008
「じゃあ、頼んだよ。」
奥さんに渡された紙袋を丁寧に抱えて、私は頷いた。
「はい。」
騎士団に届け物をするのだ。中身は知らないが、奥さんは副団長のカタリナを訓練生の頃から知っているそうで、今でも交流があるらしい。
「悪いね、いつもは私が行くんだけど……」
今日は体の調子が悪いらしい。気丈な女性だけど、もう年輩だから、無理もない。
「いいえ、奥さんは休んでいてください。じゃあ、行ってきます。」
「気を付けてね。」
奥さんは頷いて、空を見上げた。
「一雨、きそうだからね……。」
奥さんの言うとおり、空の遠くに黒い雲が浮かんでいた。
騎士団の館の門に着くと、門番は見覚えのある青年だった。向こうも私を見つけて、あっ、と声を上げた。
「リルちゃん!どうしたんだ、こんなところで?」
「カタリナさんにお届け物です。」
「ああ、いつものか。郵便物はまとめて持っていくから、そこの箱に入れておいてくれ。」
「はい。」
指示された通り、門の傍に置かれた大きな木箱に、名前を書いた札をつけた紙袋を丁寧に入れた。それから門番に向かって会釈をし、宿に戻ろうと踵を返した。
そのとき――
突然、あたりに爆発音が響き、地面が揺れた。私はこらえきれずその場に膝をついた。
「リルちゃん!」
その私の腕をつかんだ人がいた。私は支えられ、何とか立ち上がる。見上げると、その人物はタルだった。
「あ……ありがとう…ございます……」
「町の方に逃げろ!館に近づいちゃだめだ!」
そう大声で言われたとき、遠くから、「リルちゃん!」とまた誰かに呼ばれた。振り向くと、市場の方から、女の子たちが私を必死で手招いている。
「彼女たちと逃げろ!」
「は……はい!」
私はタルの手から離れ、彼女たちの方へ駆け寄った。
「……無事で……」
背中から、タルの声がかすかに聞こえた。
皆で宿屋に駆け込んだ。宿屋のロビーと酒場は、驚くほどの人数で溢れかえっていた。広場にいたほとんどの人たちが宿屋に駆け込んだらしい。
私は少女たちを連れて2階の自室へ案内した。椅子を勧めたけど、彼女たちはみんな窓から外を眺めていた。それは私も同じで、のんびり座っている気分にはとてもなれなかった。
「うそ……!ねえ、館を見て。海賊たちが入り込んでる……!」
少女が震える声で言った。まだ町への門は破られていないようだが、それでもラズリルの中にあんなに大人数の武装した海賊が攻めこんできたことは、とんでもない恐怖だ。
「あんなにたくさん……どうしよう……どうすればいいの……?」
「大丈夫よ、騎士団が負けるはず、ないわよ……!」
少女たちは互いを慰め合うように言って、今にも泣きだしそうな顔を窓の外に向けた。
「ねえ!あの海賊船……!」
一人の少女が悲鳴のような声を上げた。その指す先を見ると、大きな海賊船が、砲門を港に向けていた。
「嘘でしょう……?まさか、島に向けて撃つ気……!?」
私たちは誰からともなく抱き合った。誰もが顔を真っ青にして。
しかし身構えた爆発音が響くよりも早く、刃物のように鋭い悲鳴がけたたましく耳の奥まで鳴り響いた。直後、腹の奥で太鼓を打ち鳴らしたような振動と爆発音がして、海上に浮かんでいた敵船が次々爆発し、座礁した。
「……なに……今の……?」
誰かが呆然と呟いた。
窓にはいつの間にか、灰色の雨が打ちつけていた。