007

 翌日、朝食を終えてからキナがラズロと合流し、館の中庭に出ると、ちょうどスノウがやってきた。今日は皆鎧はつけず、青いシャツに生成り色のズボンを履いている。キナも、白いブラウスに黒いスカートを履き、白いソックス、黒いローファー姿だった。今日、午前は座学だからだ。

「おはよう。」
「おはようございます。」

スノウと挨拶を交わし、3人は館の中へ歩き出した。

「そうだキナ、僕の父上が、今夜うちで食事はどうかと言っているんだけど……」
「スノウさんのお父様は、たしか、ラズリルの領主様でしたよね?」
「ああ、そうだよ。でも、気を使う必要はない。父上は、本国の話に興味があるそうなんだ。何人か友人がいるらしくてね。」
「はい……わかりました。今夜、伺います。」
「そうか、よかった。じゃ、今夜僕が迎えに行くから、門の所で待っていてくれ。」
「はい。」

スノウとキナの会話を、ラズロは聞いている風もなく、口をつぐんで二人の少し後ろを歩いているのだった。
教室に入ると、席は半分程度埋まっていた。教室内はすこしざわついている。スノウが、前の方の3人崖の席を指さして、「あそこに座ろうか」と言った時だった。

「あ!キナー!こっちよ!」

教室の中央ほどにある席にいた女子が、席を立ってこちらに大きく手を振った。ジュエルだ。隣にはポーラが座っており、3人崖の席は一つだけあいているようだった。

「女の子は仲良くなるのが早いな。ラズロ、僕たちは二人で座ろうか」

スノウがそう言ったので、キナはジュエルたちと座ることにした。

「スノウたちと来たんだ?」
「うん。団長から、ラズロが私の研修の担当につくように言われているの。」
「なるほどねー。じゃ、こっちに呼んだの、まずかったかな?」
「ううん。大丈夫よ、授業の座席まで一緒じゃなくても。」
「それもそうね。」

そう話の区切りがつくと、ジュエルは早速他のお喋りを始めた。それをポーラは相槌を打って熱心に聴いている。出会ったばかりのキナから見ても、彼女たちは良い友人のように見えた。



***



一日の訓練が終わり、キナは急いで自室へ戻ると、身支度を始めた。領主の家に行くのだから、服装にも気をつけなければならない。本国から持ってきた黒い膝丈の品の良いナイトドレスに着替え、髪をまとめ、薄くメイクをした。気取り過ぎず、かといって失礼でもないというくらいのドレスアップをし、キナは自室を出た。
すると、前方の扉がちょうど開き、ラズロが出てきたのだった。そこは彼の自室だった。
ラズロは、洗濯物を抱えていた。これから館の裏庭にある井戸へ行って、それを洗うのだろう、とキナにもわかった。
ラズロはキナの姿を見て、少し驚いた様子で立ち止まったが、すぐに調子を戻した。

「スノウと待ち合わせだね。」
「うん…。」
「僕も外へ行くんだ。」
「そうね。」

そう会話を交わすと、二人は自然に並んで歩きだした。何気ないふうを装ったような態度で、キナが呟いた。

「明日から卒業試験ね。」
「うん。早朝、集合だね。」
「そうよね。」

キナはどこかすっきりした表情でラズロを追い越して、振り返った。

「じゃあ今夜は早く帰って、早く休まなくちゃいけないわね。」

ラズロは少し考えるような微笑を浮かべ、頷いた。

「そうだね。」


中庭で二人は別れ、キナは門へ向かった。

「あの……」

キナが門番に声をかけると、門番は心得ているとばかりに微笑んだ。

「聞いてるよ。今日は門限は免除だ。」
「すみません。」
「いや気にするな。しかし、君も大変だな……」

門番はそう言いかけたところで、はっと口をつぐんだ。

「キナ。」

そう声をかけて、駆け寄ってくる人影があったからだった。それはスノウだった。

「すまない、待たせたかな。」
「いいえ。」
「……では、行こうか。」
「はい。」

どこかぎこちない様子で、二人は歩き始めた。その後姿を、門番は物言いたげな目で見送るのだった。

ALICE+