006

食事を終えて、ラズロの案内でグレンの部屋へ行くと、カタリナが扉の前で待っていた。

「お疲れ様。さあ、入って。」

カタリナは扉を開けてキナを促した。そして、その後ろに立つラズロにも目を向けた。

「ラズロ、あなたも一緒に来てちょうだい。」
「…?はい。」

不思議に思いながらも、ラズロは従った。部屋には、グレンが窓際に立っているだけだった。グレンは、二人がやってきたのを見ると、「きたか」と短く言った。

「まずは哨戒と今日の訓練、ご苦労だった。…さて……ここの印象はどうだ?」

グレンに尋ねられたキナは、背筋を伸ばした。

「はい。規律を重んじながらも個人の意思を尊重されていて、いい意味で開放的だと感じました。みなさんとても親切ですし、これから2年間、ここで多くのことを学びたいと思いますし、それができると思っています。」
「そうか、それは何よりだ。」

グレンは頷いて、それからまた口を開いた。

「今日の訓練を見ていたが、どこか遠慮しているように見えた。本国で、その年で一人前の騎士、しかも紋章第4部隊に配属されるほどの実力があの程度とは思えない。次からは遠慮なく実力を発揮してくれ。その方が、他の者の修行にもなる。」
「はい。申し訳ありませんでした。」
「だが、さすがだな。お前のフォローは的確だった。」
「ありがとうございます。」

それから一息ついて、グレンはラズロにちらりと視線をやったが、またキナを見た。

「副団長と話したんだが、ここではお前の担当に、3ヶ月の間、ラズロをあてることにした。研修をするにしても、決まった担当がいたほうが何かと都合がいいだろう。」
「はい。ありがとうございます。」

キナは頷いて、ラズロに向き直った。

「よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」


***



ふたりがグレンの部屋を後にすると、中庭に出たところで、ジュエルとエルフの少女に出くわした。ジュエルはキナを見つけると、あっと声をあげ、笑みを浮かべた。どうやら、ジュエルはキナを待っていたようだった。

「あ、きたきた。キナー!こっち、こっち。」

呼び止められる心当たりがないキナは、不思議そうな顔をして彼女の傍へ行った。

「あ、この子はポーラよ。あたしたちと同期の見習いなの。」
「よろしくお願いします。」
「あ…キナと申します。よろしくお願いします。」

「ジュエル、どうしたの?」

不思議そうに尋ねたのはラズロだった。するとジュエルは思い出したように、そうそう!と声を上げた。

「いろいろ、キナに案内しようと思って。女の子じゃないとわからないこともあるでしょ?」
「そう……?じゃ、任せるよ。」
「うん、任せといて!」

胸を張って言うジュエルに、ラズロは頷いた。そして、キナを見た。

「じゃあ、また明日。」
「はい。ありがとうございました。」



***



ジュエルとポーラは、まず女子の宿舎内を案内してくれた。風呂や調理場など、共有スペースはキナにも使用が許可されているらしい。調理場は、きわめて簡易な設備だったが、簡単な料理なら不自由はないほどだったし、そもそも三食食事が出るので、あまり使うことはなさそうだった。
続いて、彼女たちは町も案内してくれた。若い女性向けの服やアクセサリーのお店、カフェ、菓子屋、それから小さな広場のようになっている公園。騎士団の女子たちは、休日、こうした場所で過ごすのが常らしい。
服屋に立ち寄った際、キナが興味をひかれたのは、その色鮮やかなワンピースやスカートだった。本国では、淡い色や暗い色の服が多かった。流行や採れる材料などの関係だろうか、ここラズリルでは、様様な色彩の華やかな服がたくさん取り揃えられていた。
キナは藍色地に赤い花の刺繍がされたスカートを手に取った。持っている白いブラウスに良く似合いそうなスカートだった。

「あ、そのスカートかわいい!」
「キナに良く似合いそうです。」

ジュエルとポーラの言葉に背中を押され、キナはそのスカートを購入した。ジュエルとポーラも、それぞれ気に入ったらしい服を購入した。

それからまだ門限まで時間があるという事で、三人はカフェへ立ち寄ることにした。カフェは、大通りの一角にたつ、小さな青い屋根の可愛らしいお店で、ここで今期間限定のケーキが大人気なのだという。
三人は窓際の席に通され、真っ白なそのケーキと、アイスティーを注文した。
真っ白なケーキは、タルト生地の土台に、ほのかにレモンの風味がするドーム型のムースが乗り、中には甘酸っぱいレモンピールとナッツが詰まっていて、上にはすりおろした粒状のチーズがまんべんなくかけられているのだった。
雪みたいだと呟いたキナに、ジュエルとポーラは興味を示した。彼女たちは雪を見たことがなかったのだった。

三人はそれから、それぞれの故郷の話や家族の話、好きな食べ物や嫌いな食べ物、いろいろな他愛のない話をして過ごした。陽はあっという間に沈み、走って館まで帰ることになった。門限にはなんとか間に合った。

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