016
「ここ、海賊島じゃない!どうなってるの!?」
「私たち、海賊に売られるのよ!」
船が停泊するや否や、人々は外の景色を見て騒ぎ出した。そこへ一人、冷静な面持ちで近づく少女がいた。
「みなさん!オベル王国を思い出してください。帰りたいはずです。素晴らしい国ですもの。そんな国を作っていたのは誰ですか?ここへ導いたリノ王です。王を信じましょう。あんなにやさしい国を作る王なんですから。」
少女の言葉で人々は落ち着きを取り戻し、甲板から離れた。
「そうね……不安で、どうかしていたわ」
「リノ王が、そんな卑劣な行為、するわけがないもの……」
そう口々に言いながら。
その光景を上の甲板から見下ろしていたリノは、隣にいる僕に言った。
「ああいうやつは必要だ。上の人間に好意的でありながら人々の側に立ち、心を動かせる人間……。多くの人間が集まると、どうしてもそれをまとめる人間――上の者が必要になる。しかしそういう場合、溝が生まれやすいからな。いい仲間を見つけたな、ラズロ。」
「はい……リルは、すごい人です。誰の心も、動かしてしまうから……。」
そう呟いた僕の言葉に、隠したはずの本心が滲んでしまったのだろうか。
「お前も、そうなんだろう?」
リノは不敵な笑みで僕をからかった。
ラズロたちが話し合いの為に海賊島に降り、数時間が経った。私は船の中を歩き回って過ごしていた。とてもわくわくする。ラズリルやオベル王国にいた時もそうだったが、いつも画面の向こう側から見ていた世界がいま目の前にあることを時々再認識して、高揚感で胸が張り裂けそうになる。
しばらくして私は船尾の甲板にたどり着き、延々と続く大海原を眺めた。
どれくらいそこで過ごしていたかわからなくなった頃、突然船室に続くドアが開いた。
「あぁっ!いた!」
飛び跳ねそうなほど明るい声がして、振り返ると、ジュエルが満面の笑みを浮かべて立っていた。
「リルちゃん!探してたんだよ!」
「え?」
私は多分目を丸くして、隣に駆け寄ってきたジュエルを見つめた。
「んふふ。改めて、あたしはジュエル。よろしくね!ジュエルって呼んで。あたしもリルって呼んでいい?」
「はい、もちろん。」
「ああもう!そんな他人行儀じゃなくていいよ!敬語なんて使わない!」
「う、うん。」
「よし!」
私が頷くと、ジュエルは満足そうにうなずいた。
「あのね、あたし、リルにずっと聞きたいことがあったの。」
「何?」
「リルって、ラズロのことが好きでしょう?」
「うん。だって、すごい人だもの。」
ジュエルは目をまん丸くした。
「……って、そうじゃなくて!ああびっくりした。あんまり素直に認めるから。でも多分勘違いしてるわ。あのね、あたしが言ってるのは、恋愛対象として、って意味なの。」
「そうだよね。」
「そう!で、どうなの?好きなんでしょ?」
「ふふ……」
「な、なに?その笑い……」
「ううん。」
思わずにこにこしてしまって、ジュエルが困惑しているのがわかった。その様子がおかしくて、また頬が緩んでしまう。
「もう、はぐらかさないでよー!ラズロのこと、どう思ってるの?」
「ラズロさんかあ……可愛いなあって」
「可愛い!?」
ジュエルはしばらく目を瞬いて、じゃあ!と身を乗り出してきた。
「じゃあ、タルのことは?」
「タルさん?面白い人だよね。」
「…じゃあ、オベルにいた頃お店に来てた、あのイケメンは!?」
「誰だろう?…トラヴィスかな?髪を一つに縛ってる?」
「そう、その人!」
「トラヴィスは…そうだなあ、面白くて、変な人!」
「……なんかもうわからなくなってきたわ」
ジュエルはがっくりと肩を落とした。
「……私ね、ラズロさんに誘ってもらった時、私はここへ来ちゃいけないって思ったの。」
「え?どうして?」
「私は戦いの役に立つことは何もできないし……足を引っ張って、ラズロさんにがっかりされたくなかった。」
ジュエルは黙って話を聞いている。
「だから、ジュエルが羨ましい。ラズロさんと対等で、同じ場所に立ってるから。」
「……やっぱりリル、ラズロのこと好きでしょ?」
ジュエルは私の顔を覗き込んだ。私は笑顔を浮かべて彼女の顔を見つめ返した。
「ふふ」