこかでこいつは拒絶はしないんだろう、と確信していた。
『――放課後、時間があるなら職員室に寄れ』
残業と言うものは非合理的なものだ。それゆえ、ヒーローになってから、雄英高校で教師として働き始めてから、俺は残業とやらをした事がなかった。しかし今日初めて、それをしてしまった。それもすべて日中の自分の発言のせいだ。深海の存在は俺が一方的に知っていただけで、しかもそのきっかけは深海にとっては不名誉なものだろう。それに加え、初対面の人間に勝手に約束を取りつけられてしまったんだ。俺だったら帰る。――しかし予想とは反し、深海は来た。ご丁寧に入り口で俺の所在まで聞いてやがる。
『…帰ったのかと思ったが』
『……教師にあの言葉を言われて帰る猛者は心臓に毛が生えてるんじゃないですか』
『お前結構言うな』
『言い返さないのか、って聞いて来たのはあなたでしょう』
授業もすべて終わらせてやって来た深海は、どこか安心した様子で鞄を持ち直す。肩の荷が下りたような、そんな様子でさえあった。――当たり前か。聞こえるような悪口や陰口を言うやつらがいねえんだから。俺までもが安心したように言葉の応酬を楽しんでいると、肩に重さが増えた。……耳元でうるせえ。顔を見なくても分かる、学生時代から隣でぎゃんぎゃんうるさかった現プレゼント・マイク――山田ひざし――だろう。
『職員室で待ち合わせとかやるじゃんショータ!なになに、禁断の恋!?』
『てめえなに言ってんだ。俺を懲戒免職にさせたいのか』
『…相澤先生、お借りしても良いですか』
『エッ、アッハイ。……え、マジでそう言う関係?』
『声消すぞ』
『ごめんなさい』
相変わらずこいつは好き勝手に話を進めやがる。俺を無職にしたいのか、と一瞬考えはしたものの、どうやら違うらしい。そんな流れをぶった切った深海は、真っ直ぐな瞳をマイクに向ける。聞いているくせして疑問符は無かった、拒否権なんぞは与えていないらしい。――俺が「行くぞ」と声をかけると、深海は従順になる。後ろではマイクでは手を振っていたが、それを見る事は最後までなかった。
重症だな、と思った。目に見えるすべてが信じれないのだろう。すべてが悪意に見えるのだろう。しかしそうならば、いま、こいつの隣にいる俺は一体なんなのだろうか。それを聞く事は終ぞ叶わず、目的地であるテラスへと到着した。深海の様子を盗み見ると、意図が分からない、と言いたげに目を丸くしていた。――俺の前では表情豊か、なんだよな。
『――まあ、取り敢えず座れ』
『いや、あの…』
『こんな時間だ。誰も来ない』
そうして会話を終わらせると諦めたのか、深海はすとん、と椅子に腰かける。なにを飲む、と聞けば、小さな声で「紅茶」と呟く。しかし味を聞き忘れてしまったので角砂糖とレモン、蜂蜜を持って来たが、ストレートをご所望の様子だった。申し訳なさそうな顔をさせてしまった事に、俺は思わず視線を逸らす。――数秒、こくり、と喉を鳴らした。すると、深海は意を決したように口を開いた。その声はやはりか細く、常に悩みを抱いたものだったように思う。
『……あの、どう言うつもりですか?』
『なにがだ』
『こんなところに呼び出して。わたしが学校で何て呼ばれてるか、知らないわけじゃないでしょう』
『――『人殺し』だったか?』
『いちいち言わなくて良い!分かってる!』
『分かってねえ。『人殺し』じゃないだろ』
『どうして分かるんですか……』
『……調べた』
俺がそう言った途端、深海はかっとなったように椅子から立ち上がった。怒りしか見えないその顔は、初めて見るものだ。――本当に、俺の前では表情が豊かだな。カチャ、と音が鳴り、少しだけ紅茶が零れる。熱いはずなのに、深海は、そちらには一切目を向けなかった。身体の震えを無理矢理抑えつけて、深海はもう一度椅子に腰かける。表情は見えなかった。怒りと涙を必死に堪えているのだろうか。ヒーローなんかに負けてたまるか、とこの先も恨みだけを生き甲斐にして行くのだろうか。
『けど、調べる度に分からなくなった。事件の全貌も、お前の事も、――深海拳人の本性も』
『え…』
『あいつは俺たちプロヒーロー達の後輩だ。直属の後輩だ、っつう仲間だっている。けど、そいつら全員、深海拳人の人物像を説明できないでいる。…今もだ』
『……あいざわ、せんせ、い』
『もっと注視すべきだった。今言っても何にもならないが、お前は救けられる存在だったはずだ。…深海』
当時で言うと三年前、凄惨な事件が起こり、あまりの惨たらしさに報道規制まで行われた。その現場にいた深海は当時12歳、精神が壊れていてもおかしくなかったろう。そして同情ばかりの人生を送っている今、深海はようやく顔を上げた。壊れそうなほど涙を溜めて、溢れそうになる嗚咽を飲みこんで、ようやく俺と目を合わせた。――なあ、深海。お前は自分が、あの時なにも出来ずに殺されそうになった、弱い自分が許せなかったんだろう。笑顔の裏でずっと「救けて」と叫んでいたんだろう。それでもなお変わらない現実に、一番絶望してたんだろう。ずっと。
『な、んで、ヒーローのあなたが、それを言うの』
『悪いな』
『……ずっと痛かった、つらかった、です。でも、誰も救けてくれないの、知ってる、から』
『…うん』
『――でも、『私が来た』ってことば、わたしもずっと、待ってた、の』
堰を切ったように、深海の両目からはぼろぼろ、と涙が零れ落ちて行った。手の甲でせき止めようとしていたが、それでも止まらなかった。そして教師としている今、頭を撫でる事も出来ない。我慢を処世術としているこいつを殺す事も出来ない。ただ零れる涙を眺めて、三年分の本音を聞いてやる事しか出来なかった。それでも、ヒーローが嫌いなこいつでさえ待ち望んだオールマイトのあの言葉に、俺は目を見開いた。
『…………ああ』
その時、俺が言える言葉は何もなかった。
「――相澤ちゃん?」
さつきの呼ぶ声に、相澤は我に返る。その声が響く方向に視線を寄せれば、そこには彼と視線を合わせる一人の生徒の姿があった。肩口から覗き込むその表情に、悪意などは微塵も感じない。――ぱちくり、と瞬きを繰り返し、さつきの存在を再確認する。そして、気付かれない程に安堵の吐息を吐き出した。きっと気付かれてはいないはず。その筈なのに、目の前の彼女はゆるりと目元を細めてみせた。
「ぼうっとしてたでしょ」
「してない」
「まあ、この夕陽の明るさは眠くなっちゃうよね」
「きけよ」
相澤の事を「相澤先生」と呼び、他人行儀に敬語を使っていた時期から二年が経った。その間に大喧嘩をしたり、さつきが睦に付き纏われたりした。そして、さつきと相澤が師弟関係を結んでいる事が徐々に学校内へ広がり始め、少しだけ、さつきの居場所が出来た。分かりにくいさつきの笑顔を見る事が出来る様になったのはその頃だ。――決して短期戦ではなかった。だからこそ「気にかける生徒」から「大事な生徒」に変わった。こいつがまた泣くような事があれば、今度こそきっと、俺が。
『ここって…』
『ヒーロー科が使用するトレーニングルームだ』
『…わたし、普通科の人間なんですけど』
『俺が許可する』
テラスでひとしきり泣いたあと、俺と深海はトレーニングルームに移動した。運良く無人の時間帯に来る事が出来たようで、深海はそこまで遠慮する事もなく、この空間をきょろきょろ、と見渡している。――よほど物珍しいのだろう。普通科の人間であれば、まず入る事は無い場所だ。そんな深海の様子を横目で眺めては、溢れそうになる笑みを堪えていた。小さい頃に表に出せなかった好奇心を、今ここで溢れさせているようだった。そこまで考えたところで、深海は俺の方を向き、唇を動かす。
『……どうしてここに連れて来たんですか』
『お前に修業をつけようと思って』
『は?』
『…正直、お前に対して同情していなかった、と言えばうそになる』
『それは、まあ、……分かります、けど』
『けど、今は素直に手助けになりたい、と思ってる。だからお前に修業をつける。お前もあの時、力に負けそうになった自分が嫌いで仕方がないんだろ。でも、俺の修業で強くなれる。――強くさせる』
疑心暗鬼に俺を睨む深海は、人に慣れていない猫のようだ。けれどこいつは馬鹿ではない。そしてとても素直だ。だから、人から真剣に与えられる気持ちを無下には出来ない。真剣な目から気を逸らすような真似も、きっと出来ないだろう。俺はそこにつけこんだ。ヒーローを死ぬほど嫌うこいつが、誰よりも人を捨て置けないやつだと知ってしまったから。お前は、この目に応えてくれるだろ。
『一人で生きて行く為に俺を、ヒーローを利用しろ。嫌いだからこそヒーローを知れ。――ここをお前の居場所にしろ、深海』
『っ、……はい!』
誰だってヒーロー、その言葉はきっとお前にも当てはまるはずだ。
一年の頃から現在まで続く相澤との修業時間は一時間である。たった一時間であれど、プロヒーローが本気で打ち合ってくれるこの時間はあまりに贅沢だ。そんな時間が過ぎて現在時刻は午後五時。冷蔵庫の中は空に近かったため、そろそろスーパーに行かなければタイムセールに間に合わない。――相澤の拳から放たれる風圧や空気抵抗で渇き切った喉を潤すため、さつきは持参した飲料水を体内に流し込む。漸く一息つけたところで、トレーニングルームの扉が開く音が響き渡った。そこに現れたのは、見慣れない二人の男子生徒である。
「……あ?」
「相澤先生!?」
「緑谷と爆豪?天変地異でも起こりそうな組み合わせだな……」
「――と、どちら様でしょうか……?」
「……深海さつき。普通科三年」
「普通科の人間が何でこんなところにいやがんだ」
現れた二人――緑谷出久と爆豪勝己――は共にヒーロー科の生徒、及び相澤の教え子である。また、爆豪が常に緑谷に噛み付いており、二人で行動する事など夢のまた夢なのだ。1年A組の生徒がこの光景を見れば、騒然とする以外に選択肢は無いだろう。そんな二人が意識したのは、さつきの存在である。ヒーロー科では見た事のない顔に、爆豪は明確に敵対心を抱いている。その爆豪の問い掛けに、さつきはちらり、と相澤の顔を見上げた。
「俺が許可した」
「…………チッ」
「ちょっ、かっちゃん!先生と先輩に向かって舌打ちはだめだよ!」
「うッせェ!ちったァ黙りやがれクソデク!」
「そんなに喋ってないじゃん!」
「…………ねえ、この子たち本当にヒーローの卵なの?」
「問題児どもだ」
「相澤ちゃんかわいそ……」
「哀れむような目は止めろ」
少しは仲の悪さもマシになったかと思われたが、それはただの気のせいであったらしい。そんな光景を初めて目にするさつきは、呆れた様に緑谷と爆豪を指差す。プロヒーローから「問題児」呼ばわりされた二人のうち、爆豪は早速爆破を繰り返していた。――うるさい。けれど、マイク先生の声よりはマシかもしれない。アレはうるさいと言うより耳が痛くなる。どうでも良い事を考えているうちに、この騒動にも飽きて来た。そんなさつきは手早く荷物を片付け始めたのである。
「――相澤ちゃん、わたし帰るね」
「明日も忘れんなよ」
「分かってるよ」
「あっ、先輩!お疲れ様でした!」
リュックを背負ったさつきにぱたぱた、と近付いて来たのは緑谷だった。大きな瞳を瞬かせて、にこり、と笑みを浮かべて来る。先ほど会ったばかりの彼女に敬意を込めて「先輩」などと呼んでくれる、おそらく良い子。けれどやはり、幼少期に植え付けられた先入観は消えてはくれなかった。昔だったらきっと、笑みを返す事が出来たであろう。でも、もう難しい。だから相澤も彼女を止めはしないのだ。
「……ごめんね。わたし、ヒーロー嫌いなの」
「え…?」
「じゃあ何で雄英にいやがんだてめえ」
「か、かっちゃん…!」
「それ、きみに言わなきゃいけない?」
「――ア゛ァ⁉」
一瞬だけ顔を歪め、幼少期の名残である伸びた黒髪を靡かせる。きっと、ショックを受けさせただろう。しかしそれは緑谷に限られた話であったらしく、爆豪は再びさつきを睨み付ける。――似てる、と思った。そう思った途端、わたしの声は刺々しくなる。濁った声で威嚇されても、もうどうでも良かった。わたしに出来る事はただ、この子と関わらないでいること。そう結論づけたわたしは、わざとヒーロー志望の人間を怒らせるような事を口にした。
「――超人社会で英雄になる為に、せいぜい努力すれば良いんじゃない?」
「てめッ…待ちやがれクソ女!」
「また明日ね、相澤ちゃん」
「ああ」
この一言で、爆豪は見下されている事に気付いた筈だ。元々煽りの耐性がない男だ、すぐに逆上する事は目に見えていた。そんな彼の決まりきった文句を流しながら、さつきはトレーニングルームを後にする。そして、背中に相澤の溜め息を受けながら今日の献立に思考を巡らせたのだ。――室内ではおそらく爆豪のものであろう爆破音が響いており、扉が開いているお陰で防音壁は意味を成していない。
「――なッんなんだあの女はよォ……!」
爆破音と同時に唸った声に頭を悩ませる相澤の苦悩は、まだまだ絶えない。